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「リア充は死ね!」動機はいじめの報復?~コロンバイン高校銃乱射事件~

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1999年4月20日、米軍がコソボを空爆したこの日。
コロラド州ジェファーソン郡のコロンバイン高校にて、のちに悪名をはせるスクールシューティングが発生した。コソボ爆撃作戦の成功を会見で報告したクリントン大統領は、そのわずか1時間後にふたたび会見を開き、この大惨事を国民に伝えることになる。
実行犯は同校の男子生徒エリック・デイヴィッド・ハリス(18)とディラン・ベネット・クレボルド(17)。銃乱射事件としてはきわめて
めずらしい複数犯。
2人はいじめられっ子だった。けれど、銃の撃ち方は知っていた。“Natural selection ”(自然淘汰)、“WRATH” (怒り)とプリントされたTシャツに身を包んだ両名は、生徒12名と教師1名を射殺、24名を負傷させたのち自らの頭を撃ち抜いた。

人々が一斉に外へ飛びだして逃げまどう光景に全世界が震撼したコロンバインの虐殺。しかし、いまだにエリックとディランを神と崇める若者や模倣現象は後を絶たない。そこには「犯人は虐げられていた」という免罪符がついてまわる。
彼らを凶行に走らせた原因は、はたしていじめだけだったのか。

犯人がいじめにあっていたことから学校と教育委員会が叩かれた。
高校生が容易に銃を入手できたことから全米ライフル協会が叩かれた。
犯人が抗うつ剤を服用していたことから製薬会社が叩かれた。
爆発物を警戒して突入しなかった警察が叩かれた。
「犯人が心酔するロック・アーティスト」とメディアが報じたせいで、マリリン・マンソンがキャリアをだいなしにされた。

「こんなアメリカに誰がした?」
マイケル・ムーア監督が撮った『ボウリング・フォー・コロンバイン』のキャッチコピーである。この事件が突きつけた銃器大国の闇は深そうだ。

目次

45分間の殺戮

エリックとディランは駐車場の車の中でそのときを待っていた。
カフェテリアに仕掛けた爆弾は11時17分に爆発する。生徒がランチを食べに集まってくる頃合いに合わせてタイマーをセットした。この日のためにつくったプロパン爆弾は上階の図書室まで吹き飛ばす威力がある。
手はじめに、爆発に驚いて外へ飛びだしてきた生徒たちを狙い撃ちする予定だった。すべては大勢の人間を殺すため。オクラホマシティのビルを爆破した奴らより多くの人間を血祭りにあげて、世界に俺の名を残してやる。

ところが、どうしたわけか爆弾は不発。11時19分、しびれをきらしたエリックが “Go! Go!” と鼓舞すると、ディランも銃を手にとった。武器の詰まったバッグを抱え、無差別に発砲しながら校内に乗り込む。最初の標的となったのは丘でランチを楽しんでいたカップルだった。
エリックとディランは笑いながら銃を乱射し、パイプ爆弾や火炎瓶を投てきした。逃げ遅れた生徒たちが悲鳴をあげてテーブルの下や物陰に身を隠す。
「いないいないばあ!」——バン!
「見いつけた!」——バン!
「最高だぜ!」——バン!
「さあさあ、お次は誰だ?」

2階の図書館に入ると、隠れている生徒たちに怒鳴った。
「ジョックは全員立て!」
「白い帽子をかぶってる奴はでてこい!」
ジョックとは、米国特有のスクールカースト(学校内ヒエラルキー)の上位に属する生徒をさす。体育会系男子を中心とした、学校社会の上流階級というわけだ。コロンバイン高校はスポーツの伝統校で、花形の運動部員は白い帽子をかぶるのが習わしだった。フットボールやバスケットボールの選手は女子生徒に人気があり、幅をきかせていたのである。カースト最下層のエリックとディランが劣等感と恨みを抱いていたのはいうまでもない。

でてこいと叫んだところで、立ちあがる者などいるはずもない。エリックとディランは生徒を次々と射殺した。犠牲者の多くは図書館で死亡した生徒である。
その後、2人は校内でひとしきり暴れまわり、ふたたび図書館に戻る。そして、通報を受けて到着した警官に挨拶程度の銃弾をお見舞いしたあと、自らの銃で頭を撃ち抜いた。

2年以上かけて周到に練られた計画。みんなが集う昼休みのカフェテリアを狙って爆破するという冷酷非道な発想。
せめてもの救いは、多くの爆弾が不発に終わったことだろう。もしすべての爆弾が起爆していたら、数百名の死傷者がでた可能性があった。彼らは「やる気」だったのだ。意図したものとは結果が違っていたとしても。

エリック・ハリスに予兆はあったか

エリックとディランは中学時代に出会った。ともにコンピューターが得意で、スポーツは苦手。固い絆で結ばれた親友同士だったのはまちがいないが、その関係性はお世辞にも健全とはいいがたく、共依存的なものだったことがうかがえる。
エリックについてはエネルギッシュな好人物と評する人もいるが、「人を欺く能力に長け、自分を信じこませることができる」と本人は自慢していた。実際のところ、強烈な支配欲や自己顕示欲をもった、なかなかの問題児だったようだ。彼の人となりを表すこんなエピソードがある。

エリックは同級生のティファニー・タイファーに一目ぼれして、彼女を口説いた。ある日、ティファニーはエリックにつきあって一緒に学校から帰るが、それを最後に会うことをやめた。しかし、その後もエリックはしつこく言い寄ってくる。きっぱりと拒絶すると、彼は自分の身体や地面に血糊をまき散らし、自殺を装って彼女にショックを与えようと企んだ。血だらけで倒れているエリックを見たティファニーが大声で助けを呼ぶと、エリックは起きあがり、彼女に血糊をぶちまけて、友人たちを呼んで一緒に笑いはじめた。

エリックはまた、事件の1年ほど前に同級生のブルックス・ブラウンの車のフロントガラスを傷つけ、殺害予告をWeb上に書き込んでブルックスの両親に通報されている。ブルックスはディランの幼なじみだったため、嫉妬に似た感情が芽生えたのかもしれない。
日記からはサイコパスの傾向と特徴が読みとれると多くの専門家が指摘した。まだ18歳の未発達な脳であり、死後の診断もできないことから、正式な見立てとはいえないが。
エリックの遺体からはルボックスの成分が大量に検出されている。ルボックスとは、若年者が服用した場合に攻撃性を増長させる恐れがあることで知られる抗うつ剤である。

教師が語るディラン・クレボルドの危うさ

ディランはおとなしく人見知りな性格で、基本的に他者に心を開くことはなかった。母親のスーザンはディランを出産した直後、将来この子が自分に大きな悲しみをもたらす予感がしたと述べている。思春期を迎えても異性とうまく話せない自分を嫌悪し、孤独感にさいなまれ、世の中に絶望しながら、それでもなんとか精神のバランスを保とうと努力していた。自殺願望を抱えたうつ状態にあり、エリックと同様に精神科医からルボックスを処方されていたことも明らかになっている。

シャイで内向的といわれるディランではあるが、彼の危うさに気づいていた人物はいた。高校の英語教師である。
それは事件の数週間前のこと。創作の授業でショートストーリーの課題をだしたところ、教師はディランが書いた物語にぞっとしたというのだ。 内容は、黒衣をまとった神がスクールカースト上位の生徒を皆殺しにするというもの。いちばん気がかりだったのは、殺人者に対する崇敬の念が明確に読みとれたことだった。 教師がディランに問いただすと、「ただの創作です」ととぼけてみせたという。
教師は保護者会で両親にも報告したが、「やれやれ、最近の子どもはどうも理解に苦しむ」と、心配するようにはみえなかった。

エリックとは同じピザ・チェーン店でアルバイトし、一緒にボウリングやビデオゲームをして遊んだ。共通の友人によると、学校ではいつも2人で昼食を食べていたという。

米国におけるスクールカースト

エリックとディランはコロンバイン高校に入学してまもなく、いじめの標的となった。米国には「スクールカースト」と呼ばれる階層がある。学業では優秀な2人だったが、体育系がもてはやされる同校にあって、スポーツに不得手な生徒はなにかと肩身が狭い。
先に登場したブルックス・ブラウンは、エリックとディランが「オカマ野郎」と罵られたり、ロッカーに押し込まれたり、車の中から瓶を投げつけられるところを目撃している。驚くブルックスにディランはこう言った。
「心配すんなよ。こんなの、いつものことなんだ」

米国では教師ですらカースト上位の生徒を優遇する風潮がある。「誰もが平等で、等しくチャンスがあり、個人の違いを個性として尊重する」のは表向きの顔なのだ。違いを受け入れない同調圧力が米国にも存在するからこそ、信じがたい凶悪事件が発生する。エリックとディランも黒人やヒスパニック系の生徒を蔑み、いじめていたのだから人のことはいえない。

銃乱射事件の悲劇は、その時その場所にたまたま居合わせた人々が犠牲になるケースが多いことだ。コロンパインもそうだった。殺された12名の生徒の中にジョックはほとんどいなかった。つまり、銃のある世界では、銃撃の現場に居合わせて撃たれる可能性が誰にでもあるということだ。
犯行の直接的な引き金となったのは、事件の前年に車上荒らしで現行犯逮捕されたことではないだろうか。彼らには前科者という肩書きが追加された。進学に失敗し、海兵隊からも入隊を拒まれた。そんななかで決行された学校襲撃だったのである。

犯行後に発見された「地下室のテープ」

事件のあと、2人が撮影したビデオテープが見つかった。
事件前にエリックの家の地下室で撮られたそのビデオには、彼らが憎悪をむきだしにしてジョックへの怒りをぶちまける姿が映っていた。あまりに衝撃的な内容で、ビデオを見た捜査員は帰宅すると子ども部屋をチェックせずにはいられなかったという。ディランの母親にとっても、いまだかつて見たことのない息子の恐ろしい姿だった。

エリックとディランはビデオ以外にも犯行動機の物証となる記録を残していた。メモ書きや日記などの文章である。犯罪学・心理学の
専門家や捜査関係者の解釈によれば、文章から読みとれる2人の動機はそれぞれ異なるものだそうだ。エリックの動機はサイコパス気質からくる殺戮衝動、ディランの動機は世の中への絶望からくる自殺願望だった。

2人がスクールカーストの最下層に位置づけられ、上位の生徒に虐げられてきたことは多くの目撃証言から明らかだ。鬱積した不満や怒りが爆発し、報復を誓ったのは事実だろう。では、もし虐げられていなければ2人は死なずにすんだのかというと疑問が残る。
銃乱射事件を引き起こす犯人は単独犯が多い。1人で鬱屈した思いを募らせ、あげくに暴発してしまうのだ。そのとき自分の理解者が1人でもいれば、最後の一線の手前で踏みとどまり、暴走を未然に防げる可能性が格段に高くなる。

しかしエリックとディランは例外だった。自殺願望のある自己破壊的なディランがサイコパス気質のエリックと結びついたとき、彼らの運命はほぼ決定したのかもしれない。
そして1999年4月20日、悲劇は起こるべくして起きた。銃撃事件は彼らなりの社会への復讐であり、心中ではなかったか。

スケープゴートにされたマリリン・マンソン

コロンバイン銃乱射事件といえば、この人である。エリックとディランが愛聴していたアーティストとされ、いわれのないバッシングを受けつづけたマリリン・マンソン。
マンソンのファンではなかったことがのちに判明したものの、その事実はほとんど報道されていないため、今でもコロンバイン高校の事件はマンソンの影響によるものと思っている人が多い。この一連の騒動で彼はツアーのキャンセルを余儀なくされ、一時期表舞台から姿を消した。取材を受けることもなかった。コロンバイン銃撃事件をめぐる貴重な発言を引いておこう。

「俺が攻撃されるのはわかるよ。俺を悪者にすれば都合がいい連中がいるんだ」
「皮肉なタイミングだな。ビル・クリントンがコソボで悲惨な事件を起こした、とは誰も言わない」
「毎日見るテレビで、視聴者は恐怖を詰め込まれてる。政府とメディアが恐怖と消費を煽ってる。この国の経済はそういう仕組みになっている」
——犯人に言いたいことはありますか?
「なにもない。ただ黙って、あの子らの言いたいことを聞いてやりたい。誰一人としてそれをやらなかったんだよな。誰一人として」

この事件を境に、米国の銃乱射事件は激増してしまった。複数の犠牲者をだした事件は2020年より3年連続で600件を突破した。
今年に入ってからは、ここ10年で最速のペースで100件を超えている。もはや「アメリカの現象」だ。
生存者はPTSDやフラッシュバック、サバイバーズギルトと闘いながら生きている。
銃乱射事件が起きるたびにコロンバインの悪夢がよみがえる。

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※画像はイメージです。

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