「その足音は?軍人?教官?」江田島最恐記

古くから海軍、そして現在は海上自衛隊の教育の地、江田島。
もう20年以上昔の話ですが・・・実際に体験した体験です。

これはもうずいぶん昔、ときは20世紀も終わりに近づいていた頃に私が海上自衛隊に在職していた時の実話です。
海上自衛隊に入隊後、教育隊を修業し、しばらくの間、護衛艦に乗艦して実務経験を積んだ後、広島県安芸郡江田島町(現在の江田島市)にある海上自衛隊第1術科学校に入校しました。

この学校は旧海軍の海軍兵学校跡に存在し、現在は海上自衛隊における幹部候補生学校や一般隊員の術科教育(職種に分かれた専門的な教育)が行われています。
また校内の講堂や隊舎(宿舎のこと)は海軍兵学校時代の建物が当時はそのまま活用されており否が応でも海軍兵学校を疑似体験せざるを得ませんでした。

そして私の内心はと言うと・・・

実は海上自衛隊では心霊的なウワサ話は先輩から多々聞かされる世界なわけで、ビビりな私はいつも「江田島には行きたくない!江田島に行く前に退職しよう」と思っていたほど。
しかし幸か不幸か前述の護衛艦勤務の際、私の職種に配属されていた先輩数名は別の職種へ転向したいとの希望を出し、突然私に学校入校の順番が回ってきたのです。

「いやだなぁ・・・」

護衛艦勤務中に先輩から腹一杯聞かされた心霊オカルト的な話の現場に行きたくないという単純な思考。
しかしここまで来れば命令なので自分ではどうすることもできません。ここで約5か月何があろうと生活せねばならない運命。

腹をくくることにしました。

さて、学校に着任すると部屋は4人部屋。曹の階級の学生として入校している先輩隊員が2人。私と同期が2人という配置でしたが、早速先輩の洗礼を受けることになります。

「おい!酒買ってこい!」
「おい!居酒屋でお好み焼き買ってこい!」

酒は本来、許可されたの隊内の飲食店以外では飲酒禁止。
もちろん外出に関しても水曜日の夕方から22時までと金曜日の夕方から日曜日の22時までと厳格に定められており、その他は禁止されていました。

そんなことはわかっていても先輩の命令には逆らえません。毎日のように使い走りにされ、夜な夜な柵を越えて無断外出。
近くの居酒屋でお好み焼きを買い、酒屋で焼酎を買ってダッシュで隊舎に戻る、バレたらアウト。懲罰モノです・・・そんな生活が1か月。

毎日毎日居住区と呼ばれる寝室の一番奥で先輩の飲酒に付き合わされる日々。
そしてこの隊内無断飲酒の際は必ず居住区の扉付近に見張りを1人配置して、当直の教官が見回りに来る際の足音と懐中電灯の灯りをすぐに知らせる役をさせていました。

「コツン・・・コツン・・・」
「来ました・・・・・・」

そう見張り役が報告すると先輩や私たちは飲んでいる焼酎やグラスをベッド下へ押しやりベッドへ飛び込みます。

息をひそめて耳を澄ませて当直教官が立ち去る足音を聞く。
まぁ毎日ほとんど同じ時間に回ってくるので、そんなに難易度が高いわけではなく、当直教官が立ち去ると再び酒盛りの再開です。

そんな先輩たちも1か月ほどすると修業し、さらにその1週間後私達にも後輩隊員が2名入ってきました。
すると今度はお酒こそ買いに行かせませんが、週末の外出で調達してきた焼酎を持って、私達が主催の酒盛りを夜な夜な開催するようになりました。

この頃には元々霊感もない私は、すっかり護衛艦勤務時代に聞いていた心霊的なオカルト話も忘れてしまっていました。

「江田島も悪くないなぁ・・・護衛艦よりいいかも」

そんなことまで思い出す始末。
しかしそんな私にこのあと恐怖が襲います。

そうです。忘れてはいけない・・・
ここはあのたくさん聞かされた心霊オカルト話の現場そのもの。
旧海軍兵学校なのです。

そして私達が寝起きしているこの隊舎も海軍兵学校の校舎。

ある日のこと。いつものように居住区の一番奥で無断飲酒を後輩隊員と済ませ、日付が変わろうかとする頃ベッドへ入り眠りに落ちました。
1時間くらい経過したでしょうか。この日は当直の見回りはもう来たはずなのに足音がします。

「コツン・・・コツン・・・」
「うん?こんな時間におかしいなぁ・・・」

そう思っていると、その足音は私達が休む部屋の前で止まったのです。

「ギィー・・・・・・」
部屋の扉が開きます。

「ヤバい、これは聞いていたあの話では?」

そう思いましたが、体が動きません。金縛りです。意識はあるのに体が全く言うことを聞いてくれません。

「コツン・・・コツン・・・」

足音はなぜだか私に近づいてきます。
そして足音が止まりました。
私は怖くて目を開けられません。そして声を出して助けを呼びたいのですが、声も全く出ません。

その時です。

「おい」

低くて野太い声。
目は開けていませんが、感覚的に誰かが私の顔を覗き込んでいるように感じます。

「いや、教官かもしれない、酒臭いのがバレたか?」
なんて自分を落ち着かせようとしますが、確実に何かが違うことだけは理解できている。

「うっ!」

その瞬間、私はなぜだか今まで開かなかった目を開けてしまったのです。
薄明りの中、目の前には私の顔を覗き込む顔。

紺色の詰襟の制服を着ていて、自衛隊のものではない制帽を被っている・・・そしてその顔は怒りに満ちた表情。

「何か言いたそうな怒りの表情だ」と恐怖にビビりまくっているときです。

一瞬にしてスゥっと蒸気のように消えました。

今振り返るとあれは旧海軍当時の兵学校の生徒だったかもしれません。
規律を守らず弛んでいる私達を見て注意しに来たのかなとも感じました。

それから毎日の無断隊内飲酒は止め、規律正しい生活に。
それっきりその後の数か月出てこなかったことを考えると、あの霊が言いたかったことはそういうことだったのかな?と思わずにはいれません。

私は自衛隊を離れてずいぶんと経ちますが、きっと今も入ってくる隊員の規律を見守っていることでしょう。

※画像はイメージです。

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