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おそらく後輩に懐かれた話

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変哲もない夜中だったはずだ・・・・腹と右足首の痛みで目が覚めるまでは。

職場の期待の後輩の成長に同僚と先輩で喜んで、私がかけた称賛の言葉に後輩がはにかみつつ喜んだ。
そんな微笑ましく些細な事があった日の夜だ。

体勢は仰向けのまま、脂汗をかきながら辺りを見渡す。金縛りは科学的に証明されていると文献で読んだことがあったがそんなことは関係なかった。オカルト的な要因だろうと病気的な要因だろうと、頭は冴えていくのに動くのは眼球だけで指一本動かせない現状にただ焦る。
唯一動く目が暗順応により暗闇に慣れていくと左の視界がやけに暗い影を捉え、佇んでいるものが何か理解するのとマズいと思うのは同時だった。

目次

長い髪を垂らした女が此方を伺っていた

女と言っていいのか?
容姿的には人間からも程遠かったがともかく当時は本能的に女だと感じた。
毛先が不揃いの傷み切った髪を振り乱し、眼球は見えず真っ黒な眼孔は裂けんばかりに見開き恐らく此方を見ていた。首は異様に長く、骨ばった関節は暗闇の中輪郭を浮かばせ、女の左手は此方の右足を掴み、右手は腹を押していた。

グ・・・と腹を押し込みながら女は何かを叫んでいる。金属を延々と擦り合わせるような金切り声で、何重もの音が重なり聞き取れない、文字に表せないような言葉で、此方の顔に髪がかかるくらいに近づいて何かを叫んでいる。

うるさいやめろ!と口を動かす事は出来たが、一瞬動きを止めた女は一層叫び声を上げながら引き千切れるかというほど右足首を捻り上げてきた。
あまりの激痛に視界が薄れ、次に目を開けた時には部屋は朝日に照らされていた・・・女は居なかった。

数日後にこの事を母に話してみた

そういう血筋なのか、親族に霊感というものを持つ者が多く、兄や母がその部類だった。
どんなに激痛が生々しくても、朝起きた時足首や腹に浅黒い手形が・・・なんてことは無かったから。
霊感のある母から一言「それはただの夢だ」と言われて安心したかった。

「それは、夢だと思ってた方が楽だよ」

実際貰ったのは何とも言えない言葉だった。

職場で思い出しため息を吐いていると後輩が声をかけてきた。
体調不良を懸念し休むように勧めてくる、器量よし気配りも出来る、共通の趣味で盛り上がれる後輩。

私を本気で心配してくれているのは身に沁みてわかるが。
あの日の女の顔が似ても似つかないはずの後輩の顔にちらついて、母の言葉が脳裏を横切る。
目を逸らしそうになるのをこらえた。

母の言葉の続き

「追い払えるもんじゃないよ。生きてるからね。」
「払うと本体が死んでしまう・・・悪意の類では無い、嬉しかったんだろうね。」
「その子随分懐いてるけど、夢だと思っていて一時すれば来なくなるよ」

つまりはこういう事だ。

※画像はイメージです。

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