日本海軍の異次元軍用飛行船計画

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日本海軍の航空機に関する資料に、所要航空機種及性能標準という文書があります。読んで字のごとく必要な航空機の種類と性能を記載した文書です。昭和5年版の同文書内には、SFアニメや仮想戦記に出てきそうな異次元的発想の飛行船が記載されていました。

性能データ

性能標準にある”硬式飛行船”という項目を一部抜粋します。元のデータはこのサイトで読むことができます。

用途:大遠距離捜索、局地爆撃
爆弾搭載量:10t(=10000㎏)以上
爆弾搭載時航続力:70ノット(≒129.6km/h)で100時間以上
爆弾非搭載時航続力:70ノット(≒129.6km/h)で150時間以上
最高速度:80ノット(≒148.2km/h)以上
機関銃:旋回銃20丁以上
通信力:偵察兼戦闘機5機搭載

いろいろぶっ飛んでてなかなか思考が追いつきません。項目をひとつづつ見ていきます。

用途:大遠距離捜索、局地爆撃

飛行船に爆弾積んで空襲に使うというのはこの時代には標準的な戦術です。
また同時期の航空機はまだ航続距離が短かったので、遠距離を飛行するには航空機より飛行船のほうが適していたという事情もありました。

爆弾搭載量:10t(=10000㎏)以上

こんなに大量の爆弾を積める航空機は同時代はおろか1945年の敗戦に至るまで日本軍には存在しません。
日本軍でもっとも大量の爆弾が詰めた航空機は1945年完成の大型陸上攻撃機「連山」ですが、連山ですら爆弾搭載量は最大4000㎏です。
この飛行船が異次元の兵器だということがわかります。

■ Soviet airship V-6 “Osoaviachim” (В-6 “Осоавиахим”)

作者 不明 (eigener Scan (von Stahlkocher)) [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由

爆弾搭載時航続力:70ノット(≒129.6km/h)で100時間以上
爆弾搭載時航続力:70ノット(≒129.6km/h)で150時間以上

用途に「局地爆撃」って書いてあるのに爆弾積んで13000km近く飛行できるみたいです。6500km離れた場所まで無補給で往復できます。

爆弾積まなかったら20000km近く飛行できます。片道でいいなら地球半周できる。
日本軍にあった航続距離が最も長い航空機は2式大型飛行艇という機体ですが、同機の爆弾を2t積んだ状態での航続距離が6500kmなので、この飛行船の航続距離は日本軍で最も航続距離の長い航空機のさらに2倍に達することになります。

最高速度:80ノット(≒148.2km/h)以上

さすがに飛行船なので航空機と比較すると低速です。しかし、例えばこの性能標準が作成された昭和5年に採用された三式艦上戦闘機の最高速度が239km/hなので、同時期の戦闘機の60%程度の速度で飛行できることになります。

機関銃:旋回銃20丁以上

口径は不明ですが、20丁という門数は同時期の戦闘機10機分に相当します。この飛行船10機で戦闘機100機分です。もはや飛行要塞。

■USS Macon

作者 USN [Public domain], ウィキメディア・コモンズ経由

通信力:偵察兼戦闘機5機搭載

まだぶっ込んできた(笑)。
本体に機銃が20丁積んであって積んである5機戦闘機に2丁ずつの機銃が装備されてるとすれば、この飛行船1機で機銃30丁分の火力を持っていることになります。
飛行船に戦闘機5機も積むとかそれもう飛行船じゃなくて飛行空母じゃね?(笑)。

考察

この飛行船は一種の代用軍艦として構想されたのではないかと思われます。この性能標準が作成された昭和5年(1930年)はちょうど海軍の補助艦艇の量を制限するためのロンドン海軍軍縮会議が開催された年に当たります。

会議後締結されたロンドン条約で、日本の補助艦艇の量は米英の69.75%に制限されます。この数的劣勢を覆すために、日本海軍では条約制限外の補助艦艇を戦力として活用しようとしたり、有事に軍艦に転用可能な大型高速の民間船を増やしたりしました。

この飛行船もそのような覆面軍艦の一つとして構想されたのではないでしょうか。

当然ながら、この飛行船は実際に建造されることはなく、その後大遠距離の偵察と爆弾を搭載しての空襲といった任務は実際には大型の航空機と飛行艇によって行われるようになります。


Writing by FT1990N
1/700艦船模型にはまってます

アイキャッチ・本文中の画像は、適切な画像資料を見つけることができないかったので、フリー素材の現代の飛行船のモノクロイメージや、パブリックドメインの前後年代の各国飛行船によるイメージとなります。

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