わずか数日感の軍事教練、次々に炎上する「弱い」戦車・・・
徹底した取材によって独ソ戦末期のリアリズムを描写、巻末には宮崎 駿氏のコメントも。
恐ろしいほどの犠牲者を伴った第二次世界大戦ですが、とりわけ敗勢にある国の厳しさは筆舌に尽くしがたいものがありました。
日本においても、学徒出陣や「一億総特攻」体制など、後のことを一切考慮しないような臨戦態勢が取られていきました。
しかし、沖縄以外の本土への直接侵攻を免れた日本よりも、領土全体が占領されようとしていたドイツにおいては、より過酷な戦時体制が存在していました。
徴兵対象外の人を戦闘員として集めた国民突撃隊やヒトラー・ユーゲントによる戦争参加など、まさに全国民が否応なく絶望的な戦いに趣いていた現実があります。そんな時期の独ソ戦を、在独日本人少年の北村 透の目を通して描いたのが本書「ベルリン1945―ラスト・ブリッツ (歴史群像新書)」です。
わずか数日間の訓練で最前線に
1945年4月、在独日本人たちが疎開をしようというまさにその日に同級生の出陣壮行会に行こうとした透は、その途中で知人であるアンナリーサがSS隊員に逮捕されそうになっているのを発見し、揉め事を起こしてしまいます。
何とか追跡をかわすことには成功しましたが母親や日本人グループとははぐれてしまい、行き場をなくしたため、友達や学校の先生が所属する国民突撃隊へ入ることになります。
もっとも、前線任務を行う部隊であるとは言え、「突撃隊」とは名ばかり、わずか四日間の訓練で要員として仕上げられることになります(透たちはさらに、戦局の関係で訓練が切り上げられました)。
空襲やソ連兵たちとの遭遇戦といった苦境を乗り越え戦車に乗ることになった透たちですが、ばったばったと敵をなぎ倒し、自らは無傷で大活躍とは行きません。
降伏寸前のドイツ
欠陥がある試作戦車、撃破炎上される車両、延々と続く再出撃。
降伏寸前のドイツですからまともな戦力は残されておらず、透たち、にわか戦車兵に割り当てられたのは実験的な意味が強い試作戦車でした。
多くのロボットアニメや架空戦記ものでは「試作機」というのは異常に強かったりするものですが、現実には試作機の弱点を正して量産されるわけですから、アラが多くてひどい、ということにもなってきます。
透たちが乗る試作機も動力旋回装置がないなどかなりひどい出来で、奮闘するも早々に炎上し、放棄せざるを得なくなります。透たちは戦車を探してあちこちを奔走することになるのですが、せっかく見つけた戦車もよりベテランの戦車兵に接収されたり激戦の中で喪失したりと、自分たちの側に居着くことはありません。
また戦車兵と言えども、敵が間近に迫っている段階では任務は選べず、動かなくなった戦車をトーチカ化したお粗末な拠点での激戦を強いられたりもします。
これはやたらと試作機が強かったり、撃破されることがなかったり、パイロットの仕事だけをまっとうしていればいいという感じのロボット系アニメとの好対照をなしているとも言えます。
無限に出てくるような敵を前にしての、あまりにもハードで厳しい戦いの数々ですが、これこそが当時のドイツでのリアルだったのでしょう。派手さを抑え、淡々とした筆致ながらも、巻き起こった事態の凄まじさが伝わってくる一作と言えます。
巻末には宮崎 駿氏のコメントも
さて、本作の巻末には、世界的映画監督にしてミリタリー関係の博識者としても知られる宮崎 駿氏のコメントが掲載されています。
約十五ページに及ぶ分量で、戦車の実像やドイツ軍とソ連軍の根本的な違い、さらには急場をしのぐアニメ制作の秘訣等々にまで言及がなされています。
スタジオジブリの待遇が他のスタジオに比べて優れていることはよく知られていますが、その発想の一端が、欧米の軍隊における「戦争の日常化」にも重なるものでもあった、といった興味深い部分が含まれており、ファン必見の内容になっています。
featured image:ベルリン1945―ラスト・ブリッツ (歴史群像新書) (C) 梅本 弘 学研プラス
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コメント一覧 (1件)
ヒトラーユーゲントは事実上被害者であり、国民突撃隊は無罪。
「ナチスのやつらはみんな悪いんだ」というのはヒトラーユーゲントなどの少年兵を敵視することで、つまり虐待を受け傷つき死んでいった子どもを犯罪者扱いし敵視することだ。
ついでに言うが「少しでもナチスっぽいやつはみんな悪いんだ」というのは「賞味期限前日や当日、1日でも過ぎた食べ物は全て捨てろ」というのと同じであり極左的で危険だ。