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空母いぶきについて

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リアルな“日本”の戦いを描くことに於いてはこの30年並ぶ者もない漫画家・かわぐちかいじ氏が描いた近未来戦記です。
軍事情報に通じたジャーナリストである恵谷治さんが協力・監修ということもあって、その物語は予想を超えて展開し、ファンをざわつかせています。

この問題作に、若松節朗監督が大胆な解釈を加えて実写化、企画に福井晴敏氏(「亡国のイージス」、「終戦のローレライ」など)、脚本に伊藤和典氏(「機動警察パトレイバー」シリーズ)らが加わったことで、原作未完のこの作品を、134分の尺に収まる物語に再構築しました。

近未来の日本、その領土を侵されたことで海上自衛隊が実戦に挑む、その流れはドキュメンタリーに迫る精度で描かれてします。

原作では尖閣諸島に中国が侵攻するところから物語が始まりますが。
映画では“東亜連邦”という仮想の国家に置き換えられて物語が進みます。

(以下、結末までバレを含むあらすじですので、ご注意ください)

目次

発端・・・

ある年の年末…12月23日の早暁___日本の領海の南端のハルマ群島・初島に正体不明の一団が上陸、警備行動に出た海上保安庁の巡視船が拿捕、保安官が拉致されたという一報が東京に入りました。
その脅威の正体は“東亜連邦”。
日本国政府と防衛省は海上警備行動を発令。
もっとも近い海域にいた第5護衛艦隊を現場に派遣。
航空機搭載型護衛艦・いぶきを中心に護衛艦(イージス艦)あしたか、いそかげ、はつゆき、しらゆき、潜水艦はやしおが初島に向かうこととなりました。

空母いぶき

その日、いぶきは二人のジャーナリストを同行させていました。
ネットニュース配信会社の記者・本田裕子(本田翼)、そして東邦新聞の記者・田中(小倉久寛)です。
就航し、配備されたばかりの“空母いぶき”をリポートするために100倍を超える抽選を経て選ばれた彼らは、突然取材を打ち切られ、“実戦”のただなかに置かれることとなったのです。

空の男・海の男

空母いぶきには双璧ともいうべき二人の男がいました。
艦長は秋津一佐(西島秀俊)、航空自衛隊のエースパイロットという経歴のある人物です。
そして海自一筋の副長・新波二佐。
二人は防衛大学校の同期生でしたが、その当時から進路も考え方も相容れない者同士だったのです。

そこに同乗していたのは第5護衛隊群・群司令の涌井海将補(藤竜也)です。
彼は秋津と新波の二人を御しつつ、その特性を生かし、いぶきと、艦隊の運用を進めていたのでした。

国の中枢で

初島に向かう護衛艦隊の前に、空母を擁した東亜連邦の機動艦隊が展開し、大規模な攻撃が開始されました。

その様子が随時伝えられていた首相官邸で、垂水総理大臣(佐藤浩市)は最悪の事態を回避するために奮闘しますが、外務大臣らの強硬な意見を抑えることに苦慮していました。
状況は悪化の一途をたどり、とうとう初島上空で偵察航空隊のRF-4Eが撃墜され、いぶきも飛行甲板と航空機の昇降を担うエレベーターが破壊される事態に。

国連や、友好国の外交ルートを使ってなんとか解決の糸口を探っていた垂水たちでしたが。
東亜連邦は正攻法で太刀打ちできる相手ではなかったのです。

東京の片隅では…

そこは、どこにでもあるコンビニのバックヤード。
中野店長(中井貴一)は翌日のクリスマスイブに備えて毎年恒例のクリスマスブーツを作っていました。
サンタさんの絵がついた小さなブーツの中に厳選した世界中のチョコレートを詰め、手書きのメッセージカードを入れて店頭に並べるのを「楽しみにしているお客さんがいるから」とせっせと手を動かしているのです。
勢いでイブのシフトを頼まれてしまったアルバイトのしおり(深川麻衣)は不満そうでしたが、机の上にひろげられたカードの優しいメッセージに顔をほころばせるのです。

その頃、ネットニュースの配信会社では出勤してきた晒谷(さらしや・斉藤由貴)と徹夜明けの藤堂(片桐仁)が食い入るようにパソコンのディスプレイを見ていました。
彼らの同僚である裕子が、今まさに同乗して取材しているはずのいぶきが被弾して黒煙を上げている、その様子がネットに投稿されていたのです。
裕子に連絡を取ろうにも、衛星携帯電話は沈黙したまま。
藤堂らはまんじりともせず、その事態の推移を見守るしかできなかったのです。

海上の激闘

飛行甲板の破損により虎の子の航空戦力、F-35を擁するアルバトロス隊を使うことができないいぶきでは、被弾による衝撃で涌井群司令が負傷し、その全権は秋津に移譲されました。
そのいぶきを狙う敵潜水艦を発見した潜水艦はやしおは、滝艦長の冷静で豪胆な指揮の元で自らの艦をぶつけることにより迎撃、制圧を図り、また、瀬戸艦長(玉木宏)率いるイージス艦はつゆきも、極力乗組員を退避させたうえでいぶきの前面に展開し、防ぎきれなかった魚雷の攻撃をかわしたのでした。

垂水総理の元、専守防衛の遵守を厳命されていた第5護衛艦隊でしたが。
既に双方が死者を出す事態に及び、国際世論を巻き込み、さまざまなチャンネルでの攻防が進んでいたのです。
太平洋戦争が終結してから、辛くも守り続けられてきた日本の国是は「なんとしても戦争を回避すること」である、と垂水は言います。

その頃、裕子が配信したそのいぶきの戦闘は日本を中心に世界中にひろがり、その危機的状況が白日の下にさらされることになったのです。

空の攻防

24時間かかると報告のあった飛行甲板のエレベーター修理が完了し、ようやくいぶきの航空戦力であるアルバトロス隊が出撃するときがきました。

艦長の秋津は、かつてF-35を駆る空自のエースだったのです。
米海軍の空母の艦長がパイロット出身者であるというルートを踏襲して空自から召喚された彼は、いぶきに配備されていた空自のパイロットたちに告げるのです。

「一機も失うな。迷ったら、撃て」

指揮官としてパイロットを送り出す飛行群司令・渕上一佐(戸次重幸)から伝えられたその命令は、隊長の迫水三佐(市原隼人)、そしてパイロットの柿沼一尉(平埜生成)を鼓舞し、彼らは圧倒的に不利なその局面に出撃していったのです。

最新鋭のF-35は敵機を撃破、ジャミングを駆使してミサイルを打破するものの、何発かを打ち漏らし、柿沼はそれを自らの機体でいぶきから引き離そうと試みました。
脱出しろ!という迫水の叫びに柿沼は必死に声を絞り出します。
「隊長、この機体は…150億円…」
「馬鹿野郎!機体は替えが利く!お前は替えが利かん!!」
その声に、彼は我に返り、決死の覚悟で脱出を試みるのでした。

死線を超えて

戦闘が始まってから、広報官の井上によって通信の手段を規制されていた裕子たちは激化したその状況に息をひそめるようにじっと過ごしていました。
救難ヘリの発着音に居室を出ると、デッキにはベイルアウトした柿沼と、同時に保護された東亜連邦の操縦士が担架に乗せられていたのです。

安堵した表情で、生還をかみしめていた柿沼の目に映ったのは、敵兵が警備の隊員が装着していた拳銃を奪う姿。
とっさに飛び出してその銃を取り押さえようとしていた柿沼は、揉み合ううちに腹部に被弾してしまったのです。

ギリギリのところで命を拾って戻ってきた彼は、しかし、仲間たちの腕の中で絶命。
裕子らは、その成り行きを呆然と撮影していました。

復讐に燃える隊員らを制したのは、甲板に上がってきた秋津でした。
「もう終わったんだ」
取り押さえられ、怯える敵兵の手から拳銃を取ると、彼は英語で諭しました。
「君の国ではどうか知らないが」
膝を折り、目線を合わせて秋津は語ります。
「日本では…クリスマスは、信じる神によらず、穏やかに祈る日なんだ」
武器を持たない捕虜は正しく遇されるべきである、というその姿勢に、やりきれなさと哀しみを噛み締める裕子とクルーたち。

その直後。
周囲に潜んでいた潜水艦隊が出現。
多数の魚雷がいぶきを目掛けて発射されたのです。

なすすべもなく、その魚雷の航跡を見る彼らの前で、予想を超える事態が起こりました。

半数が東亜連邦の機動艦隊に向かい、残りがいぶきをめがけて進んだかと思うと、到達する手前で自爆したのです。

浮上した多数の大型潜水艦の艦橋から上がった旗は米・英・仏・中・露…日本政府が外交ルートで奔走した結果、国連の常任理事国の海軍がここに集結し、多国籍軍としてこの戦闘を終結させるべく動いたのです。

それは、まさにクリスマスの奇跡でした。

世界に向けて

裕子らの手元には、一度没収された通信手段の衛星携帯電話が、井上広報官から黙認される形で戻され、その夜に見たもの全てを配信することができました。
そこには、柿沼の悲劇を乗り越えようとする秋津の姿、その言葉、そして事態を収拾するために奔走していた人々の姿があり、「戦争が回避された」という事実が、動画配信サイトを通して大きな共感を以て受け止められたのです。

夜が明けて。

東京の街に出た藤堂と晒谷は、いつもと変わらないその風景に安堵します。
「メリークリスマス」
その言葉がことさらに心にしみる、そんな朝でした。

破損した艦艇を日本に戻す手配をして、いぶきは一時的に占領されていた初島に進路を向けました。
その艦橋で、秋津は新波に食事の支度を命じていました。
人質にされていた海上保安官らは、きっと空腹だろうから、温かい握り飯とみそ汁を、という配慮だったのです。

自衛官たるもの、国民を死なせるわけにはいかない。
自分たちは国を守るために命を懸けても、それは本望だろう、と。

しかし、そんな彼が本当に守りたかったもの、そしてそれは垂水総理にも共通する思い___ごく普通の、ささやかで穏やかな暮らしなのです。

「2人目が生まれるそうだな」
同期だった新波に、柔らかく笑みを向けた秋津。
そんな子供たちの未来に国を残すために、彼はこの過酷な任務を引き受けたのです。

秋津は、これまでずっと艦長室で一人で食事を摂っていました。
新波も…それは戦闘機パイロットの習性なのだろう、と受け入れていたのですが。
しかし、この時初めて新浪に、皆と同じところで食べる、と申し出たのです。
「船と海の話を聞かせてくれ」
それは秋津が本当のいぶきの艦長として、クルーの中に一歩踏み出した瞬間でした。

見どころ

ガチのミリオタさんからは「突っ込みどころが満載」という評価が多かった本作でしたが。
リアル防衛省、海幕・空幕の広報室から一切の支援・協力なしにここまでのものを作り上げたのはむしろアッパレというべきではないかな、というのが最初の印象でした。

ドキュメンタリーではないし。
かわぐちかいじ先生が楽しんでご覧になったのであれば、それは一つの大きな評価でもあるわけで。
実際、この難しい世界情勢の中でいろいろを拗らせるような“問題作”を、私も見たいわけではなく…このテーマを、この面白いスタッフや、素敵な役者さんたちがどう作り上げてくれるのか、という部分を堪能しに行ったわけです。

果たして。
個性の強い役者さんたちの使いどころの面白さ、そして企画に福井晴敏さんをもってきたことから連想する過去作品のあれこれと、いろいろな萌がさく裂して、複合的に楽しめた作品だったな、という私的インプレッション。

思い出しながら一つずつまとめてみましょう。

キャラクターと、様々な過去作
秋津と新波の二人は原作より少し個性が強めの西島秀俊・佐々木蔵之介というお二人が、時に調和をとり、時に静かな対立を見せ、場を盛り上げていました。
また、彼らを取り巻く護衛艦隊の艦長たちとそのCICのクルーの雰囲気がリンクして、まるでその艦が一人の人間のように動いていく様は小気味よかったです。

護衛艦はつゆきの瀬戸艦長を演じた玉木宏さんは、いつもより一歩引くくらいの冷静沈着な芝居を見せてくれながらも、身を挺していぶきを守り、幕僚らとの息もぴったりで、素晴らしいシンクロ具合を見せていました。
その玉木さん。
潜水艦はやしおの船務長として登場した堂珍嘉邦さんと共演した「真夏のオリオン(脚色:福井晴敏)」ではお二人で旧日本海軍の潜水艦の艦長を演じていました。

そこでもう一つ連想したのが「ミッドナイトイーグル」。
玉木さんは主人公の一人、新聞記者・落合を演じていましたが。
涌井群司令(藤竜也)さんが首相、RF-4Eの操縦士の袴田吉彦さんがその秘書官を演じていました。
タイムリミットが迫る謀略ドラマとしてはどこか似た萌があります。

そんな玉木・瀬戸艦長と好対照、護衛艦いそかぜの浮舟艦長(山内圭哉)はコテコテの関西人。
もともと砲手として勇名をとどろかせていたことから新波のご指名で終盤の激戦のなか敵のミサイルを撃破し、敵艦の戦力をガンガン削いでいく様子は痛快で、さらに、CICで見事な連携を見せた部下の岡部砲雷長(和田正人)との賑やなコンビネーションは作中で最も爆笑できたポイントでした
岡部曰く「あ~…出たよ…艦長が本気になると関西弁が飛び出す」…そのノリは浮舟の「いてまえーーーー!」に集約されていました。
そのやり取りが好評だったことからも、公式動画として配信されているのは、ファンとしては嬉しい限りです。

さて、福井晴敏作品とのリンクということで思い出したのが「亡国のイージス」。
出てくるイージス艦の名前が「いそかぜ」。
さらにキャストとして佐藤浩市さんが暗躍しています。
作中の黒幕は中井貴一さん。
そう思うと、今回のコンビニの店長は世をしのぶ仮の姿のような気がして、ちょっと妄想できるところが興味深かったです。

“広報官”の存在感

作中でいぶきに乗り合わせてしまった裕子らの面倒を見る海幕広報の井上三佐。
演じていたのは金井勇太さんです。
実は中学生頃から活動している長いキャリアの持ち主なのですが。
名バイプレーヤーとして様々な作品で思いがけない顔を見せてくれる人です。
“広報官”という言葉を聞くと、映画「64(ロクヨン)」で群馬県警の広報官(佐藤浩市)の部下として堅実な仕事をする実直な公務員を演じていました。
オーラを薄くしてその場に存在する、という意味ではまさに適任。
極限状態の中で民間人二人を守りながらも、しかし情報取り扱いの一線は厳密に守る、硬軟取り混ぜたお芝居は見事でした。

舞台は何年?
明確にはその時代の表示がされていなかった本作ですが。
原作は20XX年。
さて、映画では…実は会話の中に小さなヒントがありました。
秋津と新波は防衛大学校54期(2010年卒業)とのこと。
一選抜で一佐に昇任したと考えて40歳。
…ということでこの作中では2028年のクリスマス、なのでは?
この時代を鑑みるに、作中でのお遊びのあれこれが浮かび上がってきます。

ミリオタの浪漫と、そこにある萌え
作中に出てきた偵察機は百里の偵察航空隊所属のRF-4Eとのことでしたが。
見かけはノーマルのF4-EJで、その尾翼のマークはオジロワシ…?
まず。現時点(2019年)でF-35の配備の裏側で既にほぼ引退しているファントム。
とても2028年まで飛ぶことはないだろうなぁ、と思われるその機体。
尾翼のオジロワシのマークは赤・青・白の三色で表されているのですが、何となく違和感があり、じっくり観察したら、本物とは配色が違いました。
これはきっとスタッフのお遊びなんだろうなぁ、と勝手に妄想してニヤニヤ見ていましたが。
そういえば、ファントムが活躍した時代には、自衛隊をおおっぴらに扱える映像作品がなかったせいもあって、とても珍しい光景が見られた、むしろラッキーかも!と思いました。
そう。
ファントムは、ミリオタにとっては浪漫の塊なのです。

そしてもう一つの浪漫

いわゆる“ミリ飯”は、既に缶飯から殆どがレトルトに切り替わりつつあるのだという話を聞きます。
しかし、作中でいぶきのクルーたちは缶飯をがっつり食べていました。
オリーブドラブ色の缶詰は、もうリアルにみることもないだろう、古き良き浪漫だったのだ、と思うわけです。
ちょうど今、リアルにこの平成と令和の切り替わりは、自衛隊の世界とその文化に少なからず変化が訪れていたのだな、とフィクションを見て再確認したのでした。

さて。
秋津は空自のエースパイロットだった、という秋津は、常に群れることなく一人でいることを好む、という設定でしたが。
食事まで常に一人で…というのはちょっとやりすぎのような気が。
というのも、知己の退官したF-104時代のパイロットの方がこれを見て「違和感を感じた」と述べられたので…。
ちょうど「空母いぶき」の公開時期に、NHKのサラメシ(中井貴一さんのナレーション)で、航空自衛隊静浜基地のランチタイムを放送していました。
「戦闘機のパイロットこそ“連帯感”をとても大切にするものだ、ということを知って欲しいなぁ」と感じた直後に、この番組を見て「安堵した」とのこと。
いや、この映画は特撮ファンタジーですから、そんなに心配しなくても!と思うのですが。
「それでも最後にみんなで一緒に飯を食えるようになったんだから、良かった」という好意的なご感想があり、元・本職さんでも楽しんだのなら、やはりそれなりに評価されるべき作品なのでは、と再確認したのです。

そう。
ドキュメンタリーではありません。
だから、見る人がそれぞれの萌ポイントを探って楽しむエンタメで十分では?
とにかく個性豊かなイケメンさんがてんこ盛り。
列挙した過去作と合わせてお楽しみいただけるとより一層妄想が広がりますよ。

(C) 空母いぶき かわぐちかいじ 講談社/モーニングコミックス

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