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神社で禁止になった遊び

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私が五、六才の頃の話。
当時は団地に住んでいて、その敷地内に小さな神社があった。入口に鳥居はあったものの社はとても小さく、賽銭箱もなかった。しかし、草取りなど最低限の手入れはされており、おそらく氏子や自治会が定期的に行っていたと思われる。
大きな木が何本かあり、夏場は日陰が多くできて涼しく、子ども達の遊び場になっていた。

目次

かくれんぼ

団地の同じ棟には同じ年の子が多く住んでいて、みんな幼馴染。約束せずとも外に出れば誰かいるので、自然と集まって遊んでいた。公園は小さな子達が遊んでいたので、ある程度の年の子はみんな神社で遊んでいた。おやつを持ち寄って食べたり、かくれんぼや鬼ごっこをするのが定番。

その日もいつものようにかくれんぼ。
神社の敷地内に隠れるというルールだったので、隠れる所はある程度決まっていて、それでも当時は飽きずに繰り返して遊んでいた。

何度目かわからないかくれんぼの鬼は、一番仲の良かった友達に。
そこで私は見つけに来た友達を驚かしてやろうと、わざと見つかりやすい社の真後ろに身を潜めた。そこは鬼が一番最初に探しに来る場所だからだ。

「もういいーかーい?」
「もういいーよー!」
お決まりのやり取りの後、近付いて来る足音を聞いてから、膝を抱えて座り込んで顔を伏せた。

泣いたフリをして、心配して覗き込んで来るであろう彼女を大声で驚かす作戦。
驚いた友達の顔を想像するとワクワクした。

早く来ないかな、まだかなと思っていたが、一向に足音が近付いて来ない。
それどころかまったく足音が聞こえない、他の場所に探しに行ったのかと思い、顔を上げた。

知らない場所

すると目の前にはまったく知らない景色が広がっていた。
驚いて振り返ると、背にしていた社がない。
後ろには太い杉の木があり、周りも杉の木しかなく、神社よりも薄暗く、カビ臭い空気が漂っている。

突然の出来事に心臓がバクバクいいだす。
自分がどこにいるのかわからない、一緒に遊んでいたはずの友達もいない。
泣き出しそうになるのを堪えて、私は走り出し、見渡す限りの杉の森林の中をただ闇雲に進む。

しばらく行くとポツンと一つだけ咲いている花を見つけた。
見たことのない花だ・・・青と紫の間の色味をしていて、大きい花びらが五枚ついていた。

珍しい花なのかなと思いながら、足を進めると、また同じ花が咲いていた。
今度は花びらが三つ、花びらの先が少し白い。
まだ色がついてないんだろうと思って通り過ぎた。

そしてまた花を見つけ、さっきよりも多い数で、パラパラと散らばって咲いていた。
さらに白い部分が多い花だ。

そこで足を止めた。
先程の場所もそうだが、ほとんど日の当たらない森の中、どうして花が増えていくのだろう?
以前、農家の祖母が言っていた言葉を思い出した。
「花も野菜もお日様の光を浴びて育つんだよ。だから、日が当たらないと生きられないの」

この花は何かおかしい。もうこれ以上先には進んではいけない。
そう思い、来た道を引き返した。
とにかくここを出なければと思い、全力で走った。

花があった場所を抜け、感覚だけで直進する。
パキパキと小枝の折れる音と自分の呼吸音だけが響く。

もう息が苦しくて走れないと足を止めると、水の音が聴こえ、川が近くにあるのだろうと音のする方へ進む。
森林の端に来ると、コンクリートで舗装された法面になっていて、その下に川が見えた。
その景色に見覚えがあった。
同じ保育園に通う友達の家の牛小屋の近くがこんな景色だ。

「Kちゃんのお家かもしれない」
そう思ったら怖さが半減した。
この川を背にまっすぐ進めば、Kちゃんの家のそばの畑に出るはずだ。
以前遊びに行ったとき、Kちゃんの後ろをついて歩いたので覚えている。
小走りで前に進んで、しばらく行くと、前方が明るくなっているのが見えた。
一気に走り抜ける。早く森から出たかった。

ザッと音を立てて森から飛び出すと、そこは畑。
すぐそばにいた大人が驚いて「きゃああっ!」と声を上げる。
「えっ!アヤノちゃん?」
「Kちゃんのお母さん!」

私は泣きながらKちゃんのお母さんに抱きついた。
「どうしたの?なんでこんな所から出てきたの?」
「わかんない!気付いたら木がいっぱいあるとこにいた・・・」

それから私は神社でかくれんぼをしていたことを伝えたが、Kちゃんのお母さんは要領を得ないといった顔をした。
そして、車で私が住んでいた団地まで送ってくれた。

車が駐車場付近に来た所で私の母を見つけ、Kちゃんのお母さんが声をかけ、事情を説明すると母はとても驚いていた。
かくれんぼをしていたら私の姿が見えなくなり、帰ったのかと思った幼馴染の一人が私の家を訪ねたそうだ。
出てきた母に私の居場所を訊くと帰っていないと言われたので、かくれんぼをしていたらいなくなったと伝え、母も探すことになった。
それからみんなが親を呼び、ずっと私を探していたそうだ。

Kちゃんのお母さんにお礼を言い、それから幼馴染達にもお礼と謝罪をして帰宅した。
階段を登っているところで夕方の五時を知らせるチャイムが鳴る。

お昼ご飯を食べ終えてから遊び始めたのを覚えている。それからこの時間まで私はずっと彷徨っていたらしい。
感覚としては数十分といった感じだったので驚いた。

家に帰ったあと、母にどうしていなくなったのかと訊ねられたので、体験した事を説明した。
母からすれば当然信じられるものではなかったが、事実として私は団地から二キロほど離れた場所にあるKちゃんの家の畑に現れ、車で送られて来たのだから信じるしかないといった様子だった。

かみ合わない話

それから数日後・・・・Kちゃんの家で遊ぶことになり、いつものようにKちゃんの部屋で遊んでいた。
そこで私は先日の出来事をKちゃんに話した。

Kちゃんもお母さんから聞いていたようで、驚いていた。
「Kちゃんは森で迷ったりしないの?」
「迷わないよ。全然広くないもん」
「えっ! そんなことなかったよ?だっていっぱい走ったもん」
「牛小屋の林は広くないよ。でもアヤノちゃんが出てきたのは牛小屋の畑じゃなかったよ」
「そうなの?」
「うん。お母さんが言ってたよ。向かいの畑だったって」
「でも私、川見たんだよ」
「じゃあ行ってみる?」

Kちゃんと一緒に川の近くに行ってみることにした。
家を出て庭を抜けるとすぐに牛小屋があり、牛小屋の中を通って反対側に出ると川が見えた。
法面がコンクリートになっている、前に見たときと同じ景色。

それから川に沿ってしばらく行くと、杉林の中に入った。
「ここでシイタケ育ててるんだよ」
Kちゃんが指差す方を見ると、シイタケの原木がズラリと並んでいた。
「前来たときはなかったよ」
「そんなことないよ。いつも置きっぱなしだもん」
「そうなんだ……」

それから川を背にして、原木が並んでいる脇を歩くとすぐに畑に出た。
しかし、私が先日出て行った畑ではない。
「ほら、広くないでしょ?」
「うん。あと畑も違うよ」
「だから言ったでしょ。もう一個の畑行ってみよう」

Kちゃんのあとに続いて歩いて、畑を抜けると片側一車線ずつの道路で、そこを渡った先に畑がある。

「こっちじゃなかった?」
「うん!私ここに出てきた!」
「でもアヤノちゃん川見たって言ってたよね? こっちの林には川ないんだよ」

目の前には急斜面の杉林が広がっていた。とてもじゃないが、子ども一人で登って入っていける林ではない。
「私こんなとこ走らなかった。ずっと平らな道だったもん」
「でもこの畑に繋がる林はこの山の林しかないよ」

私が見た景色と現実の場所がまったくかみ合っていない。
私は訳がわからなかった。

「お母さんが後ろから何か飛び降りてきたから、猿か猪かと思ってびっくりしたって言ってたよ」
「飛び降りてないよ。走って来ただけだったもん」
「でも、ここ飛び降りないと畑に出られないよ」

Kちゃんの目線を追うと確かに飛び降りなければならないほど高い段差があり、その先が杉林の斜面。
・・・いったいどういうことだったのだろうか?
考えてもわからないので、私達は部屋に戻り、その後はいつも通り遊んで過ごした。

再び

そんな出来事があってから、神社で遊ぶときはかくれんぼはしないことになった。
ただそれはいつも遊んでいるメンバーでの決まり事だったので、他の子達は普通に遊んでいた。

小学生になると神社で遊ぶことはなくなり、友達の家や駄菓子屋に行くことが多くなり、私はすっかりこのことを忘れてしまった。

ある日の夕方インターホンが鳴り、母は慌てた様子で私と妹に話す。
「Tくんが遊んでたらいなくなっちゃったんだって。みんなで探してるから、アンタ達も一緒に来て」
Tくんというのは一つ下の階に住んでいる、妹と同じ年の男の子。

外に出ると神社の前に同じ棟に住む人達が集まっていたので話を聞くと、神社でかくれんぼをしていたら、Tくんだけ見つからないというのだ。
私は当時のことを思い出し、同じ状況に背筋がゾッとした。

神社の中は探し尽くしたので、団地の周辺を探すことになり、私達は公民館の方を探していると、見つかったという声が聴こえた。
Tくんは工事や建築現場から出てきた大きな石を置いておく、石置き場でしゃがんで泣いているところを発見されたらしい。

そこは団地から数百メートルほどしか離れていないのだが、危険な場所なのでロープが張られて立入禁止になっている。
普段からそこで遊んではいけないと言われていたので、誰も近付かない場所だった。

Tくんの話によると、神社でかくれんぼをしていて社の後ろに隠れ、気付いたら森の中を彷徨っていて、突然石置き場にいたと言う。
私と似たような出来事に母と幼馴染達は言葉を失い、周りの人達も気味が悪いとコソコソと話しをしていた。

それから

それからというもの、あれからも似たような事件が何件か起きて、あの神社で遊んではいけないということになった。
最初はかくれんぼをしてはいけないだけだったが、いつの間に遊ぶことそのものが禁止になった。
いなくなった子どもが全員無事に見つかったのは幸い。

いったいあれはなんだったのか?
もしも花の咲いている方向に進んでいたら、私は帰って来られなかったのだろうか。
そしてなぜ、友達の家の畑に出られたのか?
今でもわからないことだらけだ・・・・。

ちなみに隣りの市に引っ越し、その後、団地はなくなってしまった。
もう二十年以上そこに足を運んでないので、神社があるかはわからない。
あったとしても足を踏み入れる勇気はない。

とりあえず、神社でかくれんぼだけはやめた方がいいことは言っておく。

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