私が勤めていたのは、人口の少ない農村地帯にある火葬場でした。
都市部のように毎日葬儀が続くわけでもなく、葬儀の予定がない日は一人で待機する時間が長く、静まり返った火葬場は慣れていても怖く感じてしまうのです。
そんな中でも、友引の日は火葬を避ける習慣から設備の点検や清掃が行われ、いつもと違っての気配がある分だけ気が楽にでした。
何かがいる?
いつも窓や床のワックスがけに来る清掃業者は手際がよく、だいたい作業は早く終わるので自然と雑談タイムとなります。趣味や仕事の愚痴といった他愛ない話が続き、場所柄から、オカルト系の話題へと流れていきます。
主に火葬場で経験した異変についての情報交換のようになり、ひと通り話し終えると、彼らは次の清掃場所へ向かうため片付けを始めました。
車に乗り込む直前、リーダー格の男性が唐突に「あれ?声、聞こえません?」と首をひねりますが、もちろん、火葬場には清掃員と私以外の人間はいません。
彼は続けて「あ、まただ⋯本当に聞こえない?女の甲高い笑い声なんだけど。しかも結構大きい」と言うのです。
しかし、いくら耳を澄ませても、人の声どころか物音ひとつせず、聞こえるのは、自分たちの声と遠くの鳥の鳴き声だけでした。
「またあ⋯脅かさないでくださいよ〜」と言い換えすと、彼は少しギョッとしたような顔をし「それではまた・・・」といって、逃げるように帰っていったのでした。
それから彼を見かける事はありません。同じ清掃業者はやってくるので、どうしたのか尋ねると、頑なにこの火葬場にくるのを嫌がっているそうなのです。
存在の見えない恐怖
正直、この火葬場には得体の知れないものが“居る”としか思えない気配が以前からありました。
どこかから視線を向けられているような感覚があり、勤務中に何度も背筋が冷えることがあったのですが、ただ、妙なのはその現象には特徴があるのです。
ラップ音のような物音や強烈な崩壊音、酷いときには落ちるはずのない物が、テーブルや戸棚から落ちたり、人影が見えたり、独り言をわめきながら歩み寄る影、同じ現象が繰り返されたことは一度もありません。
もしかすると火葬場だけに、複数の残留思念のような物がたまったのでしょうか。
時折、自己の意思を持って行動しているのかとも感じでしまいますので、何かを訴えているとも感じてしまいます。
推測の域を超えない”不確か”な事ばかりですが、一つ”確か”な事は、勤務時間が終わるまで1人で火葬場で仕事をしなければならない事です。
こういう事が起きた後は、不謹慎ながら早く葬儀の予定が入って、誰か来て欲しいと願うのです。
※画像はイメージです。


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