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傭兵達はセピア色の夢を見る「AVALON 灰色の貴婦人」をご紹介!

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今やメジャーコンテンツとして世界の収益構造でも大きな存在感を示す「ゲーム」の世界…この名がまだ「テレビ(ビデオ)ゲーム」として呼び慣わされるマイナージャンルであった時代、その世界に没入すれば「ゲームの稼ぎが現実のものになったら…」と、誰もが一度は思い描いたのではないかと言われるものでした。

本作は「ジャパニメーション」という造語を世に知らしめた一人と語られる鬼才「押井守」氏が自身もそんな思いに身を焦がした一人として、溢れる「押井節」を詰め込んだ中編CG映画「AVALON」の並行タイトルとして執筆された作品です。

仄明るいセピア色に染まる、低解像度の空と街並みに漂うノイズ塗れの硝煙臭すら感じさせるデジタル・テイスト満載の風情
・・・それは「e-Sports」が実在する「現在」を作り上げた同じ土台であるはずなのに、進む道が違ってしまった「同じ過去に連なる違った未来」を垣間見る「現実こそがSF」・・・そんな感覚で楽しめる一作です。

目次

見た目は「冷戦」中身は「ファンタジー」フレーバーには「あの騎士王」?!「ジャパニメーション」の草分けとなった鬼才が作り出した「ゲーム世界」の没入感をお楽しみあれ!

映像監督としてその名を知られる「押井守」氏の作風と言えば、意味ありげな故事成語を並べ立てては陰鬱で退屈な「有り触れた現実感」を煙に巻き、金襴緞子のグロテスク紋様を思わせる醜くも魅力的な非現実感満載の緻密な描写を舐めるようにまじまじと見せ付けては「穢れた現実」を描き出そうとする「押井節」とも呼ばれるものを他作でご覧になった方も少なくないかもしれません。

本作は文筆作品でありながらも、幕開けからその雰囲気を色濃く感じる事間違い無しです。
“この世界は強烈な既視感に包まれている”…唐突に詩的な独り語りで見る者を一気に引き込み、気付いた時には淡々とした書風で電子の匂いすら感じさせる「戦場」へと連れ込まれている所から物語は始まります。
銃声鳴り響く荒廃した戦場は、今や旧世代となった「冷戦期」の装備で身を固めた正規・非正規の武装集団が闊歩する紛争地の様相であり、まるでセピアや白黒で映し出される記録映像の世界を思い起こさせます。

そんな瓦礫の山と化した建築物へ身を隠し、擱座し打ち捨てられた戦車へ取り付いては捨て置かれた銃器を利用し、己の持てる全戦力を動員して生き残る道を模索する、文字通りの「サバイバル・ゲーム」に赴くのは「戦士」「魔道士」「盗賊」「司教」…まるで「ファンタジー」世界の職業が居並びます。

冷戦期の装備に身を固めた兵士達が兵科のように互いをファンタジー世界で認識し合う、何とも歪ながら何処か「しっくり来る」イメージとして落とし込む…或いはこれも「煙に巻かれて」しまっているのかと言うところの「説得力」こそは「押井守」氏一流の妙味と言えるものでしょう。

オンラインゲームがすっかり定着した2022年現在

「FF14」や「PSO」といった、銃器を始めとする近代兵器や果ては大型機械兵器まで貪欲に取り込んだ「オンラインゲーム」がすっかり定着した「2022年現在」では、ともすれば「持って回った」表現となるかもしれない表現は、刊行当時である2000年前後のゲーム事情を踏まえればある種「必然」とも言える表現だった事情があります。
この時期と言えば、インターネットがようやく業務レベルから趣味レベルにまで普及の度合いを高めていった時期であり、ネットワークを介した複数人協力ゲームの草分けともされる「ディアブロ」に始まりいわゆる「大規模多人数同時参加型オンライン(MMO)RPG」という呼び文句で以て「ウルティマ・オンライン」や「リネージュ」等のタイトルが人気を集めていった黎明期と言える時期でした。

「AVALON」はそんなゲームの奇形的な発展系として描かれている事から、斜に構えたスタンスでの皮肉たっぷりに「リアリティ」を大上段から構築するものとして、ファンタジーと現実が「濃密な悪戯心」で以て混ぜ合わされた世界観で打ち出されています。
その表題である「AVALON」が示すように、その「ゲーム内」において職業の呼び名に始まり、プレイヤー達が言い慣わすようになって普及していった「名称」が「アーサー王物語」のそれである…という背景が、何とも言えず退廃的で荒涼とした「戦場」の風景を呼び起こさせます。

それは、ともすれば20年前とは違ってしまった「有り得ざる未来への郷愁」とも言える風景かもしれません。
刊行から20年という時を経たからこその「SF性」…刊行当初は知る由も無かったこの「感覚」を通じて追体験する楽しみ方も一興というものでしょう。

ジャンクな魅力がその真価!お世辞にも上等とは言えない、汚れた酔っ払いと歪な高級感が織り為す「ディストピア飯」の怪しい「美味さ」目が離せない!?

本作は、表題「AVALON(アヴァロン)」と同名の「ゲーム」が世の中を席巻する世界が描かれます。
「俺」と称し、周囲からは「AVALON」で愛用する武器「FAL」にちなんでそう呼ばれ、或いはネットゲームの常として稀にそのハンドルネームである「カバル」とも呼ばれる人物の視点から見たその「現実」とは、高度に結実した機械化とネットワーク化によって完全福祉社会が完成した結果、人々は少なくとも衣食に事欠く事と、病からはある程度解放されています。

反面、社会から成長性が失われ、逼塞した中で供給されなくなったモノやサービスを求めるには「ヤミ」で供給されるものを取引しなければならない社会となった果てに「戦果」の一部として現金も供給される「AVALON」が中心的なエンターテインメントとして根差していった…という穏やかな退廃に満たされたある種の「ディストピア(押井氏は”単純再生産社会=ユートピア”と表現)」が形成されています。

「ゲーム」と「現実」を行き交う語り部の視点を通じ、事ある毎にその落差…火器の重量を物ともしない超人的な運動能力を存分に活かしたギリギリの戦いに「生きる」感覚と、それが「所詮ゲームに過ぎない」と「現実を突き付けるように」重苦しく気怠い感覚が得体の知れない非現実感で以て交錯する描写は、本作における大きな見所の一つと言える部分になっています。そんな視点を交錯させる描写の中で、その「生臭さ」とも言えるような、だからこそ強烈に現実感をもたらす描写として執拗なまでの存在感を放つのが「食事」のシーンです。

退廃的で気怠く、生の実感というものが極端に減退している世界観にあって、それでもなお人の身体が求めるもの…味わいを楽しむような余裕など欠片も無い、かといって死と隣り合わせである事が生み出す必死さとも違う、本当にささやかな最後に残された人間性の欠片を愛おしむように「食を楽しむ」姿を「現実と辛うじて繋ぎ止められる危うさ」として描くものとなっています。

「美味い不味い」といった「味覚」は遠く、浮かび上がるのは「硬い柔らかい」といった「感触」であったり、強烈なアルコールによる酩酊感などの「刺激」であり、或いは「落ち着いた場所で気兼ねなく温かな食事へありつける」という「憩い」であったりという、食事の描写として大変に「ジャンクな」ものと言えるかもしれません。しかしそれが故に「読者にとって」のそうした「安心感」や「憩い」の「味」を各々に思い起こしては、その感覚を同期させる描写として、不思議な「味わい」を感じさせるものと言えるでしょう。

「押井守」氏

「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」等の印象が強い「押井守」氏ですが、後年「立食師列伝」という作品や、或いは「イノセンス」における登場人物が飼い犬にドッグフードを丁寧に与えるシーンの描き込みなど「食事」という行為に対して思い入れを強く持つ描写が度々作中でフィーチャリングされる事があります。

本作におけるこうした書き込みもまた、その「こだわり」が発露した部分と言える…かもしれない部分として、作品に強い「味わい」を感じさせる部分となっています。
「腹が減っては戦は出来ぬ」という語もあるように食もまた戦争なり…という意図なのか、戦士の休息とも言えるこうした描写にも是非注目して頂きたい所が、本作の魅力です。

CG映画として封切られた「AVARON」の世界観

本作は中編のCG映画として封切られた「AVARON」の世界観を踏襲・補完した後日談という位置づけで執筆されており、映像作品では語りきれなかった部分へより踏み込んだ物語となっています。
後日談とは言うものの明示的な描き方ではない為、両作品どちらから触れてもその作品世界を存分に味わう事が出来るものとなっています。

今回は個人的な思い入れとしてノベルス版を紹介させて頂きましたが、是非とも映画・ノベルス双方に触れる事で「AVALON」の世界を「コンプリート」して頂きたいと思う次第です。
また「押井守」氏は、この3月から全話配信されている「ぶらどらぶ」において原作・総監督を務めるなど、年月を経て作品性を多彩に変化させながら活動を継続されています。

その作品性を知る上でも「かつての情熱」を今改めて問い直す価値はきっとあるはず。是非お試しあれ!

著:押井 守, イラスト:toi8
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AVALON 灰色の貴婦人 (C) 押井守 メディアファクトリー

「テレビゲーム」の画面に向かい合った事がある人ならば一度は思う「ゲームの結果でお金が稼げたら」…そんな「夢」の残り香を最も皮肉な「リアリティ」で描き出す、かつて子供だった大人達も口を閉ざす「押井守」ノベルス!決してきれいではない「居心地の良さ」にご用心?!ちなみに「RPG=ロールプレイングゲーム」以外の略称は本作で覚えました。

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