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フランスで消えた旅行者

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私は子どもの頃から不気味な事件やむごたらしい事故、戦争についてのノンフィクションやドキュメンタリーにはまっており、こういった話の蒐集はもはや趣味の1つだ。
そんな中、この趣味にさらに拍車をかける出来事があった。
これは、実際に私の身の回りで起き、聞いた本当にあった話だ。

目次

卒業旅行でフランスへ

今から15年ほど前、私は大学の友人とフランスに卒業旅行へ出掛けた。
大手の旅行会社が企画した5泊7日のフリープラン(飛行機・宿以外の行程が自由なプラン)のツアー。
学生向けということで旅行代金は非常に安かったものの、飛行機もエコノミークラス、宿もパリ市内でも非常に治安の悪いエリアのホテルだった。

卒業を控えた大学生や専門学校生など30名ほどが同じ日程で参加していて、皆それぞれにフランスを満喫していたようだ。
私も友人と美術館や建造物、パリの街並みを楽しんだ。

そして最終日、その日は各自ホテルをチェックアウト後、バスで空港に向かい、フランスからイギリスへ飛び、別の飛行機を乗り継ぎ日本に帰国するという予定だった。
今はどうかわからないが、当時のトランジットは複雑だった。
また、空港とホテル間の行き来も違法タクシーなどが多く、日本のように安全とは言い難い。
そのため、行き帰りの空港・ホテル間の送迎と最後の人数確認、トランジットのフォローのためツアー初日と最終日は現地の日本人ガイドが添乗してくれた。

ツアーもいよいよ終わり、荷造りとチェックアウトも済ませた学生達は、楽しかったもののようやく日本に帰るという緊張感がほぐれた雰囲気の中で、皆ホテルのロビーで大きな荷物と共に出発を待っていた。
私と友人もツアーで出会った別の大学の学生(以下A、B)と旅の思い出について話しながら、全員の集合を待っていた。

しかし、集合時間を過ぎても、ホテルの前に帰りのチャーターバスが止まっても、一向に現地ガイドから出発の号令がかからない。
それどころかガイドは頻繁にどこかに電話をかけたり、困惑した表情でホテルのフロントと何かを話している。
待たされている学生達もどこか不穏な空気を察知し、ホテルのロビーは徐々に静かになっていった。

異国で消えた2人の派手な女

「ねぇ、もしかしてあのちょっと派手な女子2人組、集合してないんじゃない?」
Aが声のトーンを落として話し始めた。
発言を受けて周囲を見回してみると、確かに初日一緒に空港からホテルまでバスで移動したメンバーのうち、姿が見えない者がいる。
友人同士と思しき女子2人。
ブランド物の服やバッグに身を包み、ずっとサングラスをかけていたため、ツアー参加者の学生達の中でも目立っていたのだ。
「あの子たち、夜遅くブランドのショップバッグぶら下げて帰ってきてるところ見たよ。確か2日目」
「一昨日も見た。ブランド品買い漁ってたのかな」
友人やBも次々に彼女達のあまり名誉ではない目撃情報を思い出していく。

ツアー初日、ホテルに到着した際、現地ガイドから「ホテル周辺は大変治安が悪いので、ブランドショップで買い物をしても、ロゴが入ったショップバッグをぶら下げてホテルに帰ってこないように。強盗などに目を付けられるかもしれないから」と注意を受けていたにも関わず、私を含め、多くの学生達が彼女らが有名ブランドの紙袋を下げてホテルに戻ってきたところを目撃していたのだ。

待たされている苛立ちといない者に対する好奇心、そしてその対象が「ガイドの話を聞かない派手な女子」というあまり好まれる印象ではない人物。
ついにはツアー参加者全体に広まった彼女達の話は、「まだブランド店をうろついているんじゃないか」、「強盗にでも襲われたんじゃないか」などほとんどが無遠慮で口さがないものだった。

中には旅行会社の担当者と話していると思われる現地ガイドの電話を盗み聞き、「朝食時にはホテルの従業員がいるのを見ていたらしい」とか「チェックアウトはしたらしい」と情報収集するものまで現れる始末だった。

バスは出発するが

「お待たせしました、出発しましょう。忘れ物がないようにホテル前のバスに乗ってください」
ようやく現地ガイドが疲れた顔で号令をかけた。
皆がバスに乗り込み、出発したものの、やはり2人の姿はない。
学生達のおしゃべりはガイドの耳にも入っていたのだろう。

バスが走り出し、しばらくするとアナウンスがあった。
「気づいているかと思いますが、2名のツアー参加者が集合に間に合いませんでした。これから向かう空港とトランジット空港でギリギリまで2人を待ちます。皆さんにはご迷惑をおかけして申し訳ございません。皆さんの搭乗時刻には影響ありませんので。ここにいる皆さんは大丈夫だと思いますが、空港の集合場所に時間を過ぎてもいないといった理由で飛行機に乗り遅れますと、航空便の振り替え差額や新しい航空券の購入代はすべて自腹になります。その手続きについても旅行会社では一切お手伝いできませんので気を付けてください」
ピリピリとした緊張感が漂うそのアナウンスに、空港に着くまでバスは静まり返ったままだった。

バスの中でも、空港でも現地ガイドはしきりにどこかへ連絡をとり、現れない2人のツアー客を見つけるべく努力したようだった。しかし、ついに2人が私達の前に現れることはなかった。

イギリスの空港で私達を見送ってくれたガイドの表情は、もはや泣きだしそうになっており、別れはなんとも気まずいものだった。
「なんかすっきりしない最後になったね」
友人やA、Bともそのように話し、結局彼女達の安否はわからないまま、私達は日本に帰国した。

偶然の再開と2人の行方

その後、私は大学を卒業し、就職。
新社会人として慣れない仕事に励んでいる間に、「卒業旅行で消えた2人」のことはすっかり頭の片隅に追いやられ、なかば忘れかけていた。
しかし、社会人2年目の夏、あの卒業旅行から1年半程が経ったある日、偶然職場近くでAに出会った。
Aは大学卒業後、旅行会社に就職し、私の勤める会社と同じ最寄り駅の旅行代理店で働いていたのだ。

偶然の再開を喜び、私達はそのまま近くの居酒屋で飲むことにした。
お互いの仕事やそこでの出会いに対する感想や愚痴と、酒の力で話ははずみ、楽しく時間が過ぎていった。
2時間ほど飲み進めたところで、Aはすっかり酔いが回ったらしい。
会話はまだできているが、目元はどんよりと怪しいものになっていた。
そろそろ切り上げ時かと思ったところ、急にAに問いかけられた。

「卒業旅行の最後、2人集合時間に来なくて飛行機に乗れなかったの、覚えてる?」

正直今の今まで忘れかけていたが、Aの一言で急速にあの時の記憶がよみがえてっきた。
私がうなずくのを確認すると、Aは声を潜めて話し始めた。

Aの話

「(旅行代理)店の先輩に聞いたんだ。旅行とかって急に人がいなくなったり、不気味な事故とかが多くて、新人向けのそういう本当にあった系の怖い話。その中に俺達の卒業旅行でいなくなった2人組の話があったんだ」

「俺達が日本行の飛行機に乗った後、添乗してくれた現地ガイドがそいつらが間違ってホテルに取り残されていないか、戻って見に行ったらしいんだ。そうしたらホテルの従業員につかまって「これを見てくれ!」ってそいつらが泊まっていた部屋に案内させられた。その部屋、一歩入ると鉄臭いにおいが充満していたらしい。ガイドが狭くて短いあのホテルの部屋の廊下を通って中を覗き込むと服やら化粧用具やらお土産やらが散乱していて、壁やベッドには赤い…血みたいな色に染まった傷が至る所につけられていたって」
「押し入り強盗にあったってこと?」

彼女達は連夜、ブランド品の紙袋を見せびらかすようにしながらホテルに帰っていた。
道中で誰かに目をつけられ、ホテルに戻ったところを襲われたのだろうか。

ホテルの中

「いや、その壁とかベッドの赤い傷、1つが50㎝くらいあって…等間隔に3本の線が並んでる、人がつけたっていうより、動物…いや、化け物の爪痕みたいなものだったらしいんだ。しかも財布とかパスポートとか貴重品は全部部屋に散らばって残ったままだったって」
「でも、あの子たち確かチェックアウトしたんじゃなかった?」
「チェックアウトはしてたらしい。部屋に残ってたパスポートの写真を見て、ホテルのフロントも「この2人がキャリーケースを引いてチェックアウトしにきた。変わった様子はなかった」って確認したらしい」
「部屋に荷物はあったんじゃなかったのか?」
「正確にはキャリーケース以外の、中に入っているはずの荷物が散乱していたらしいんだ」
「空のキャリーケースを引いてチェックアウトしたってことか」
「あぁ。…俺達が泊まったあのホテル、10年に1回くらい今話したみたいなことがあって、泊まってた客、しかも女ばっかりがいなくなることがあるらしいんだよ」
「え?」
「いつも状況は同じらしい。客はチェックアウトしている。でも部屋は化け物に襲撃されたかのように荒らされて物が散乱して、壁やベッドに赤い傷がつけられている」
「なんでそんなホテルがいつまでも営業してられるんだ」
「部屋で人が襲われた証拠がない。無人の部屋が荒らされた可能性もある」
「でもさっき壁の赤い傷が血みたいだったって言ってただろう?」
「確かに血の痕だけど、人間のものじゃないらしい。そして今地球上で確認されているどんな動物のものでもないらしいんだ」

いつの間にか興奮して捲し立てるように喋っていたAは、グラスに残っていた酒に少しだけ口をつけ、小さく溜息をついた。

「ホテルはこういうことが起こるたび、少し休んで名前を変えてを続けてずっと営業してる。宿代も安いから格安旅行のパックにはありがたくって、日本の旅行会社もちょくちょく使ってるんだ」

酔いはすっかり醒めて、席は沈黙に包まれた。

結局、あの女子2人は

物が散乱した部屋。
化け物がつけたかのような爪痕。
なにくわぬ顔で空のキャリーケースを引いてチェックアウトしていった女子2人。
集合時間に現れなかった2人。
この世に存在しないものの血。

「結局、あの女子2人、見つかったのか?」

Aは黙って首を横に振った。

見えないものに促されるように私達は席を立ち、会計を済ませて店を出た。
家の最寄り駅が違う路線だったので、改札を通ったところで別れることになった。

「なぁ!さっきの話冗談だから!全部俺のつくり話だから他言無用で!な!」

Aはおどけたような口調でそう言うと別れの挨拶もそこそこに、自分の乗る電車のホームに向かって急ぎ足で去っていった。
しかし、口調とは裏腹にAの表情は青ざめていた。
恐らくAは本当のことを喋ったのだ。
そう思わせる顔だった。

消えた2人の親族でもない以上、大使館や現地の警察に彼女達の行方を問い合わせるわけにもいかない。
今、彼女達がどこでどうしているのか、それとももうどこでもない場所をへと旅立ってしまったのか知るすべはない。
この名もなき事件は、ずっと未解決事件として私の頭の中に残り続けるのだ。

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