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たくさんの私じゃない私はドッペルゲンガー?

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他人の空似という言葉では説明ができないほど、友人や兄弟、はたまた自分にそっくりな人に出会ったことはあるだろうか?

目次

昨日会ったのに

高二の秋頃の話。
登校してすぐに二年から同じクラスになった子に話しかけられた。

「おはよー! あのさ、アヤノちゃん昨日、駅前にいた?」
「ううん。駅には行ってないよ。私バス通だから」
「あっやっぱりそっか」
「なんでー?」

その子は少し恥ずかしそうにはにかみながら言った。
「アヤノちゃんに似てる人がいたから、『アヤノちゃーん!』って思わず呼びかけちゃったんだけど、反応なかったんだよね。ちょっと遠かったから見間違えたみたい」
「あはは! おっちょこちょいだねぇ!」
この時は笑い話で済ませたのだが、これが始まりだった。

それから一週間後のこと。
朝、教室に入ってすぐに一年のときから同じクラスだった友人二人に声をかけられた。
「アヤノっちヒドいじゃーん!」
「えっ! なになにいきなり!」
「昨日、声かけたのになんで無視すんのー?」

私はまったく心当たりがなかったのでポカンとしてしまった。
「昨日駅ビルでうちら声かけたんだよ!『アヤノっち!』って呼びかけたら振り返ったのにそのまま行っちゃったじゃん!」
「そうそう! 目もバッチリ合ったのにさぁ!」
「えっ……ちょっと待って、昨日の話それ?」
私は状況が飲み込めなかった。
「なになに、どしたー?」
普段つるんでいるマイコとユメが登校し、話に加わってきた。

先の友人二人が同じことを彼女達に話すと、私と目を合わせて黙った。
「……あれ? なに、どうしたの?」
「アヤノは昨日、私の委員会手伝って、その後ユメと部活に行ったんだよ」
「えっ!」
「だから駅ビルになんて行ってないよ。私達が一緒にいたから間違いない」
「でも、あれ間違いなくアヤノっちだったよ! ねぇ?」
「うん! 私目合ったし! あれは絶対アヤノっちだった!」
「いや、でも私、駅ビル行ってないし……」

朝には似つかわしくない重苦しい空気が立ち込めた。
そうして予鈴が鳴り、私達はそれぞれ席に着いた。
この気味の悪い出来事の話はその後蒸し返されることはなかった。

私だけじゃなく

それからさらに数日ほど経ったある日。
マイコが登校早々に話しかけて来た。
「昨日さ、アンタ部活行ったよね?」
「うん」
「何時までやってた?」
「昨日は美術室が5時までしか使えなかったから5時だけど?」
「だよね。そうだよね。けどさ、私見たのよ」
「なにを?」
その前フリに嫌な予感がした。
「図書館の近くで彼氏と歩いてるアヤノを!」
「はぁ?」
「間違いないって! 前に彼氏と撮ったプリくれたじゃん! だから顔知ってるし! アレはアンタと彼氏だった!」

私のドッペルゲンガーだけならず、なんと彼氏まで現れたという突拍子のない現象に私は思考が停止した。
「見間違いでしょ、絶対」
「だけどアヤノだったもん。じゃあなに? 彼氏がアンタと同じ背格好の子と浮気してるとか?」
「いやアイツ野球部で、昨日も夜まで部活やってたよ」
「それじゃあ、私が見たカップルは誰なの?」
「そんなの知らないよ」
不気味にもほどがある。私のみならず、彼氏までもがドッペルゲンガーとして現れたのだ。まるで第二の私の存在を確実なものにするかのように。

そして、この日から私のドッペルゲンガーを見たという人が続々と現れるようになったのだ。
一日でまったく別の場所で見たという人が数人いたときにはどうしようかと思った。
しかもドッペルゲンガーが目撃されたときは必ず私が部活や委員会で学校に残り、それを証言できる友人がいるときなのだ。
ついには「学校外で見る私は偽者だ」とまで言われるようになった。

そんなおかしな状況でも仲の良い友人達は面白がっていた。
「ドッペルゲンガーに出会ったら死ぬっていうけど、あれって会った瞬間に死ぬのかな?」
「そうなんじゃない」
「けど、どっちが死ぬの?」
「そりゃ本人でしょ」
「それで本人が死んだらドッペルゲンガーはどうなるの? 本人に成り代わるの? それともドッペルゲンガーもいなくなるの?」
「知らなーい」
まるで私とドッペルゲンガーが出会ってほしいかの物言いだ。

「マイコは見たんでしょ? ユメは見た?」
「見てない。だってアヤノと部活行ってるから見られるわけないじゃん」
「あっそっか。ずっと本体と一緒にいるのか」
「ちょっとナナミ、本体って言い方やめてよ。私が分身させてるみたいじゃんよ」
「そうなんじゃないの? いっそドッペルゲンガーにバイトでもさせてお金稼いだら?」
「あははは! それいいね! コピーロボットみたい!」
他人事だと思ってお気楽なものだ。たくさんの人にドッペルゲンガーを目撃され、私は気味悪がられていたのに。

デッサンのモデル

しかし、そんな日々も突然終わりを迎えた。
連日のように目撃証言があったのが、パタリと聞かなくなったのだ。
「そういえば最近『アヤノちゃん昨日〇〇にいた?』ってきかれなくない?」
とマイコが言い出したことで気が付いた。
「そういえばそうだね」
「なんでだろ? 逆にアヤノがあちこち出かけるようになったとか?」
「普通に部活やってるわ」
「じゃあなんで?」
「知るか!」
「私、ひとつ思い当たることがあるんだけど……」
ユメの言葉に私達は耳を澄ませた。
「アヤノがあちこちで見かけられ始めたのって、先輩のデッサンのモデル始めてからじゃない?」
私は美術部に所属しており、上級生のデッサンのモデルは後輩が交代で行っていた。

美大を受験する人はデッサンをやらなければならず、基本は石膏像を使うのだが、油絵を専攻する場合は人物画もやっておいた方がいいということで、時々やっていた。
モデルを頼む費用などないので、制作の合間を縫って後輩がやることにしていたのだ。

「何日がやった後、先輩しばらく学校休んだでしょ? それで再開してこの前までアヤノがモデルしてたじゃん」
「あー言われてみるとそうだわ。先輩のモデルやってるときにめっちゃ目撃されてた」
「デッサンって1枚だけ描くの?」
「まさか! クロッキーだと数分から数秒で1枚仕上げるよ」
「じゃあものすごい数描くってこと?」
「そうだねー。クロッキーもやったし、木炭と鉛筆の両方やったから二十枚以上は描いてたよ」
「ってことはそのデッサンの数だけドッペルゲンガーが見られたってこと?」
「まさかぁ! 偶然じゃね?」

その後、美術室に行った際に先輩のデッサンが置かれている棚が目に入り、ナナミの言葉を思い出した。
デッサンの枚数と目撃された数が同じだったら……と思ったが、数える勇気はなかった。

ドッペルゲンガー

それから何度か先輩達のデッサンのモデルをやったが、ドッペルゲンガーが目撃されることはなかった。
その理由に一つ心当たりがあった。
ドッペルゲンガーが現れたときに私がモデルをやっていた先輩は美大の受験を諦め、デッサンをやめてしまったのだ。
父親が倒れてしまい、受験どころではなくなったと言っていた。

その先輩は美術部の中で一番絵がうまく、顧問も期待していたのでとても残念がられた。
先輩の絵はただ上手いだけでなく、魂が宿っているかのような生命力があるとよく言われていた。
なので、絵から抜け出した私が様々な場所に現れたと思われても無理はないのかもしれない。

しかし、たった一度だけだったが、彼氏と共にドッペルゲンガーが現れたことがあった。
彼氏はデッサンに描かれたことはなかったのに。
ただ、先輩に頼まれて彼氏と撮ったプリクラを見せたことはあった。それが影響していたのだろうか?

もしもまたその先輩のモデルを務めていたらドッペルゲンガーは出現していたのだろうか?
そう思ったが、確かめる術はなかった。

※画像はイメージです。

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