起こりうる全面戦争、アメリカとイランの戦争を考える。

2020年1月3日、イラクのバクダート空港近辺を車両で移動中であったイラン革命防衛隊コッズ部隊の司令官・ガセム・ソレイマニ少将が、アメリカ軍の攻撃を受け同乗者含む10名が死亡した。
この攻撃はアメリカ軍が遠隔操作型の無人機であるMQ-9リーパーに搭載したロケット弾で実行したもので、当時のアメリカのトランプ大統領の指示の元に行われた事が公表されている。

トランプ大統領はソレイマニ少将がアメリカ軍及び政府職員らに対するテロ攻撃を画策していたと示唆し、起り得る脅威に対して先制攻撃を行い、これを排除したと世界に発信した。
これを受けてアメリカとイランの対立は激化し、両国の本格的な戦闘から戦争へと発展する可能性も指摘されたが、2021年6月時点ではその最悪のシナリオは回避されている状態だ。
近年のアメリカとイランは、絶えず対立を繰り返す険悪な関係にあるが、ずっとこうした構造が継続されてきた訳ではなく、時のイランの政権によってその距離は変化してきた。

第二次世界大戦後のイラン国王・パフラヴィー2世は親米英路線を推進したが、同国の生命線である石油利権をイギリスに掌握されていたため、民族主義を掲げるモサデクが首相になりその国有化を行った。
本来民主派でもあったモサデク首相だが米英は当然イランの石油利権を手放すつもりは無く、1953年には同首相を失脚させ、パフラヴィー2世を復権させて石油利権と非共産主義化の両立を企図した。
しかし1979年、反パフラヴィー2世を唱えるイスラム教シーア派がその追放を成功させ、宗教指導者ホメイニ師をトップに据えたイスラム原理主義、反米英のイラン=イスラム共和国となり現在に至る。

アメリカの方針

中東地域におけるアメリカの戦略方針は、第二次世界大戦以降ある種一環しており、同地域の石油利権確保と、確固たる自国の影響力の保持の大きく2点にあると考えられる。
これらを実現する為にイスラエルを支援しており、またサウジアラビア等の親米政権には政治的な影響力を行使すると同時に、自国製兵器の輸出やアメリカ軍の駐留地を置くなどの施策を継続している。

1979年のイラン革命までのパフラヴィー2世の政権でも同様であり、更に湾岸戦争・イラク戦争でイラクのフセイン政権を軍事力の行使によって直接排除したが、これも同様の政策の一環だろう。

現在のイランやイラク戦争、その後続いている中東の混乱に対して、アメリカは自由と民主主義をスローガンに自国の正当性を主張しているが、親米政権であれば独裁でも放置しているのが事実だ。
但しイラク戦争の大義とされた「大量破壊兵器」をイラクが保有していなかった事は最早周知の事実となっており、親米国を増やしつつ中東の民主化を進める理論も既に破綻している。

アメリカ国内の世論も中東への軍の派遣に批判的な声が高まっており、正規の軍人の戦死者数を見かけ上減少させる為、民間軍事企業の人員を派遣するなど本末転倒な事例も多いようだ。

イランの方針

1979年のイラン革命後の現イランの基本方針は、反アメリカの民族主義であり、イスラム教でも少数派であるシーア派の政権であるため、同教の内部での勢力争いにも晒されている。
イラン以外のイスラム教の周辺国はスンニ派が大勢を占めており、当時1980年のイラク・フセイン政権も同様であり、自国内へシーア派の革命の連鎖が起きる事を強く危惧していた。

そのためアメリカはこの時点ではフセイン政権を支持しイラン打倒を支援したため、1980年から1988年迄8年間も続くイラン・イラク戦争が発生、何とかイランはこの戦争を耐え抜いた。
こうした攻撃に晒されたイランが抑止力としての核兵器開発を推進していたのは事実かと思われるが、政情が不安定な中東でイランが核兵器を保有する事を欧米諸国は由とせず経済制裁を発動した。
このイランの核開発問題は、一旦2015年にアメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの西側諸国とロシアや中国を加えた6ヶ国との間で協定合意に達し、欧米からの経済制裁が緩和される事となった。

しかし2018年にアメリカのトランプ政権はこのイランとの核開発合意を破棄する方針に再度転換、経済制裁を復活させ、翌2019年にはイラン自身もこの合意の履行を取りやめ、緊張が高まっている。
これによりアメリカは空母打撃群をイランに差し向ける等の軍事的圧力を高め、反発を強めるイランはアメリカ軍の遠隔操作型の無人機を撃墜するなど、武力衝突の可能性も大きくなっている。

アメリカとイランの軍事力比較

世界各国の軍事力を数値化し総合的にランク付けを行っている事で知られている「グローバル・ファイア・パワー」の2021年度のランキングによれば、当然1位がアメリカ、イランは14位となっている。
これによればで2位ロシア、3位中国、4位インド、5位日本、6位韓国、7位フランス、8位イギリス、9位エジプト、10位ブラジル、11位トルコ、12位イタリア、13位ドイツ、15位パキスタンである。
更に16位インドネシア、17位サウジアラビア、18位イスラエル、19位オーストラリア、20位スペインと続き、順位に若干の変動はありつつもここ数年の世界のトレンドに大きな変化はないと言える。

では軍の内容はと言えば5位の日本とは言えアメリカと互して戦闘・戦争が可能かと考えれば、順位以上の大きなギャップがあるのと同様に、イランがアメリカに勝る分野はひとつとしてないだろう。
アメリカは年間約7,500億ドルの軍事費で、総兵力140万人、航空機約13,200機(内戦闘機約2,100機)、戦車約6,300輌、主要艦艇490隻(内大型原子力空母11隻)を誇り世界中に戦力を展開可能だ。
イランは年間約196憶ドル円の軍事費で、総兵力87万人、航空機約500機(内戦闘機約150機)、戦車約2,000輌、主要艦艇400隻だが、空母はもちろんなくその大半が小型の艦艇に過ぎない。

無論アメリカもその保有する全兵力をイランに投入出来る訳ではないが、予算額だけでもイランの40倍近くにも昇る上、湾岸戦争・イラク戦争でも明らかなように兵器の質自体も圧倒的に高い。
そのためそれらの戦争時と同様にその気になれば、ステルス性能を有する爆撃機や戦闘機で容易にイランの制空権を奪い、戦車部隊などの陸上部隊を楽に侵攻させる事が可能だと思われる。

今後の可能性

寧ろ問題はイラク戦争のその後を考えた場合に、そこまでの戦力を投入してわざわざイランと戦争を行う事のメリットがアメリカにあるか否かと言う点であり、積極的な利点は乏しいだろう。

イランと同様にイスラム教のシーア派が政権を持つ周辺国には、イラク・レバノン・アゼルバイジャン・バーレーン等があるが、何れも軍事力は中東においても小さくイランに協力する可能性も少ない。
もしイランがアメリカと戦うとすれば、2020年に発生したナゴルノ・カラバフ紛争のように、アゼルバイジャン軍がアルメニア軍に対して自爆型のドローンによる攻撃を効果的に行ったようなケースはあり得るかもしれない。

安価な自爆型のドローンが、アメリカ軍の高価な戦車や車両、または艦艇等に損害を与える事が出来れば、費用対効果の点からアメリカが戦闘に及ぶ事を躊躇する可能性はあるだろう。

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