昭和の頃、あるときは成績が良かったから、またあるときは家柄が良かったからカイヘイへ行ったと言っていた昭和ひとケタ世代のオッサンのお話、その2です。
第1話「わしは、カイヘイにいったんじゃ!」はこちらから。
カイヘイのオッサンは自己顕示欲の強い人で、わしがわしがというところがありすぎました。
オッサンはなんと代々のクリスチャン一家で、日曜礼拝にオッサンの家族と共に私も教会へ連れて行かれたことがあります。
じつを言えば、私の親戚にこのオッサンの通う教会で昔ブイブイ言わせていた人がいました。
昔のことなので、教会のメンバーも牧師さんも交代しているのですから、よく知らなくて当たり前です。
それに身内の評価はまた違うので、私は偉いとも何とも思っていないのですが、オッサンはそのブイブイ言わせていた人と自分が親戚だといえば教会での「わしのステイタスが上がる」と思っていたようなんです。
もちろん、そんなふうに思っているのはオッサンだけで、教会でステイタスをあげるとか尊敬されたいと思えば、そんなことよりも真摯な気持ちでクリスチャンとして教会に奉仕するとか、その思い込みと自己顕示欲をどうにかした方がいいに決まっています。
しかしオッサンは、礼拝後あいさつ程度に牧師さんが私を見て、オッサンの娘の友達かと言ったのが気に入らないと、言ってみれば私をダシにして牧師さんに話をすると息まきました。
その日はブイブイ言わせていた人の娘にあたる、おばあさんも教会員で礼拝に参加していました。
オッサンは、いつもは知らん顔をしているのに(たぶん)、こういうときだけ礼拝後におばあさんに挨拶して、牧師さんにそのおばあさんと一緒になって、昔のブイブイ教会員と私の関係をがんがん話していました。
牧師さんは私が信者かどうかなどを知りたかったようで、何度もこちらを向いて笑顔で私に話しかけようとされましたが、そのたびにオッサンとおばあさんが自分とブイブイ教会員との関係の話をして遮っていました。
そしてその帰り道の車の中のことです。
なぜかオッサンは、先ほど会った親戚のおばあさんについて、「昔、進駐軍のPXであの人に似た人を見かけたことがあるが、あの人が働いていたのか」と聞くんですね。
私はおばあさんと親しくはないけれど、働いていた話など聞いたことはありません。
しかし親戚なので色々な噂話は聞いているから、そんなことをする人ではないと確信は持っていたので、「いえ違うでしょう、人違いじゃないですかね」とやんわりと言いました。
するとオッサンは、いきなり「なに言うとんや!」と怒鳴りつけました。
私はぎょっとしましたが、「確か恩給があったと聞いたし」とかろうじて言うと、オッサンは、「みんな働いてたんや!恩給なんてあっても雀の涙や!」とさらにヒートアップしてきました。
他にオッサンの家族が3人いたとはいえ、誰一人言葉を発する人はおらず、はっきりと証拠が出せないことについての話で、狭い車の中で一言二言言っただけで、急に怒鳴り散らされてはたまったものではありません。
そして何を言っても聞こうとせず、似ていた人を見かけたというだけの話だったのに、いつのまにか「あのおばあさんはPXで働いていた」ことにされてしまいました。
私はそれまでは、いくら取調室で何時間も尋問されたからと言って、絶対にやっていない無実の罪を認めてわたしがやりましたと供述書にサインしてしまう人の心理、一刻も早く終わらせたかった、この場から立ち去りたかったというのが全く理解できませんでしたが、この経験で瞬時に理解し共感出来てしまいました。
絶対に違うとわかっているのに、怒鳴られ続け否定されるのが嫌さ、早く終わらせたいがために、「それならば、働いていたのでしょう」と言ってしまったんです。
そしてそのことをいまだに後悔しているし、思い出すと悔しさがあふれます。
なぜかと言えば、わが家に帰って聞いてみたところ、「そんなところで、あのおばあさんが働いていたわけないやんか、英語も出来ないのに」。
やっぱり私は間違っていなかったんです。
ああ、進駐軍のPXって売店のことですって、そしてそこでは英語が必須なんですね・・・知りませんでした。
あのおばあさんは戦前にご主人の留学でアメリカに行ったことは行ったけど、英語は出来ないそうなんですわ。
そして「カイヘイのオッサン、なんでPXにいたのかな、許可がないと入れなかったのに」
あはは、一般人が気軽に入れるとこじゃなかったのか、これも知らなかったです。
その時代を知らないとわからないことって、ほんとにたくさんありますね。
知っていれば色々ツッコミを入れられたかなと思うと残念です。
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