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サタンの足跡?説明不可能な怪現象~デヴォンシャーの悪魔事件~

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雪や氷にまつわる不思議な出来事はけっして少なくない。
さまざまな分野のエキスパートが謎解きに挑むなか、杳として答えがみつからず、気がつけば世紀を二つまたいでしまったクラシック
ミステリーがある。
19世紀半ば、イングランド南西部デヴォンシャーで起きたサタンの蹄跡(ていせき)騒動だ。

それはデヴォンシャーにめずらしく大雪が降った、不思議な夜だった。
夜が明けると、外は一面の銀世界。白い息を吐きながら表にでた住民は、新雪の上に点々とつづく奇怪な足跡を発見する。
雪が降らなければ、けっして気づくことのなかった痕跡。

「デヴォンシャーにサタンが降りた。わが家のまわりを悪魔が徘徊していった」
人々がそう思ったのにはわけがある。
これは悪魔が存在する証明なのか? さっそく犯人探しがはじまった。

目次

謎の足跡

1855年2月8日、デヴォンシャー(現デヴォン州)は昨夜の大雪で白銀の朝となった。ゆっくりと街が目覚め、人々も新しい一日にとりかかる。
「おはよう。いやあ、よく降ったなあ」
「本当に。まさかこんなに積もるとは」
挨拶を交わしながら雪景色に目をやると、積もったばかりの雪の上に何かの足跡が残っている。なんだか奇妙な足跡だ。
誰かが夜間に散歩としゃれこんだ? いや、そんなはずはない。ヴィクトリア朝のこの時代、田舎にはろくに街灯もない。しかも凍える吹雪の夜だ。酔狂にもほどがある。

よく見ると、足跡は馬蹄のようなU字型。しかし、割れているのはなぜか先のほう。長さは約10cm、幅は約7.5cmで、歩幅間隔はほぼ21cmと一定している。犯人が鳥や獣なら、後方に雪を蹴った跡がありそうなものなのに、そういう形跡はない。どれも真上から垂直に雪を踏みしめた形状だ。
しかも、何かがとてもおかしい。
野生動物なら左右に2列の足跡が残るはず。ところが、この足跡はどこまでも1列でつづいている。まるで平均台の上を歩いたかのように。装蹄した1本足の何かがピョンピョン飛び跳ねて進んだかのように。

さらに驚いたのは、この足跡の主に障害物は関係ないらしいことだった。
家屋に突き当たると、屋根の上に足跡がつづく。21cmの歩幅は変わらない。
高い塀にぶつかると、その塀の向こう側から足跡がはじまる。
川が行く手をさえぎれば、向こう岸にやっぱり足跡が。障害物の前で途絶えた1列の足跡は、障害物を飛び越えて、途絶えた地点の延長線上に1列であらわれる。それが干し草の山でも岩でも同じことだった。
よく考えてみよう。通りを歩いていて障害物にぶつかった場合、普通なら迂回するか引き返す。しかし、この主は高さや物理的障害といった概念がまるでない感じなのだ。
背中に翼があるがごとし。でも、ひづめをもつ鳥などいるはずがない。
足跡をたどってみると、さらに不思議なことが判明する。それらは人目につきやすい場所だけでなく、排水溝内部にも見つかった。かと思えば、障害物のない道の途中でぷっつりと途切れていることも。

これは既知の生き物ではない。人々が確信するのにそう時間はかからなかった。
理由は足跡の範囲である。それはエクスマウスを皮切りに、トップシャム、ドーリッシュ、ティンマスなどデヴォンシャーの随所で見つかったのだ。直線距離にして、ざっと60km。山手線一周分が35km弱だから、その倍近い距離を歩き回っていたことになる。
状況証拠からすれば、犯人はひづめの1本足で、驚異的な跳躍力、あるいは飛行能力をもち、一晩で長い距離を移動できる「何か」だろう。雪の降りしきる夜、人知れず徘徊していたのは何ものか。

男たちは銃を手に追跡を試みた。が、どこまでもつづく足跡に気味が悪くなり、途中で引き返した。女や子どもは外出をためらい、扉を閉めきって家にとじこもった。

デビルズ・フットプリント~ 悪魔の足跡

この不思議な現象は新聞でも驚きをもって報じられ、またたく間にイングランド中を駆けめぐる。
足跡が家々をのぞき込むように玄関口の上がり段に残されていたことも住民を震えあがらせた。
170年前という時代背景もあったのだろう。人々が悪魔の姿を思い描くのに、さして時間はかからなかった。西洋で悪魔といえば、ヤギに似た有蹄類の顔立ちにコウモリのような翼。先の割れたひづめをもつと信じられていたことも恐怖に拍車をかけた。
「サタンがこの町に舞い降りた。あれはサタンが通った跡だ」
「悪魔が罪深き民を探して徘徊していたのだ」
この騒動が「デヴォンシャーの悪魔」と呼ばれるゆえんである。

もちろん、すべての人々が悪魔のしわざだと信じたわけではない。原因究明にむけた動きは当初からあった。悪魔など、ばかばかしい。足跡が存在する以上、実体のある何かが残したはずではないか、と。
これまでに提唱されたさまざまな仮説をみてみよう。

人間のいたずら説

「ひづめの1本足」という先入観にとらわれるからだめなのだ。そんな動物はいないのだから。答えは簡単、誰かの悪ふざけにきまってる。犯人は人間だ。極寒の真夜中に、どこぞのバカ者が靴に蹄鉄をつけてモデル歩きをしたのだ。まったくもってけしからん。

「そうでしょうか? ただのいたずらにしては骨の折れる作業ですけど」
いや。なにせバカ者なのだから、これくらいのことはやる。
「では、具体的にどうやって? 屋根や川をものともせずに、一晩で60kmですよ?」
うむ。ひょっとしたら一輪車を使ったかもしれない。もちろん蹄鉄を取り付けたやつだ。

人間ならば、たしかに骨の折れるいたずらである。が、状況証拠をクリアできそうな生き物として真っ先に思い浮かぶのも人間だろう。しかし、仮に一輪車を使ったとすれば、わだちも人の靴跡も残るはず。では竹馬はどうか。それでも足跡は乱れるはずで、1列にするのは至難の業だ。また、排水溝の足跡や消失した足跡の説明もつかない。普通の人体構造、身体能力の持ち主には不可能な芸当といわざるをえない。

動物説

足跡の発見直後に唱えられた説は、やはり動物のしわざと解釈するものが多かった。
動物であれば屋根にのぼり、塀も越える。冷たい川を渡ることもいとわない。途中で足跡が消えるのは、空飛ぶ捕食者に捕まったからだ。
候補に挙げられた動物は、アナグマ、カワウソ、イタチ、ウサギにカエルといった野生生物のほか、カモメ、ハクチョウ、ツルなどの鳥類。
鳥なら高所へ移動できるし、川を越えることもできる。が、いかんせん足跡の形状がちがいすぎる。だいいち、なぜ空を飛ばずに60kmも歩いたのか。

なかでもアナグマ説は一見説得力があり、注目を集めた。彼らは前後の足が重なり合う歩き方をするので、歩いた跡が1列にみえるのだ。問題は跳躍力と足跡の形状だった。高い塀を飛び越えるほどの跳躍力はアナグマにはないし、ましてや屋根にのぼるのは難しい。

それではカワウソはどうだろう。彼らは水陸両用のうえ排水溝にも入れるし、屋根にあがることもできる。60kmという広範囲も、たくさんのカワウソが一斉に歩き回ったと考えればつじつまが合う。が、やはり足跡が合致しない。アナグマやカワウソに限ったことではなく、いずれの野生動物もこのような足跡をしていないのだ。
それならいったい、なんなんだ。

人々は、あるものの存在に気づく。川を越え、広範囲を楽々と移動でき、初めて見る足跡で、途中でいきなり消えたりするもの。これらの謎を一挙に解決してくれるものがあるじゃないか。
気球だ。

無人の気球から垂れ下がったロープ説

「足跡の正体は、シャックル(掛け金)を引きずって飛行した実験用の気球である」

デヴォンポート海軍造船所で造られた実験用気球が誤って空に放たれてしまい、シャックルをぶら下げたまま風に乗ってデヴォンシャー上空を漂って、ひづめのような跡を各地に残していったという説だ。つまり、足跡の正体は係留ロープの先端にある金具である。机上の推理としては合理的といえるだろう。

しかし、やはり問題点は残る。
一晩中、風速が穏やかに一定値を保つことがあるだろうか。無人の気球が一定の速度と高度を維持したまま、規則正しく昇降し、等間隔の痕跡を残しながら60kmを移動する。しかも、途中でどこにも引っかかってはならない。朝がきても、誰にも見つかってはならない。神業すぎる。

それではやはり動物のしわざなのだろうか。
寒さに強く、塀や屋根によじのぼることができて、狭い排水溝にもぐり込むことができる動物。おそらく泳ぐこともできて、ある地点で足跡が消えてしまう動物。それはなんだろう。

犯人はおまえか、モリアカネズミ

一周まわって、現在では野生動物が再注目されている。
問題の蹄鉄のような足跡は、アカネズミの仲間であるモリアカネズミがホッピングしながら進むときにできるというのだ。前肢2本と後肢2本の四つの足跡がつながって、U字型もしくはV字型を形づくる。これなら1列だったのも合点がいく。
足跡が消えたのはフクロウなどに連れ去られたからだろう。冷たい川に入ることはあまり考えられないが、捕食者から身を守るために飛び込んだ個体もいたかもしれない。

モリアカネズミが犯人ならば、多くの謎は解明する。が、それでも謎は残る。
長い距離を移動した目的は? 距離については大量のネズミたちが同時多発的に活動したとしか考えられない。目的はいっこうにわからない。
動物説を唱える専門家たちの最大の疑問はこれだ。
「なぜ足跡の出現がデヴォンシャーに限られ、しかもあの晩だけだったのか」。
野生動物の足跡であるならば、雪深い他の地域でも同じような目撃談があるはずだ。動物学者を含めて、誰もあのような足跡は見たことがないというのなら、なぜあの夜限定でモリアカネズミは特異な行動をとったのだろう。

刹那のミステリー

足跡は雪解けとともに、またたく間に消え去った。騒動から170年を経た今となっては謎解きもままならない。仮説のどれかが真相に迫っているのか、そうでないのか、まったくもってわからない。
じつは犯人は1種類の動物ではなく、何種類もの動物だとする説もある。いくつかの要因が重なって、あのような足跡ができあがった可能性も十分にあるだろう。そもそも雪上の足跡というのは原形をとどめにくい。朝になって雪が解けだしたことにより、何かの跡が広がって足跡に見えたとも考えられる。

さらに、こうした奇現象においては得てして事実が誇張される。デマをデマと知りながら吹聴したり、脚色したりする人間も少なくない。足跡の距離についても、どうしても懐疑的になってしまう。雪が解ける前に、足跡の総距離をたどることができた人間はいたのだろうか。騒ぎが大きくなるにつれて方々から報告が寄せられ、それらの話を合わせて概算した可能性も捨てきれない。

真相を知りたいが、もう検証する方法は残されていない。
このデヴォンシャーの悪魔騒動のように、歴史の奥深くうずもれた未知の事実はたくさんあるのだろう。

※画像はイメージです。

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