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スウェーデン生まれの汎用兵器カールグスタフ無反動砲

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2022年2月24日にウクライナ侵攻を開始したロシアは、当初はウクライナの首都・キーウ、第二の都市・ハルキウ、そして東部のドンバス地方の3方向に部隊を分けて特別軍事作戦と称して進撃した。
しかしご存じのようにキーウやハルキウ方面への侵攻は、ロシアの想定をはるかに超えるウクライナ側の頑強な抵抗に阻まれて頓挫し、東部のドンバス地方に戦力を集中させる戦略への転換を余儀なくされた。

2023年の春以降ウクライナ側は、西側諸国製の兵器、その主力戦車であるドイツのレオパルト2やアメリカのブラッドレー歩兵戦闘車に代表される分野まで拡大した支援を受け、反転攻勢の成否が今は注目されている。
今でこそそうしたウクライナ側による反転攻勢が注視させれているロシア・ウクライナ戦争の戦況だが、開戦当初は明らかに劣勢であった為、戦意高揚の為のウクライナ側の個別の兵器の戦果の喧伝も盛んだ。

一例を挙げれば、トルコ製の無人航空機・バイラクタルTB-2、アメリカ製の個人携行型多目的ミサイルのFGM-148 ジャベリン、長距離精密砲撃が可能なM142 高機動ロケット砲システム[・HIMARSなどがそれだった。
しかしロシア・ウクライナ戦争においてロシア側が投入した最新鋭の戦車であったT-90Mを最初に撃破したと伝えられたのは、何を隠そうスウェーデン製のカールグスタフ無反動砲。

そこで今回はそんな記録的とさえ言える、ウクライナ側にとっての殊勲の戦果を挙げたスウェーデン製のカールグスタフ無反動砲について、その概要を紹介して見たいと思う。

目次

北欧の密かな兵器立国スウェーデンが生んだカールグスタフ無反動砲

北欧のフィンランドとスウェーデンの2ケ国は、第二次世界大戦後にも旧ソ連・現ロシアを徒に刺激する事を由としなった為、NATOには加盟せず、西側諸国寄りの中立の立場を続けてきた。
しかし今回のロシア・ウクライナ戦争の生起を受けて、フィンランドとスウェーデンの国内世論はNATO加盟支持へと大きく変化し、その加盟申請に至るがトルコの反対でスウェーデンのみは未だ加盟出来ていない。

そんなスウェーデンも何れはトルコが政治的に折れて加盟を承諾するものと思われるが、これまでの歴史的経緯から国防に対する意識は高く、各種の兵器を国産化している事でも有名である。
第二次世界大戦の最中の1942年、スウェーデン軍内に設置されていた王立陸軍兵器局は、イギリス人技術者を顧問に据えて、20mm口径のカールグスタフ Pvg m/42対戦車ライフルの開発を実施した。

当時は未だ各国の戦車も装甲が薄いものもあり、他国でも対戦車ライフルを配備はしてはいたが、急激な戦車の重装甲化で実用性は薄れ、対戦車用の成形炸薬弾が登場した為、それを使用する大口径の無反動砲の開発が進められた。
王立陸軍兵器局は先に実用化されたドイツ軍の88mm対戦車ロケット擲弾発射器(通称パンツァー・シュレック)を入手、第二次世界大戦後の1946年に84mm口径のGrg m/48・M1としてスウェーデン軍の正式装備に採用する。
その後1964年にはこのGrg m/48・M1を小型・軽量化したM2とし、更に1991年には砲身の一部に炭素繊維、他にもアルミニウムやスラスチック樹脂を部品に多用し軽量化したGrg m/86・M3を正式化、これはM3-MAAWSとしてアメリカ陸軍の一部にも採用された。

Grg m/86・M3は10kgまで軽量化されていたが、更に2014年には砲身をチタン合金と炭素繊維の複合材で製造した上で小型化し、全長99cm・重量6.8kgとしたGrg m/86・M4へと進化させ、アメリカ陸軍もこれを2018年から採用している。

カールグスタフ無反動砲で使用可能な砲弾

Spc. William Hatton (US Army), Public domain, via Wikimedia Commons

カールグスタフ無反動砲が1946年と言う、現在の2023年からすれば77年以上もの昔に最初のGrg m/48・M1が完成した古い兵器であるにも関わらず、現代でも多数の国で運用されている理由は汎用性の高さが大きな要因だろう。
使用可能な砲弾としては、対戦車用の榴弾であるHEAT 751やHEAT 551が先ず第一にあり、更にトーチカ等の構造物にも使用可能な多目的な榴弾のHEDP 502などの他、攻撃用途以外にも照明弾としてのILLUM 545、発煙弾のSMOKE 469Bなどもある。

カールグスタフ無反動砲の有効射程は対戦車用のメインの榴弾の場合で凡そ500m~1,000m、その他の砲弾でも凡そ1,000mとされており、日本の陸上自衛隊でも84mm無反動砲M2及びM3(B)として採用されている。
開発時より84mm口径から変更が行われていない事もあり、カールグスタフ無反動砲は流石に後発の個人携行型兵器に比すれば進化した戦車等の装甲への威力不足も指摘され、ドイツ等では照明弾としての使用が主用途となっている。
それでもアメリカ陸軍や陸上自衛隊では対戦車攻撃用途に限定はせず運用を継続しているが、奇しくも前述したようにロシア・ウクライナ戦争においてはロシア軍のT-90Mを撃破しており、その有用性を証明した形だ。

但し個人携行型多目的ミサイルのFGM-148 ジャベリン等の新型兵器は赤外線を用いた自律誘導が基本であり、射程距離も2,000mで94%もの高い命中精度を誇る事を鑑みれば、差がある事実は否めない。
但しカールグスタフ無反動砲用にも新型の対戦車用榴弾はレーザー誘導機能を実装したものが準備中とも言われており、その場合命中率が大幅に向上する事に加え、射程距離も2,500mが想定されていると言う。

陸上自衛隊におけるカールグスタフ無反動砲

日本の陸上自衛隊においてもカールグスタフ無反動砲は1979年からM2の調達が行われ、5年後の1984年からは64式7.62mm小銃等の同隊の歴代正式自動小銃の製造で知られている豊和工業社がライセンス生産を担った。
このM2は84mm無反動砲と呼称され、2001年には一旦国産の01式軽対戦車誘導弾の採用で代替させる事が決定したが、調達コストの安価さと汎用性の高さから併用された上、更に2012年からはM3を84mm無反動砲(B)として新規調達も行っている。

84mm無反動砲(B)の調達コストは1門が凡そ1,000万円であり、国産の01式軽対戦車誘導弾は同1門が凡そ2,600万円である為、凡そ62%も安価な単価で調達が出来ている計算となっている。
但し84mm無反動砲(B)の調達数は2012年度から2017年度の5年間で53門であるが、01式軽対戦車誘導弾は2001年度から2010年度迄の10年で1,073門を数え、後者はより脅威度の高い目標への使用を前提としている。

因みにFGM-148 ジャベリンの場合、2002年に台湾がアメリカから購入した際の費用は40門の本体と360発のミサイルの合計で当時3,900万ドルであり、1門の平均は凡そ10万ドル(現在の日本円で凡そ1,418万円)となっている。
これを考慮すれば、やはり生産数が自衛隊のみに限定される01式軽対戦車誘導弾の高額さが際立ち、調達価格と国産化のどちらを優先すべきなのかには複雑な思いが去来してしまう。

兵器としてのカールグスタフ無反動砲に思う事

冒頭でも述べたように昨年2022年2月に生起したロシア・ウクライナ戦争の初期には、劣勢なウクライナ側が国内の戦意高揚や西側諸国からの支援を途切れさせないように、個別の兵器の戦果を強調した感があった。

その中でアメリカ製の個人携行型多目的ミサイルのFGM-148 ジャベリンの多大なる戦果が日本にも伝えられると、高価な戦車等の装甲車輛ではなく、それら個人携行型多目的ミサイルを陸上自衛隊も保有すれば事足りるとする意見を多数目にした。
しかし島国である日本に敵の戦車等の装甲車輛が上陸すると言った状況が仮に発生するならば、その時点で日本は既に戦いに敗北しているであろうことは想像に難くなく、対艦ミサイルの数の確保こそ重要だと思えてならない。

featured image:MKFI, Public domain, via Wikimedia Commons

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