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ハリウッド暗黒史 ~ブラックダリア事件~

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最初はマネキンのように見えた。

空き地の草むらに投棄されたそのマネキンは、まるで幼児が胴と脚を力まかせに引っぱって壊したバービー人形のように、腰から真っ二つになっていた。
冷たい大理石のような白い肌が赤黒い傷をいっそう浮き立たせている。よく見ると、あたりには蠅が飛んでいた。

通りがかった近所の主婦、ベティ・バーシンガーは、それがマネキンでないことに気づくと、一目散に近くの家へ駆けこんだ。
ハリウッド暗黒史に語りつがれるブラックダリア事件の第一通報者である。

目次

犯罪史上もっとも美しく、残酷な死体

パトカーが到着するまでのあいだ、無線でのやりとりはスクープをさがす新聞記者に筒抜けになっていた。
現場にいちばん乗りした記者がそこで見たものは、さながら悪魔がいたぶり尽くした肉の塊だった。

被害者は若い女性で、生まれたままの姿。死体は上半身と下半身とに切断され、口は左右の耳まで切り裂かれたグラスゴースマイル。胸や大腿には裂傷や薄くスライスされた痕があった。首、手首、足首には縛られたあざ。顔面に打撲傷。

へその下から恥丘にかけては縦に切り裂かれ、両脚はまるで男を誘うかのように開かれて、死後も彼女を女性として辱めていた。のちの検死解剖によると、切り取った肉片が膣や肛門に詰められていたという。肛門は不自然に拡張しており、何をされたかは言わずもがな。彼女は生きながら身体を切り刻まれたとみられている。

犯人は死体の血を残らず抜きとり、全身をガソリンで洗い流すという周到さで、自身の痕跡を完全に消していた。
悪魔に魅入られた哀れな女性はエリザベス・ショート。映画スターを夢みる22歳の白人だった。

ハリウッド・バビロンの光と闇

patrick BlaiseによるPixabayからの画像

1947年にロサンゼルスで起きたブラックダリア事件は、ハリウッド黄金期の光と闇を象徴する事件といえるだろう。

ベスは地方の街でくすぶるには美しすぎた。全米に星の数ほどいる女優志願の女の子の一人として、彼女もまた夢を抱いてカリフォルニアにやってきた。この時、ベスの人生はあと6か月しか残されていない。

カリフォルニアではウェイトレスの仕事につき、軍関係者が出入りするクラブの常連となって夜の街の遊びを覚えた。漆黒の髪に漆黒の服を好んだ彼女を、人々は映画『ブルー・ダリア』をもじってブラックダリアと呼ぶようになる。

エリザベス・ショートに女優として活動した記録はない。大望を抱きながらも厳しい現実に打ちのめされ、身を持ち崩していく女優の卵がどれほどいることか。
皮肉にも、遺体発見現場は憧れのハリウッド近郊だった。彼女はハリウッドという魔都に吸い寄せられ、そこで禍々しいモンスターに遭遇して、アメリカ犯罪史上もっとも有名な死体として世に知られることになる。

犯人からの贈りもの

事件は連日大々的に報道され、自称犯人や自称関係者、自称ボーイフレンドが次から次へと現れた。
そればかりか、ベスと面識すらない多くの人がミッシングウィークに彼女を見かけたと名乗りでてきた。ミッシングウィークとは、行方がわからなくなった1月9日から遺体が発見された1月15日までをさす。この数日間にベスがどこにいたのかは現在も明らかになっていない。

一方、本当の犯人とみられる人物も新聞社とコンタクトをとっていた。「ベス・ショートの形見が届くのを待っていろ」という予告電話に続いて、新聞の切り抜き文字で「ダリアの所持品」と書かれた小包が発見される。中には彼女のアドレス帳、社会保険証、出生証明書、それぞれ違う軍人と写った写真が入っていた。
念入りなことに、これらの遺品もすべてガソリンに浸されており、犯人につながる手がかりはなかった。

つぎに届いた手紙には、手書きでこう書かれていた。
「1月29日水曜日午前10時に自首する。警察と遊ぶのは楽しかった。 ブラックダリア・アベンジャー(報復者)」
しかし、指定された場所にそれらしき人物は現れなかった。

不条理な後味の悪さ

ブラックダリア事件の後味の悪さは、その猟奇性もさることながら、人々の無責任で残酷な好奇心が被害者の尊厳をふみにじった点にある。
犯人の特定が困難になったのも、捜査が暗礁に乗り上げたのも、すべてはこの一点に端を発しているように思える。

警察が死体遺棄現場を確保する前に多くの記者や野次馬が足を踏み入れたことで、うら若き女性の無惨な姿がカメラにおさめられ、新聞のトップに掲載されてしまった(のちに傷痕消去や毛布で覆うなどの処置が施されている)。

また彼らは現場を踏み荒らし、犯人の痕跡を消滅させた。本来なら、犯人の特定につながる物的証拠が残っていた可能性がある。当日の明け方には、近くに停められた不審な車が目撃されていた。タイヤ痕や足跡も残っていたのではないだろうか。
パトカーが到着した時、ベスの亡き骸の周りは記者や野次馬の足跡だらけで、タバコの吸い殻が散乱するありさまだった。警察は遺体発見時の現場を検証できなかったのだ。

同じく未解決のゾディアック事件との関連性も指摘されているこの事件。犯人が今も存命かどうかはわからない。エリザベス・ショートの無念が少しでも晴れる日はくるのだろうか。

※画像はイメージです。

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