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平屋からの呼び声

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山で自分を呼ぶ声が聞こえてきたら、知り合いが呼んでいると考えると思います。
しかし、一人で山に入っていたとしたら、誰に呼ばれていると考えますか?

目次

田舎のばあちゃんの家

母方の実家は農家で、山や土地をたくさん持っています。
大都会から見れば田舎かもしれないのですが、畑や田んぼが広がる地方都市に住んでいたのでした。

小学五年生の夏休みのお盆に家族で帰省して、自分だけはそのまましばらく残ることに。
集まっていた、いとこ達は帰ってしまって遊び相手はいません。できる事というと、ばあちゃんの家の近くの沢で釣りをしたり、虫を採ったりしてたけど・・・飽きてしまったのです。

毎日、ブラブラと散歩しかすることがなく、そんな時にふと裏山に探検に行こうと思いつきました。
普段は一人で行くなと言われていたのですがが、何度も訪れていて慣れていたから大丈夫でしょう。
裏山は獣道なので、サンダルから靴に履き替え、特に何も持たず、畑にいるばあちゃんの姿を確認して裏山に入っていきました。

いとこ達がいたときは早起きして、みんなでカブトムシを採りに来ていて、もしかしたら、ミヤマクワガタとかがいるかもしれないと思いながら、ワクワクしつつ結構急な山道を登っていきます。

しばらく進んでいくと、ボーボーに伸びた雑草に囲まれ、壁にはツタが這っている小さな平屋が見えました。
こんな建物あったっけ?と思いながら近づいていくと、「こっち、こっち」という声がして、少し開いている平屋の玄関扉じゃら、手招きしている手が見えた。

ばあちゃん?

聞こえた声がばあちゃんの声に似てる気がして「ばあちゃん?」と話しかけ、玄関に近づくともう手は見えなくなっています。ガラスの引き戸を開ききって玄関の中に入ると、そこは埃と砂にまみれていて、床に降り積もった埃には足跡すらなく、人がいた形跡はなかのです。

「おーい、こっちだよ」と、今度は庭に続いているであろう方向から声がして、壁の端から手招きしている手が見えた。
「ばあちゃんなの?」と尋ねながら、伸びた草をかき分けて進んでいくと、猫の額ほどの小さな庭があったのです。

「こっちにおいで」と再び声が聞こえた。今度は家の裏の方からでした。
その時、ふと思ったのですが、私を呼んでいるのは本当にばあちゃんだろうか?

裏山に来る前、畑にばあちゃんがいたのを確かに見たのです。追いかけて来たとしても、追い抜かされれせば気づいたはずで、もしも先回りして待ち伏せしていたとしたら、驚異的な速さで急な山道を登らなければなりません。
ばあちゃんは数年前に腰を悪くして、日常生活を送るのには問題はないのですが、山道を登ったりすることはできないので、
そんなことは不可能。

「おーい」
次に聞こえて来た声はもうばあちゃんの声ではありません。低い男の声と高い女の声、そして子どもの声と複数人の声が重なったような不気味な声で、なんでこんな声をばあちゃんと勘違いしていたのかわからないほど不気味でした。
手招きしている手も人の手のように見えるのですが、よく見ると機械的でカクカクとして不自然・・・。

なにが呼んでいるのか?

昔じいちゃんに聞いた話を思い出しました。
山の上の平屋に古井戸があって、数年に一度は人が落ちて亡くなるんだ。
人が落ちないように囲いをつけたり、鉄板を敷いたりしてもなぜか壊されてしまう。
埋めようとすると、埋めようとしたした人や業者が病気やケガをして、どうにも埋められない。
引きずり込んで沈めるために、井戸が人を呼ぶようだ・・・。

手招きする手を見ながら、後ずさりし逃げ出しました。
「行くなあああ。こっちへこおおおおおい」
不気味な声が追いかけてきて、「わあああああ!」と叫んで自分の声でかき消しながら走りました。
怖くて振り返ることはできなかったのですが、何かが追いかけてきている気配はありません。
ただ、あの声がいつまでも響いているような気がするのです。

転がるように山を駆け下り、ばあちゃんがいた畑に飛び込んだ。
「なんだ、どした?そんな慌てて」
「山の小屋!なんかいた!」

息も絶え絶えに、
「小屋? あんた上の平屋に行ったんけ?」
「そう。行くつもりはなかったけど、登ってったらあった」
「山に一人で行ったらダメだっていったに!こんのバカタレが!」
そう言ってばあちゃんは手に持っていた鎌と雑草を放ると、私の手を引っ張って歩き出した。

「どこ行くのばあちゃん」
「お寺さんだよ! 変なモン見たら行かにゃダメだ!」
それから二十分ほど歩いて寺に行って、ばあちゃんがお坊さんに訳を話すと、中に入れられ一時間くらいお経をあげた。

とつぜんの帰宅

ばあちゃんちに戻ると、すぐに家に帰ることになりました。

電車に乗っている間、ばあちゃんは何も言わなかった。
ばあちゃんを怒らせたから帰ることになったと思っていたけど、さらに怒られるのが怖くて謝れません。
新幹線に乗る駅に着いて、改札に行く前に謝ろうとしたら、ばあちゃんが話はじめます。

「お経あげてもらったし、あすこから逃げて来れたから大丈夫だ。でも半年はばあちゃん家には来ない方がいい」
「なんで?」
「悪いモンに会っちまったからだよ。自然の中にはな、いろんなモノがいんだよ。人間にはわかんなかったり、太刀打ちできないモンとかな」
「ばあちゃんにもわかんねーんだ。嫁に来た時からアレはあっけど、触っちゃなんねーとだけ言われてきた」

「じゃあ小屋に行った俺は死ぬの?」
泣きそうになりながらそう言うと、ばあちゃんはケラケラと笑った。
「死なねーよ。じいさんが護ってくれっから大丈夫だ。半年もこっち来なければ向こうも諦めっから」
ばあちゃんは俺の手を握りながら何度も「大丈夫だ」って言ってくれた。

それから無事に家に帰り着いて、ばあちゃんに言われた通り、半年間は帰省をやめました。

それから

翌年のゴールデンウイークに恐る恐る帰ったけど、拍子抜けするくらいいつも通りで何も起きませんでした。
あれから何度も帰っているけど何も起きてないけれど、どれだけ誘われても裏山には行きません。
他のいとこ達も山には行っても、必ず大人と一緒で上までは行かないようになりました。

ばあちゃんが亡くなって家と土地を長男の叔父さんが継いだけど、山には一切立ち入ってないらしい。
平屋のことは知っているみたいだけど、ばあちゃんに「あれは触ったらダメだ。祟られっから放っておけ」と言われたそうです。
今でもあの平屋があるのかどうかはわからない・・・でも、きっともう誰もあそこには行かないはずです。
平屋のことを知らない人以外は。

※画像はイメージです。

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