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アンティークの指輪を買ってから

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みなさんはアンティーク小物はお好きですか?
古い物には不思議な魅力があり、それに魅せられる人も数多い・・・人から人の手に渡るうちに様々な巡り合わせによって、何かが宿ることも多いらしい。
それが良いものなのか悪いものなのか・・・・人は選べない・・・。

目次

友達が買った指輪

私が高校生の時、同じクラスになった三人といつもつるんでいた。
マイコ、ユメ、ナナミとでもしておきましょうか。

ある日、マイコが指輪を買ったと見せてきた。
彼女はアンティーク系の物が好きで、新しいお店を見つけ何か買ってはみんなに見せていた。

「みてみて?!この指輪よくない? ピンクの石が超かわいいの!」

イエローゴールドのリングは複雑に絡み合ったツタのような装飾。
中央に宝石のような小さな石がついていたが、それはピンクというよりも赤に見えた。
光の加減によって色が違って見えるのだろうと思い、私は特に何も言わなかった。

ユメが「どこの店で買ったの?」と訊ねると
「バイト行く途中で新しく店ができてて、そこで買った」とマイコは答えた。

「また変な店なんでしょ?」とナナミが笑いながら言うと
「アンティーク売ってる店は大抵変だよ。そこがいいんだって!」と受け流した。

マイコは「いい買い物したわ?!」と上機嫌で指輪を着けた手を満足気に眺めていた。
その時に見えた石の色はやっぱり赤かった。

最初に起きたこと

それから三日後のことだった。
美術の時間にデッサンを行うことになり、鉛筆をカッターで削っていた。
デッサンで使う鉛筆は芯を長く出したいので、鉛筆削りではなくカッターを使わなければならない。

カッターで鉛筆など削り慣れていないため、みんな苦戦していた。
しかも芯を長くしなければならないので、やり辛さは倍増。
「めんどくさーい」「芯折れた」の声が上がる中、それぞれが作業に勤しんだ。

「痛っ!!」

向かいの席から声が上がり、顔を上げた。
マイコが顔をしかめながら、左手を押さえている。
その指からは血が流れ出ていた。

「やだ!ティッシュ!ティッシュ!」
「大丈夫?」

クラスメイトが騒ぎながら、マイコを取り囲んだ。
集めたティッシュで患部を押さえるが、すぐに真っ赤に染まりきった。
先生が「保健室に行きなさい」と指示し、私がマイコに付き添うことになった。

「うえ?最悪だよー」
「どんだけ深くいったのよ?」
「けっこうザックリいったかも。つーか今どき鉛筆カッターで削るとかなくない?」

心臓より上に手を上げ、重ね過ぎて団子状になったティッシュで傷を押さえながら保健室に向かう。
既にティッシュはうっすらと赤味が浮かんでいた。

「縫うんじゃね?」
「マジ勘弁。ってか二日目かってくらい血出てんだけど」

保健室に到着し、保険医に傷を見せる。
かなり深い傷ではあったがギリギリ縫わなくていいと言われた。
傷口に分厚いガーゼを当てる処置をしている間に出血は止まった。

白い帽子を被せられたような指先を小さく前後に動かしながらマイコが言った。

「指輪に血がついて汚れちゃったよ。ホント最悪だわ?」
「水で洗えば落ちるでしょ」
「アンティーク小物を水で洗うとかできないし!」
「そうなの? まぁ拭けばなんとかなるっしょ。つかそのケガでバイトいけんの?」
「ヤベッ忘れてた。無理くさくねコレは」
「知らんがな。店長に訊け」

ブツブツと文句を続けるマイコの指にはまっている指輪を見た。
以前よりも石が赤くなっているような気がしたが、流れた血液が着いたのだろうと考え、すぐに気にならなくなった。

再び

それから三週間ほど経った頃だったと記憶している。
登校してきたマイコの腕に包帯が巻かれていた。

「どうしたソレ?」

ナナミが口火を切る。マイコはゲンナリした表情で答えた。
「バイトで火傷。しかも大火傷」
「寿司屋で大火傷ってなんで? カウンターの給湯器で手でも洗った?」

ユメがからかい半分で言う。
「洗わねーし! 鍋だよ鍋! お湯沸かしてた鍋がいきなり跳ねたの! そんで私の腕に熱湯がバシャーってモロかかって! マジあり得なくない!?」
「鍋元気良すぎるだろ!」
「ジャンプする鍋!」

ナナミとユメが茶化すが、マイコは応じなかった。
私もさすがに笑う気にはなれなかった。

「笑いごとじゃなくね? 火傷って痕残ったりするし」
「すぐ冷したからたぶん大丈夫って医者が言ってた。ドリンク用の氷で氷水作って腕漬けたし」
「痕にならないならよかったね」

私がそう言ってもマイコは釈然としない顔。

「なんかケガばっかでマジヘコむ?」
「こないだも指切ったしな」
「厄年とか? お祓い行って方がいいんじゃない?」

ナナミが言った言葉にふと思い当たることがあった。

「指輪買ってからついてなくない?」
「うわ?! 呪いの指輪じゃんソレ!」
「マジリング!」
「やめてよ?せっかく買ったのにさ?!」
そう言うマイコの手元を見て驚いた。
指輪の石が以前見たときとは同じ石とは思えないほど真っ赤になっていたのだ。

「ねぇ、その石・・・ピンクって言ってなかったっけ?」
「そうだよ。ピンクでしょ?」
「は? 赤じゃん」
「赤っしょ。赤以外あり得なくない?」

ユメとナナミが言うと、マイコは驚いた顔。
「違うよ。ピンクだよ。ピンクだよね、これ」
私へ手を差し伸べながら訊ねた。

「私には赤に見える。マイコは本当にこれがピンクに見えるの?」
「ウソでしょ? なんで? おかしくない?」
彼女にだけはピンクに見えるらしいその指輪をみんなが黙って見つめていた。
その後始業のチャイムがなり、それぞれが自分の席に着席。
マイコは授業中も左手を眺めていた。

忘れたはずなのに

マイコが大火傷を負ってから二週間後だったと思う。
テスト週間が終わり、少し気が抜けた日々を送っていた。
登校後の朝の教室でダラダラと話していると、顔色の悪いマイコが真剣な顔をして現れた。

「おはよう」
「おはよう。マイコどした?」
「マジヤバい。これ本当に呪いの指輪かもしんない」
あまりに真面目な顔と声に誰も茶化す気になれなかった。

マイコの話では、バイト先に到着した際、控室に入ったらまず手を洗うことになっているらしい。
マイコはいつも指輪を外し、洗面台にある石鹸類が置いてある台に置き、手を洗ってから指輪をケースにしまっていた。
それから着替えを済ませ、もう一度手を洗ってから仕事場へと向かう手順になっているとのことだった。

しかし、昨日は手を洗っている時にバイト仲間に話しかけられ、うっかり指輪をしまうのを忘れたのだ。
それに気付いたのは親の迎えの車を待っている時。
戻るのも面倒だし、明日もシフトが入っていたのでそのままでいいやと考えた。

それから迎えに来てくれた車に乗り、家までの道中で少し寝てしまったそうだ。
家に着いたと起こされ、帰宅して自分の部屋に入り、いつもの癖で指輪を外そうとしたところで気が付いた。
ないはずの指輪が指にはまっていたのだ。

車内で眠ってしまってので、夢の中で忘れ物をしたのかと考えたが、そうではなかった。
確かにバイトに行き、いつもの洗面台の場所に指輪を置いて、そのままにしてきたはずだった。

「テスト勉強で寝不足だったからボケてるんだって」
「本っ当! マジで! 本当に忘れたんだって!」
「いやいや、だってそれじゃあなんであんのよ?」
「私だってわかんない! もうヤダ! 恐いよ!」

マイコの話を聞き、私達もさすがに彼女が嘘をついているとは思わなかった。そんな嘘をつく理由もメリットもないのだ。くだらないことで気を引くような素振りをする性格ではないことをみんな知っている。

指輪どうするの?

「そんで、指輪はどうした?」
ナナミが訊ねると、マイコは鞄からガムテープの塊を取り出した。

「部屋にあったケースに接着剤つけてフタして、アルミホイルで包んで、ガムテープでグルグル巻きにした」
「それから指輪見てない?」
「ない。昨日の夜にこうしてからは戻って来てない」
「これでまた指にはまってたらビビるどころじゃないよね」

ユメの言葉に誰も答えられなかった。

「で、どうすんのこれ?」
私は机の中央に置かれたガムテープ球を指差して訊いた。
「供養? とかしてもらう?」
「どこでそんなことしてくれんの? 寺とか神社?」
「どこでもやってくれるわけじゃないっしょ」
「しかもお金かかるよね。五千円とか一万円とか? それくらい?」

当時の携帯電話はメールのやり取りが主で、ネットでググるといったこともできなかった。
私達は途方に暮れた。
もしも供養してくれる所があったとしても、田舎の高校生にとって五千円や一万円など簡単に払える額ではなかった。

「店に返せばよくない?」
ナナミが閃いた。
「それだ!」
「ナナ天才だし! そうだよ! 返せばいいじゃん!」
「そうしようよ! お金返って来ないかもしんないけど、でもこんなの手元にあるよりマシでしょ?」
「そうだけど、一人で行きたくない」
暗い表情でいうマイコにユメが言った。

「じゃあ、みんなで行こ! いいよね?」
「うん! オッケー! 今日塾ないし!」
「そうしよう! 放課後みんなで行けば恐くないよ!」
「ありがとう。そうする」
その後、ガムテープの塊と化した指輪はロッカーの隅に置かれ、休み時間の度にみんなでその存在を確認し合った。

最後の頼み

放課後、四人で例の店へと向かう。
重苦しい雰囲気を感じていないフリをしながら、誰もがワザと明るく振る舞った。
マイコの案内で足を進め、寂れた商店街に入った。
しかし、目的の店は無くなっていた。

マイコが示した場所には「空き店舗」の不動産屋の看板が掲げられていたのだ。
向かいにある古い靴屋の店主に訊ねると、一週間ほど前に荷物を運び出しているのを見たと言った。

「バイトの通り道なのに気付かなかったの?」
「テスト週間だったから休んでたし」
「昨日通ったっしょ?」
「遅刻しそうで走ってたから見てなかった」

マイコのうっかりには慣れていたが、この時ばかりは困惑した。
「じゃあ……どうする?」
「ここ置いてっちゃう?」
「ヤダよ。それでまた戻って来たら私マジ死ぬんだけど。恐怖で」
「絶対戻って来られないようにして捨てれば?」

ナナミの提案に顔を見合わせた。
「どうやってよ?」
「なんか重しして、川に捨てるとか?」
「川とか! エロ本捨てるんじゃあるまいし!」
「あっ! でも川あるよ! ここからちょっと歩くけど」
ユメの言葉を聞き、川に投棄する案が濃厚になった。

「しかも神社近くにあるから! 神社の近くだったらなんか良くない?」
「いいのかそれ? 罰当たりじゃね?」
「神社に捨てるわけじゃないから大丈夫っしょ」
他に処分の方法も見当たらなかったので、私達は川に向かって歩き出した。
全員がもう手放せるならなんだっていいという気分になっていた。

商店街から住宅街を抜け、小さな土手のある川沿いにやってきた。
ユメの言った通り神社もあったが、小さな鳥居と社があるだけの簡易の神社といった感じだった。

車が一台通れるだけの橋の上で川を見下ろした。
「ここでいい?」
「いいんじゃない? 人も来なさそうだし」
「投げ捨てる?」
「いや重しして捨てるんじゃなかったの?」
「ってか重しってどうやって付けんの?」

それから四人で考え、コンビニ袋に石とガムテープの塊を詰め、土手から投げ込むことにした。
拾った石の中央に塊を置き、さらにその上に石を乗せて、袋をキツく縛った。
「これなら絶対浮いてこないっしょ!」
「いける! ってかいくしかない!」

これでなんとかなって欲しいというヤケクソにも近い気持ちで私達は袋を持ち上げた。
「マイコが自分で捨てなよ」
「だよね。私がやんないとだよねやっぱ」
三人で人目がないことを確認した後、マイコが川べりから袋を投げた。
バシャンと水飛沫を上げて沈み、それは浮いてくることはなかった。

私達はやり切ったという気持ちと戻って来たらどうしようという恐怖感でいっぱいだった。
帰り道、マイコが「家帰りたくない。一人になるの恐い」と言い続けたので、みんなでメールし合うことを約束し、寝る間際までマイコとメールをし続けた。

翌朝、朝一でマイコから「指輪戻って来なかった!!!」
と連絡があり、ホッとしたのを今でも覚えている。

季節外れの

それからしばらく経った日のこと。
指輪のことは忘れ始めていたが、ユメの報告で思い出した。
教室に入ってくるなり、ユメが「これ見て」と携帯電話を差し出してきた。

川の土手に彼岸花が咲いている写真が表示されていた。
「なにこれ?」
「どこの川これ?」
「指輪捨てた川! 昨日、塾行く前に気になって寄ってみたら、こうなってたの!」
「ふーん」

土手に咲く彼岸花など田舎では何も珍しくはない光景だ。
誰もがそう思っていた。

「おかしくないこれ!? 今七月だよ! 夏に彼岸花咲かないじゃん!」

その言葉に背筋が寒くなった。
なぜ彼岸花がこんなにも咲き乱れているのか、私達には心当たりがあった。
「あの指輪、やっぱ赤だったのかな」
マイコの呟きに誰も返事はしなかった。

※画像はイメージです。

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