中2の夏休み、僕は1人図書館で勉強していました。
夕暮れどき、図書館の大きな窓から横にある公園で同年代と思われる子たちが、中当てをやっている姿が見えます。
外野が3人、内野で逃げているのは1人。そして僕の目は、その内野の子にくぎ付けになった。
出会い
男女の区別がつきにくい中性的な顔立ち、黄色いTシャツに赤色のランニングパンツ、白いハイソックス姿で否応なしに目立っている。僕がその子から目が離せなくなったのは、単純に見た目だけではありません。どこからどう見ても、僕だったのです。
顔が似てるだけならまだしも服装まで一緒。腰に手を当てたり、さらに口をぽかんと半開きにする癖も同じです。生き別れになった双子?それとも未来からタイムスリップしてきた僕自身?
やがてその子にボールが当たり、ゲームセット。その子は「うわあっ!あぁ」と絶叫して地面に倒れてしまいます。
ボールは軽く当たっただけのように見えましたが、その子は倒れたままずっと動きません。ほかの子たちが「なんともないくせに」「いつまで寝てんだよ」って話かけますが、グッタリして全然起きません。
1人の子がボールを脇腹にぶつけると、その子は体をビクンビクン痙攣させて、みんな笑っています。
数分するとその子は起きあがり、1人の子が「どうしたの?」と聞くと、その子は「分かんない」って答えました。
すると「またあそぼーぜ」と言いながら、みんな去っていき、いつの間にかその子も居なくなった。
接近遭遇
僕は訳が分からず、さっきのことばかり考えていると閉館時間となり、職員の人から「終わりです」って声かけられました。
帰ろうと立ち上がり、カバンを持とうとすると別の手がカバンを掴む。それはなんと、もうひとりの僕。
もうひとりの僕(僕B)は「僕が持つから」って・・・いつの間にそばにきたのか・・・全く気配も感じず不気味です。
間近でみると鏡を見ているように同じ姿、僕は気味悪くなって「いいよ」ってカバンを奪い返そうとすると、僕Bは「いいから」とカバンを引っ張った。僕は思わず手を放すとカバンが僕Bのお腹に当たり床に落ちました。僕Bはお腹を押さえて「あっ」ってうめき声を出し、目を閉じ口が半開きで机に突っ伏し、動かなくなった。
残っていた人たちの視線が刺さります。
職員の人がきて「ほら、いつまでもふざけてちゃ駄目でしょ」って注意され、やがて僕Bが起きて職員さんに「みぞおちに入って、失神しちゃったみたいです」と言いました。
職員さんは笑って「病院行く?あなたたち双子?」って聞いてくる。
僕は「すいません。帰ります」と言って学習室を出ると、いつの間にか僕Bはいなくなっていた。
二人きり
翌日、僕は一人で電車に乗っていました。空いている車内の少し離れた座席に僕Bが座っていました。
電車が揺れ、床の誰かが捨てた空き缶が転がって、僕Bのスニーカーに当たり、僕Bは「うっ!」「痛い」って叫んで、そのまま座席の上に倒れて動かなくなりました。
苦笑いしている周りの乗客、その中から女性の乗客が僕Bに近づいてきて「ごめん。あたしが捨てた缶。でも大げさすぎない?」って、僕Bの背中を叩きました。僕Bは起きると「あれ、僕どうしてたんだろう?空き缶が当たったあと、記憶無い」って言うと「大丈夫」って女性客は笑いました。
次の駅ですべての乗客が降り車内がガラガラになると、いつの間にか僕Bが目の前に座って「二人っきりだね」って嬉しそう。
聞きたいことは山ほどあり、何から話そうか迷っていると僕Bの方から語り始めました。
「どう?自分のこと見てた気分は?」って言うので、僕は「目立ちまくりすぎだよ」って答える。
すると僕Bは「まずそこかよ」って愉快そう。
「いつも口ぽかんと開けてるのがアホっぽい」
「確かに、他は?」
「やたらと声出しすぎ」
「そうそう・・・で?」
問答が続きます。
たぶんこの話
僕はたぶんこの話を待ってるんだろうなと思い一言、「失神するとあんな風にみられるんだ」。
実は僕Bのしてた事はパフォーマンスの一つで、普段僕がやっている。僕はちょっとしたことで倒れて失神したフリをします。倒れている僕Bの姿を見てる人たちには、あきらかに異様な目で見ている視線があって、それが面白いというか、どちらかといえば快感のように思えているのです。つまり、普段の僕も同じように見られているということです。
「止めた方がいいよ。ま、やめられないのは分かるけどさ」と僕Bはいいます。
「それで、君はなんなの?」と僕が尋ねると、いつものようにいなくなり、そのあとは逢うことはありませんでした。
それから
夏休み明けて秋から冬も近くなった頃、僕は病院にいました。
僕Bと別れた数日後の始業式、久しぶりにあった友達とふざけて鬼ごっこをしてながら帰っていた時の事。
鬼役の友達が軽くタッチした瞬間、僕はいつものように「うわ!」と大きな声で叫んで倒れました。
ところがそれが悪かった。そこは坂の途中だったので倒れたはずみで一気に転がり、坂の下の大きな道路に投げ出されて車にベシャリ。いつもの事かと大笑いしていた他の子たち、声が悲鳴に変わったのをうっすらとおぼえています。
一命をとりとめたのですが、中性的だった面影が無くなるほど顔がひしゃげ、すこし脊椎を痛めたようで足が思うように動かなくなり、リハリビを続けてようなく杖を使って歩けるようになりました。
ある日の夕方、病室で車椅子に座ってぼんやりと窓から外をみていると、中庭では同年代の子たちが中当てをやっている姿が見えます。いつか見たように外野が3人、内野で逃げているのは1人・・・そして内野の子は紛れもなく僕だった。
あまりの驚きで思わず立ち上がったのですが、立つことができずに車椅子から放り出されるように倒れてしまいました。
見上げると外にいて中当てをやっいた僕Bがいて、倒れた僕に手を差し出してくれたのです。
僕B
僕Bはニヤニヤしながら、「あれれれれ・・・うわあっ!あぁって失神しないの?」と。
それを聞いて僕は恥ずかしいような、悔しいような複雑な気持ちで僕Bを睨みました。
さらに僕Bは話しかけてきます。
「前から聞きたかったんだけど、そういう姿といい注目されたいと思ってやってたんでしょ?」
「そういうの自意識過剰っていうんだよ、知っていた?」
僕は僕なので、そんな事は知っていて当然なのですがハッキリと言われると心がえぐられ、後悔で気持ちが張り裂けそう。
「僕のアドバイス聞かなかったからだよ。でも僕的には大成功かな?」
いつの間にか僕Bはいなくなって、薄暗い病室には僕一人だけ・・・取り残されたように倒れていました。
※画像はメージです。
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