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都市伝説「おおいさん」考察

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こんな情景を想像してほしい・・・深夜、あなたは深夜のアルバイトをしている。
ここは地方都市、もっと言えば周囲に田んぼや畑しか見えないド田舎のコンビニエンスストアだ。
ついさっきまで店内は行楽目当ての客でごった返していたが、それはあくまで一過性のもの。
今、店の中にいるのはあなた一人だけ。棚卸も、掃除もとっくにすませてしまったから、レジでボンヤリ立ち尽くす以外、やることもない。

そうなると、考えなくてもいい嫌なことを考えてしまうのが人間というもの。
例えば――、隣町で強盗事件があったがまだ犯人は見つかってはいない。万が一、この店に押し入ってきたらどうしよう。そうでなくても、今日のシフトは自分だけ。強盗とまではいかなくても、深夜に徘徊する、近所でも有名な変人が来店し、無理難題を吹っ掛けるかもしれない。
これから語る都市伝説は、そんな深夜勤務の人間が抱く不安は恐怖心を具現化したかのような内容だ。

目次

命の押し買い屋「おおいさん」の都市伝説

二〇一〇年七月二十二日、2ちゃんねるオカルト板「洒落にならないほど怖い話」のスレッドにて体験談として書き込まれたのは、こんな話だ。

語り手はとあるコンビニのアルバイト店員。
ある時、語り手は店長から「おおいさん」と名乗る問題客が現われたら、絶対に目をあわせるなと忠告を受ける。
3か月後、その話をすっかり忘れた語り手だったが、バックヤードで待機していた際、ふと目を向けた防犯カメラのモニターに映っていたのは、誰もいないにもかかわらず、まるで接客でもしているかのようにペコペコ頭を下げている。

おかしい、と思った語り手が店内に向かってみると――後輩は見慣れぬ中年男性を後輩が接客している最中だった。
さっきのは自分の見間違いだったのか、と語り手は首を傾げるが、後輩の「この人、おおいさんです。ほら、店長が目をあわせるなと言っていた…」という言葉にハッと息を飲みこむ。

後輩の言葉を肯定するかのように、
「こんちはー。おおいさんでーす」
大きな、そして間延びした声で挨拶をする中年男性。
困惑する語り手と後輩には構わず、タバコや菓子、唐揚げなどを注文した後、男性は、
「あとねー。どっちかの命ちょーだい」
と、同じ口調で言ってくる。

どう考えてもまともではない男性の様子に薄気味悪く思いながらも、語り手は
「申し訳ございません。我々の命は商品ではありません」
と真面目に受け流す。

すると、男性――おおいさんは店内の雑誌コーナーにいた3人の若者を指さし、
「あそこのうちの一人でいいよー。命ちょうだーい」
とまた、同じようなことを繰り返す。

投稿者もまた、慇懃無礼に
「申し訳ございません。彼らは商品ではございません」
と同じような返答で拒否する。
しかし、おおいさんは「ははは」と笑い
「じゃあ、全部もーらおっと」
と不穏なことを言い、針金細工のような奇妙なものを3本、レジに置いて立ち去る。
仕方なく、その針金細工は預かり品として店で保管することになったのだが、語り手の次の夜勤の日、3本ともまるでミミズが這うかにようにウネウネと蠢き始める。

これには語り手だけでなく、店中の人間が怯えたが数日後、針金細工の動きが弱り始める。
そして、その日のうちに見せの近所の交差点で死亡事故が発生。犠牲となったのは、雑誌コーナーの前にたたずんでいた若者の一人だったという。
そして、翌日の夜、またしてもおおいさんが来店。
対応したのは店長で件の針金細工を3本とも突き返し、「申し訳ないのですが…」と入店拒否を言い渡した。
その時、語り手が聞いた店長の話では、おおいさんの手には事故死したはずの中学生の頭部があり、店の床には頭のない少年の身体が床に這いつくばり、何かを探してその手をゴソゴソさせていたという。

他のコンビニやレンタルビデオ店で働いている友人たちもおおいさんの噂は知っていた、と語り手はこの話をしめくくっている。

以上が都市伝説「おおいさん」の物語である。

一言でいえば、理不尽極まりない話だ。
語り手であるアルバイトの青年を含め、登場人物たちはこれと言って悪事を働いている訳でもないのに、突然現れた奇怪な人物にまるで押し買いのように、「命をよこせ」と一方的に要求された挙句、世にもおぞましい怪異を見せつけられたのだから溜まったものではない。

「おおいさん」の正体について

では、「おおいさん」とは何者なのだろうか?
「命ちょうだい」という言動をとることからして、決して真っ当な存在ではないことは確かだろう。
原点である洒落怖スレッドの書き込みに明示されていないのだから、憶測になってしまうが恐らくはたちの悪い死神の類だろう。

事故死という形ではあるが、若者を一人死に至らしめたのは間違いなく、「おおいさん」がコンビニに置いていった針金細工のような物体の影響だろう。
つまり、「おおいさん」が針金細工を三本取り出した時点で若者たちは、死へと至る呪いをかけられたのだろう。しかも、その犠牲者はランダムに決定するように思われる。

また、この時点では若者の死は偶然だ、と現実逃避する余地があるが、「おおいさん」は自らの凶行を誇示するかのように犠牲者の亡者を引き連れて、再度、コンビニを訪ねてくるのだ。頭と胴が分断された犠牲者の姿はあまりにも悲惨で、恐らく彼が未来永劫、「おおいさん」から逃れられないことを示していると思われる。
そして、生き残った人達も「おおいさん」に対して何ら対抗手段を持たず、せいぜい魅入られないよう目をあわせないとか、「どうぞお帰りください」とお願いするしかない。
我々のように弱い人間にとって、真に邪悪なものとは神に等しいのだろう。神は神でも、祟り神だが。

「おおいさん」=通り悪魔?

「おおいさん」の都市伝説に類似性を感じさせるのが、江戸時代の随筆『世事百談』に語られる、こんな物語だ。

…川井という武士が自宅でボンヤリ庭を眺めていると、突然茂みの中から火柱が立ちあがり、続いて塀の上に白い襦袢を着た男が髪を振り乱して現われ、手にした槍を振りかざした。
動転しないよう、川井はとっさに目を閉じ、心から男の姿を締め出し、気を鎮めようとした。
すると火柱も槍の男も消え失せ、川井はほっと胸を撫で下ろしたが、しばらくすると隣の家で騒ぎが起きた。
家の主人が突然乱心し、家人に危害を加えたのだという。
川井は自分を惑わせなかった槍の男が隣の家に移ったのを悟った。

これは「通り悪魔」と呼ばれる日本古来の妖怪の仕業、とされる。
「通り悪魔」は自身を見た者の心を乱し、不慮の災いを引き起こす恐ろしい存在なのだが、「おおいさん」もこれに類する存在ではないだろうか?
都市伝説の語り手も入店拒否した店長も、当然恐怖は感じていたはずだが、最後まで言わなければならないことを気丈に言い、決して心を乱していない。「おおいさん」の目を見てはいけないという禁忌にも触れていない。
しかし、脚であった3人の若者には「おおいさん」に関する知識がなかったため、その姿を見て取り乱してしまった。そして、そのまま魅入られ、命を奪われたという可能性はないだろうか?

ちなみに現代においては、理由もなく他人に凶刃を向ける者を「通り魔」というが、その原因とされてきたのがこの「通り悪魔」である。

「おおいさん」は夜の不安が具現化した怪異

冒頭でも述べたように、夜勤はただでさえしんどい上、犯罪被害に遭う可能性が多少なりともある過酷な環境だと言える。そこに怪異まで乗っかってこられては、泣き面に蜂である。
しかし、どれだけ注意を払おうとも、毎日、ただ真面目に生きてきただけだとしても不幸に見舞われるときは見舞われる。
そんなはかない存在こそ、人間なのだろう。
そして、「おおいさん」達、「通り悪魔」はそんな我々を格好の獲物として嘲り、弄び、食らい尽くす野獣のような存在なのかもしれない。

参考
『おおいさん』コンビニにまつわる怖い話
通り悪魔 – Wikipedia
「日本現代怪異辞典」 著:朝里樹

※画像はイメージです。

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