明滅するフラッシュか暗闇で目暗滅法繰り広げられる銃撃戦の閃きかという映像に、小気味良いドラムとトランペットサウンドの織り為すファンファーレが始まりを告げる、最早誰もが何処かで聞いた事のあるフレーズとなったオープニング・テーマ「TANK!」!
エネルギッシュな中に何処かダーティ、スタイリッシュでセクシーな中にもコミカルでナーバス、そんな「人間臭さの凝り固まったカオス」を単色のシルエットでくっきりと描き出す、ミュージックビデオとしても一級の格好良さで開始直後から目が離せなくなる事間違い無しの本作。気楽に見て良し。じっくりのめり込んで良し。気取るも気取らないも種々雑多、選り取り見取りの物語は正に「宇宙の広さを測る」よう。
気ままな行きずり道連れ旅、その道中で「これは」という自分だけの宝物を見つけ出す「カウボーイ」なドラマにアナタも挑戦して見ませんか?
ありとあらゆる表現をやりきったからこそ描けた「カッコよさ」!エピソードの数だけ叩き込まれる映像表現に驚愕せよ!
「カウボーイ・ビバップ」という本作のタイトル、その意味を少し紐解いてみると「カウボーイ」は西部劇などでお馴染みの牛追い…大草原や荒野を駆けて生きる術を身につけ、気性の荒い牛を投げ縄一本で巧みに操って見せるタフな世渡りで生きる荒くれ者達を意味します。
この語が転じて作中世界では、宇宙に拡がる星々の世界を腕っ節頼みで渡り歩いては賞金の掛けられた手配犯を捕えてはその賞金で身を立てる無頼漢に対する親しみと揶揄を混ぜ合わせた呼び方とされます。
一方「ビバップ(BEBOP)」とはジャズミュージックの一ジャンルを指す言葉で、ミュージシャン同士がその場で互いの音楽性をぶつけ合うように即興で曲を作り上げる演奏形態を指します。
この「カウボーイ(達が織り為す)ビバップ」というタイトルは、正に本作の物語性をピッタリと表わすものになっています。
ゴツい見た目に違わぬ確かな腕っ節と生活力でオンボロ宇宙船「ビバップ号」を操るベテランカウボーイのおやっさん「ジェット」。
ボサボサ頭にシャープな身のこなし、ヨレヨレスーツがトレードマークのニヒルなカンフー・ガンマン「スパイク」。
立てばセクシー座ればダイナマイト、歩く姿はデンジャラス、言動も金遣いもトンデモド派手な記憶喪失美女「フェイ」。
見た目ボンバー言動ニョロニョロその正体は星間クラスの電脳キッズ、不思議ちゃん「エド」と天才コーギー「アイン」の仲良しコンビ…と「カウボーイ」な主要メンバー4人と1頭、自由気ままなアウトロー暮らし…と言えば聞こえは良いものの、懐事情と空腹までは気ままと行かない人の常。
折々でアブナイ事件を持ち込んでは丁々発止のセッションを繰り広げる…そんな「ビバップ」のように即興性満載のドラマが本作の基本構成となっています。
大半のエピソードが1話完結型のシナリオ
全編通じて大半のエピソードが1話完結型のシナリオになっていて見やすい構成になっているのも、このハチャメチャなメンバーの持ち味が為せる技と言えます。しかし本作、ただハチャメチャにスラップスティックなコメディだけで終わらないのが未だ語り継がれる「名作」の所以。
エピソード毎にこれでもかと繰り出される映像表現、演出、アニメーションの数々は、それらのバリエーションを眺めているだけでもその多彩で濃厚な画面展開に圧倒される程。
レトロフューチャーな宇宙戦闘機でのドッグファイトあり、カンフーカラテに日本刀、銃撃戦に重火器までのバトルアクションあり、時にナイーブ、時にミステリアス、ナンセンスギャグからホラーまで、引き込まれる演出ありと、アニメーション表現でこそ有り得た多種多様な演出の遊園地状態となっています。
そしてこれだけの多種多様な演出、動から静までを表現し尽くせるアニメーション技術を以てして、主要メンバーの人物的背景を少しずつ「旅をするように」掘り下げていく芯があって、この小さなエピソード達が各々の「生き様」を組み立てていく。
・・・・その「骨太の格好良さ」こそが、本作を何処から見ても「カッコイイ」作品にしている奥底で輝く魅力となっています。最初は気楽に見始めて居たものが、気付けば全エピソード走破したくてたまらなくなる…きっとそんな魅力をお楽しみ頂ける作品です。
今や世界的ミュージシャンとなった「菅野よう子」氏、その炸裂する音楽性に酔いしれる!
本作「カウボーイ・ビバップ」はタイトルの他、各話サブタイトルにもエピソードの方向性を思わせる音楽ジャンルを象徴的に名付ける「演出」からも仄めかされているように、映像と同じくサウンドにも強いこだわりを持った作品となっています。
それもそのはず、今や世界的ミュージシャンとしてその名を轟かせ、アニメ業界のみならず、多種多様な音楽シーンにあって底無しに多彩な楽曲を世に送り出し続けている「菅野よう子」氏が、正に「やりたい放題」に持ち前の才能を叩き付けた記念碑的作品と言えるのが、本作「カウボーイ・ビバップ」とされます。
その凄さを象徴すると言えるのが、先にも少し触れたOPテーマ「TANK!」を始め、作中曲の演奏を手掛けるバンド「シートベルツ(SEATBELTS)」の存在です。
楽曲提供の他キーボード/ピアノを担当する「菅野よう子」氏を筆頭に、バンドマスターの位置に「今堀恒雄」氏。
アニメーション業界であれば「内藤泰弘」氏作品の「トライガン」や「ガングレイヴ」等で吠え猛るようなギターサウンドでお馴染みの凄腕ギタリストを迎え、圧倒的サウンドを力強く支えるベースに「渡辺等」氏、目眩を起こしそうなテクニカルなドラム表現を乗りこなす「佐野康夫」氏。
民族音楽のテイストからスパイシーな表現でロックやジャズにも奥行きを加えるパーカッション「三沢またろう」氏、吠え猛る咆哮から情熱的な哭きのうねりまで圧倒的存在感のサックス「本田雅人」氏。
という現代日本のサウンドシーンにおいて最高峰と言っても過言ではないメンバーが名を連ねたスペシャルな面々が奏でるサウンドは、アップテンポからスローバラード、狂気と緊迫感に満ちたプログレッシブなサウンドもあれば果ては賛美歌を思わせる清廉な調べまで、正に「シートベルトをお締め下さい」と注意喚起が必要な程に圧倒的テクニックで無尽蔵のサウンド表現を叩き付けてくれます。
この耳に至高の贅沢な「圧倒的サウンド」と目にも鮮やか「凄まじいアニメーション表現」とが最高潮に達したと言えるエピソードを筆者個人の感想として挙げるなら、第17話「マッシュルーム・サンバ」がどうしても挙げておきたいエピソードとなります。
第17話「マッシュルーム・サンバ」
ハードでかっこいい正統派アクション展開ではないものの、本作持ち前のハイクオリティなアニメーションで魅せるアクションはそのままに、無声のコメディ映画やパントマイムを思わせる強烈な場面展開と熱の籠もったサンバ・ミュージックに笑い転げながらスピードアップを続けるジェットコースターのような展開は、ノンストップでテンションうなぎ登り間違い無しの名(迷?)エピソードです。
本作におけるナンセンスでコミカルに「魅せる」ギャグ要素の集大成と言うに相応しい圧倒的作り込みは、作中でもトップクラスと言って過言ではありません。
本道の「格好良さ」からは少し逸脱しているものの、押えるべきクオリティとして力の入った音作りと演出は一見の価値有りで、個人的な趣味を開陳するなら「このエピソードを入口にしてからシリアスなエピソードや力の入ったアクションを見る事で、その落差に悶えて欲しい」と思う事もあったりしてしまうオススメエピソードです。
ちなみに余談として、この「マッシュルーム・サンバ」で大活躍?する主要メンバーの一人であり、天真爛漫と破天荒に非常識とニョロニョロを足して天才を掛けた、登場するだけで画面がギャグになる最強の不思議電脳キッズ「エド」ですが、そのモデルとなったのが他ならぬ「菅野よう子」氏であるという噂があったりします。
氏の楽曲が本作において余りに多彩で、しかしいずれも驚くべき完成度で以て作品世界のイメージを強固なものにしている事を見て頂ければ、その噂も信憑性を持って感じてしまうかも?しれません。
そんな小話としても面白いエピソード、是非一見あれ。
カオスを飲み込んで尚「カウボーイ・ビバップ」という「軸」が残る頑丈な魅力
面白くもカッコよく、メランコリックでシニカルな、それでいてどうにもかっこのつかない泥臭さを駆けずり回って、汚れ塗れ血塗れ傷だらけでも笑って見せる…そんな、どうしようもない大人達がどうしようも無いままにやせ我慢をしきって筋を通すかっこ良さをパワフルに描き切って見せた本作。
見る人それぞれに面白さ、格好良さを感じる「ツボ」が違う、そんなカオスを飲み込んで尚「カウボーイ・ビバップ」という「軸」が残る頑丈な魅力が本作の強さだと言えるかもしれません。
本稿では放送版(全26話)を対象として紹介させて頂きましたが、他に派生作として放送終了後に制作された劇場版「カウボーイビバップ 天国の扉」もオススメです。
人気に火が付いた事を追い風に、やり残した事をやり尽くすような勢いで作られた劇場版は、放送版の宇宙ごった煮テイストをそのままに、劇場版ならではの長尺と圧倒的クオリティで以て仕上げられた快作です。
本編と直接的な繋がりは無い「幕間の1エピソード」なので、最初に見て良し、途中で見て良し、放送版を見終わってから見ても良しと、いずれにおいても楽しめる事間違い無しです。
骨太のストーリーとサスペンス、ド派手なアクションを楽しみたい方は必見です!
カウボーイビバップ COWBOY BEBOP (C) 1998 サンライズ
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