「勇者とは刑罰である」そんなファンタジー世界の定石を覆すワードを持つ作品。それが今回ご紹介する漫画『勇者刑に処す懲罰勇者9004隊刑務記録』(原作 ロケット商会/作画 井上菜摘)だ。
数々のヒット作を生み出している小説投稿サイト発のライトノベルが原作のこちらのコミック。今回はその魅力に迫ってみよう。
勇者が刑罰?服役で世界を救え!勇者刑に処す懲罰勇者9004隊刑務記録
今回ご紹介するコミック『勇者刑に処す懲罰勇者9004隊刑務記録』は、元々ライトノベルが原作の作品。
原作者のロケット商会氏によって、小説投稿サイトに連載されていたこちらの作品。キャッチフレーズは「勇者とは刑罰である」というなかなかインパクトが強いもの。
これはいったいどういうことなのか。まず本作は「魔王現象」と呼ばれる脅威と人類が戦う世界が舞台。人類と「魔王現象」の戦力差は甚大で、人類は魔法で底上げした軍事力でなんとか生存権を守っているといった状態だ。そんななか集められたのが主人公たち勇者部隊。普通なら世界を救う精鋭部隊になるはずなのだが、本作の「勇者」はちょっと違う。
なんと勇者部隊はみな罪人であり、刑罰として魔王討伐に赴いているのだ。これはなかなかとんでもない設定ではないだろうか?罪人が意図せずヒーローとなるファンタジーはそこそこあるかもしれないが、ヒーローがもはや罪人に与える刑罰になっている作品は本作ぐらいだろう。
ちなみに、「勇者」たちの「罪状」は、窃盗、詐欺、テロ、暗殺と実にバリエーション豊か。はっきり言って全員極悪人である。彼ら罪人が自らの凶悪スキルを武器に「魔王現象」に刑罰として立ち向かっていく・・・というのが本作のストーリーだ。
ちなみに彼ら勇者には特殊な聖印が刻まれており、逃亡するとリアルに首が飛ぶ仕様になっている。また魔王現象との死闘にやぶれて死んでしまっても、蘇生術によって「生き返らせられる」というおまけつき。なんともエグイ設定なのだが、小説版の挿絵担当でキャラクターデザインを担当しているめふぃすと氏、またコミカライズ担当の井上氏のテイストがポップなので、あまりグロさや暗さは感じない。
加えて小説版も語り口がラノベらしく軽やかなので、意外に読みやすいテイストになっている。全体的には設定のエグみに反して、ダークすぎるファンタジーが苦手な人でも楽しめる口当たりの作品と言えるだろう。
まあ、それでも上記に加えて、「蘇生」に失敗しすぎて人間性を失ってしまった「勇者」なども登場したりもする業が深い作品にかわりはないのだが・・・。
罪状は「女神殺し」。主人公が負った大罪と、決戦兵器「女神」とは
「勇者は刑罰」という衝撃的な設定と、業が深すぎる世界観をポップなテイストで包んだ新しいテイストのファンタジー『勇者刑に処す懲罰勇者9004隊刑務記録』。
そんな本作の主人公が「勇者」ザイロ・フォルバーツである。元聖騎士という立場にありながら、この世界における極刑「勇者刑」に処された彼の罪状は「女神殺し」。本作でザイロは、前代未聞の大罪を犯した史上最悪の極悪人という扱いで登場する。そもそもザイロが殺めた「女神」とは何なのか?
ザイロの罪状、そして本作のもう一つの重要なストーリーラインを語るには、まずそこから説明しなければならない。
本作における「女神」とは太古に作られた決戦生命体、人類が魔王現象とギリギリ戦うことができるのは彼女たちの力によるところが大きい。いわば『エヴァ』におけるエヴァンゲリオンや、『進撃の巨人』おける巨人化能力のような存在が本作の「女神」というわけ。
「女神」は異世界から様々なものを呼び出すことができ、「聖騎士」と呼ばれるパートナーと契約して戦うのがデフォルトとされている。つまり主人公ザイロは女神とともに魔王現象と闘う人類の守護者でありながら、魔王現象への強力な対抗手段であり自らのパートナーである女神を殺めてしまったということになる。
一見完全に「ヤバイ奴」なのだが……。ザイロが女神を殺めた理由は作中でこれから明らかにされるので、ぜひ本編で確かめて欲しい。さて、そんな女神殺しの大悪人ザイロと、未起動の十三番目の女神「テオリッタ」がひょんなことから契約を結ぶところから本作のストーリーは動きだす。
懲罰部隊に「女神」が入る
「懲罰部隊」である勇者のチームに「女神」が入るというありえない事件が、主人公たちのひいては世界の命運を動かす事態に発展していくのだが、ここで特筆しておきたいのは新しい女神テオリッタの強さと可愛さだ。
女神はみな人間に対する献身と強い承認欲求を持つのだが、少女体のテオリッタは特にそれがまっすぐな形で表れている。そこが非常にかわいらしい。もっとザイロも彼女に構ってやれよ!と思うのだが、ザイロが抱える事情を想うとなかなかそうもいかない。主人公コンビのもどかしさもまた本作のみどころと言えるだろう。
またかわいらしい少女の面とは反対に、テオリッタの女神としての能力は強力だ。テオリッタはただのナイフから聖剣(!)まで、剣であればなんでも呼び出せるという能力をもち、運用次第では魔族の大群を軽く吹き飛ばす力を持つ。また元聖騎士であるザイロは軍人として高い指揮・作戦立案能力を持っており、何度も死線を潜り抜けてきた切れ者だ。この二人の能力が合わさると、まさに百人力。
絶望的な戦況があっという間に覆されてしまう。二人が「魔王現象」に対してどんな戦いぶりを見せるのか、こちらもぜひ作品でチェックしてみてほしい。
斬新な発想で新しい世界を切り開いた本作
「勇者」がジョブではなく刑罰になった世界、という斬新な発想で新しい世界を切り開いた本作『勇者刑に処す懲罰勇者9004隊刑務記録』。こちらは、死んでも蘇生されて戦わされる罪人たち・・・というややエグめの設定と、人類を守る「女神」が彼らに味方するというファンタジー性の強い設定を混ぜ合わせることで、絶妙な面白さが生まれている作品だ。
今回紹介したコミカライズ版はまだ冒険の序盤だが、小説版は三巻まで発売されており、さらに先までストーリーを読むことができる。漫画版で続きが気になった人は小説版にトライしてみてもいいだろう。なにはともあれ本作は近年のラノベ原作作品のなかではかなりクオリティが高い作品だ。
メディアミックスがさらに進む可能性もある。いまのうちにチェックしておいても損はない。気になった人はぜひチャレンジしてみてはどうだろうか。
勇者刑に処す懲罰勇者9004隊刑務記録 (C) ロケット商会 めふぃすと KADOKAWA
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