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給湯器の呼び出しボタン

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お風呂の給湯器のリモコンに備え付けられている呼び出しボタン。
浴室から部屋にいる人を呼ぶときに使うもので、だいたいの給湯器についている。使用頻度はあまり高くない物ではあるが、あると便利なのは確かだ。

私の友人はこのボタンを独特な使い方をしていた・・・これは彼女から聞いた話です。

目次

プロローグ

彼女は初孫だった事もあって祖父から溺愛され、彼女自身も祖父が大好きだった。
そんな彼女の祖父は晩年に胃ガンを患ってしまい、大の医者嫌いだったが「R子の結婚を見届けないと死ねない」と懸命に治療を受けたのだ。
その言葉通り、彼女の結婚式に参列した一週間後に亡くなった。

祖父が亡くなってから、とてもショックを受けていたが徐々に元気を取り戻し、しばらくして子どもを授かった。男の子だった。
「おじいちゃんの生まれ変わりかもしれない」とうれしそうに話し、無事に長男を出産。
Mくんと名付けれ、彼女の祖父に似て人懐っこく、とても肝の据わった男の子だった。

浴室の呼び出し音

そのMくんが小学校一年生になった年のことだ。「もう小学生だからお風呂は一人で入る」と言い出し、彼女もそれを受け入れた。ただ、子ども一人での入浴は心配だったので、ある約束をしたのだ。

「頭を洗い終わったとき、体を洗い終わったとき、湯舟に浸かってるときに一回ずつお風呂の呼び出しボタンを押して」というもので、簡単な安全確認のつもりで思いついたという。

初めの頃はボタンを押し忘れ、彼女は何度も浴室を覗きに行ったそうだが、次第に慣れてきてMくんはきちんとボタンを押せるようになった。

その日も夕食の支度をしている最中にMくんが入浴。
二回呼び出しボタンが押され、そろそろ三回目が押される頃だなと思っていたときだった。

呼び出しボタンは一度押されると「ピーピーピー」とピー音が三回流れる。
「ピーピーピー」と鳴り、いつも通りかと思っていると、その後も「ピーピーピー、ピーピーピー、ピーピーピー・・・」と何度も鳴り響いた。

時々、いたずらしてボタンを連打することがあったが、あまりに数が多くて少しイラッしとたのだ。
「Mー? やめなさいよー」
キッチンから浴室に向かって声をかけたが、鳴りやまない。
支度の手を止め、浴室に向かい、脱衣所に入るとバシャバシャと水音が聞こえた。

なにやってるの?

「なにやってるの。遊んでないでちゃんとお湯に浸かりなさいよ」
そう言いながら浴室のドアを開けると、湯舟でもがく子供の姿が。

「Mー!!」
彼女は慌てて湯舟に両手を入れて溺れる息子を救いあげようとすると、後ろから髪の毛を強く掴まれて引っ張られたように感じ、尻もちをつきそうになってしまう。そして唐突に幼少期のことを思い出した。

ちょうどMくんと同じ年の頃、海で溺れたことがあった。
気付いた祖父が助けてくれたのだが、そのとき彼女の髪を引っ掴んで顔を水面から出して上向かせ、二、三度呼吸をさせて落ち着いてから抱き上げて救い出してくれたのだ。
「溺れてる人間は、例え子どもでも物凄い力で掴みかかってくる。だからまずは息をさせてやって、それから助けるんだ。 そうしないと一緒に溺れてしまうよ」
そう言った祖父の言葉を思い出した。

彼女はMくんの髪を掴んで顔だけ引き上げ、両脇に手を入れて彼を抱き上げた。
「もう大丈夫。大丈夫だよ。ママがいるからね」
咳き込むマコトくんの背中を撫でてやり、呼吸が落ち着くのを待った。
幸いすぐに落ち着き、話もできた。

湯舟に入ろうとしたところ、手が滑って頭から落ちてしまったらしく、溺れている最中に「ママ助けて!」と思ったところで彼女が現れたと言う。
彼女はとにかく息子が無事だったことに安堵した。

誰が押した?

その出来事を帰宅後の夫に話したそうだ。すると、夫はいぶかしげな表情で言ったという。
「Mは溺れててボタン押せる状況じゃなかっただろ?なんで呼び出し音が鳴ったんだ?」
彼女は言われるまで気が付かなかった。

給湯器の操作盤は溺れていたMくんの足側の壁にあり、例え手を伸ばせたとしても絶対に届かない。
つまり、彼でない誰かが押していたということになる。
彼女はふと、その日が祖父の命日だったことを思い出し、「きっとおじいちゃんが助けてくれたんだよ」そう言って自分でも納得した。

だとすれば慌てて助け出そうとしたとき、髪を引っ張られたような感覚の訳も理解できる。
彼女は百五十センチにも満たない小柄で華奢な体格だ、もしあのまま両手をマコトくんに伸ばしていたら、掴みかかってきた彼に引きずり込まれて一緒に溺れてしまったかもしれない・・・息子と自分の両方を助けてもらったのだろう。

再び鳴り響いた呼び出し音

それから一か月ぐらい後のことだ。
子供はとっくに眠り、リビングにいた夫婦二人も寝室でまどろんでいた時だった。
そこに突然「ピーピーピー」という音が鳴り響いた。浴室からの呼び出し音だ。
鳴り続けるそれに嫌な予感を覚えながら、二人で浴室を見に行った。

明かりを点け、夫がドアを開けると音は止んだ。
なぜ鳴ったのかと見渡すと浴室の窓が壊され、外側の防犯用に付いていた柵がひしゃげていた。

慌てて警察に通報し、連絡を受けた警察が周囲を捜索し、少し離れた民家の庭に潜んでいた男を取り押さえたのだ。
数日前から近所の民家に侵入を繰り返していた強盗犯で、バールやボルトクリッパーなどの工具を持っており、それが決定的な証拠となった。

犯人によると細い格子の柵で簡単に壊せるからと狙い、窓枠をバールで壊したところで「ピーピーピー」と音が鳴ったため、防犯システムが作動したと思って慌てて逃げたそうだ。
またもや呼び出し音に救われた。

おじいちゃん?

「おじいちゃんが見守ってくれてるみたい。Mがおじいちゃんの生まれ変わりだと思ったんだけどなぁ」
と呑気に笑ったのだった。

それを聞いて、私はふと思って彼女に質問した。
「お風呂場の呼び出しボタンが押されるってことはさ、おじいちゃんがそこにいるのかな?」
すると彼女は「ん~わかんないけど、そうなのかなぁ。おじいちゃんお風呂好きだったしね」。

ちょっと意地悪く、「だとしたらリンカがお風呂入ってるところも見られてるってことじゃない?」というと。
「きっとそんなことはない・・・はず。おじいちゃんはそんなことしないよ」
そう言った彼女の眉間には深い皺が刻まれていた。

※画像はイメージです。

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