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匠の技で遺体を加工する男 ~アメリカンホラーの源流 エド・ゲイン~

世界で最もサブカルチャーにインスピレーションを与えた殺人者──それはエド・ゲインだろう。
『サイコ』のノーマン・ベイツ、『悪魔のいけにえ』のレザーフェイス、『るろうに剣心』の外印(げいん)、『ゴールデンカムイ』の江渡貝弥作など、この男をモデルにしたキャラクターは時代や国境を軽々と越えながら増殖している。

シリアルキラーの代名詞のように思われがちなゲインだが、実際の殺害人数は2名と少なく、シリアルキラーと呼ぶほどのスケールではない。にもかかわらず、その黒光りするオーラは今もカルト的な人気を誇り、世界中で息づいている。

目次

プレインフィールドの屠殺職人

エド・ゲインが伝説の殺人鬼として語り継がれるようになったのは殺人者だからではない。彼が伝説となったのは、遺体の扱い方が普通の秤では量れないほど常軌を逸脱していたからだ。その異常性は、死者の尊厳を冒涜する数々の行為に際立っている。

ゲインは手にかけた女性や墓場から掘り返した遺体を自宅に持ち帰って食べた。さらにそれらを解体・加工して、インテリアや食器を製作した。
「女になりたい」という願望を密かに抱いていた彼は、女性の顔の皮をはいで作った仮面をかぶり、乳房のついたボディスーツを身にまとって真夜中に徘徊した。切除した女性器で自分の性器を包むことも好んだ。

ウィスコンシン州の片田舎、プレインフィールドの住民はゲインの異常性にまったく気づかず、少し頭の弱い、気のいい中年男としか思っていなかった。エド・ゲインは、その倒錯した性癖を除けば、シリアルキラーと呼ばれる鬼畜たちより、はるかに内気でおとなしい男だったのだ。

無垢で邪悪な魂

1954年12月8日、プレインフィールドで酒場(宿屋とする資料もある)を営む中年女性、メアリー・ホーガンが消えた。
店にやってきた客がメアリーの不在を不審に思い、カウンターの中をのぞいてみると、床が一面の血だまりになっていた。

娯楽の少ない田舎の常として、町じゅうがメアリー殺しの噂でもちきりになる。その日も同じように、製材所を営むエルモ・ウェックが塀の修理に来ていた男にメアリーの話題をふった。
「まったく、彼女がこんなことになるなんてなあ。もしおまえが本気で口説いてたら、メアリーはどうしてたかな。今頃、おまえの家で夕食を作ってたんじゃないか? なあ、エディ?」
ウェックは、この男がメアリーに惚れ込んでいることをお見通しだった。酒に弱いくせにメアリーの店に通いつめて、彼女のようすをうかがっていたからだ。

すると、話をふられた男は人のよさそうな笑顔で答えた。
「ううん、かのじょはきえてなんかいないよ。いまもぼくのうちにいるよ」
この男がエド・ゲインである。

殺人の発覚

3年後の1957年11月16日、今度は金物屋の女主人バーニス・ウォーデンが消えた。
行方不明になる直前にゲインが買い物に来ていたことと、売上伝票が残っていたことから容疑がかけられ、ようやく犯行は白日のもとにさらされる。

ゲインの自宅に踏み込んだ保安官たちは、あまりの凄惨さに息をのんだ。
バーニスは脚をYの字に広げられて天井から逆さに吊るされ、猟で仕留めた獲物の下ごしらえをするかのごとく解体中だった。キッチンには心臓を調理した鍋。冷蔵庫には腸。頭蓋骨のボウル。室内には皮膚で作ったランプシェイドに人皮を張った椅子。九つの女性器。鼻だけが入った箱もあった。

事件の初動捜査にあたったアーサー・シュリー保安官は、ゲインへの取り調べにおいて、壁に顔面を叩きつけるなど暴力的な尋問により自白を引き出したが、裁判を待たずに心不全で急逝する。まだ43歳の若さだった。

日頃のシュリーをよく知る人々は、一連の捜査で目にしたものが彼の深いトラウマとなり、精神のバランスを崩したあげくに死期を早めたのではないかと一様に同情した。ある友人は「アーサーもゲインの奴に身体を解体されたようなもんだ」と悔しさをにじませている。

クレイジーマザーの呪縛

「女の仕組みが知りたかった」と犯行動機を告白したエド・ゲイン。
幼少期より母親から受け続けた狂信的で歪んだ性教育が、この男を骨の髄までのマザコンに仕立て上げ、精神を病ませたのは事実だろう。殺害されたメアリーとバーニスには、ふくよかで威圧的な中年女性という共通点があった。彼女たちの不幸は、ゲインの母オーガスタによく似ていたことだ。

犯行はマザーコンプレックスのカタルシスだったのか、それとも愛情を示さなかった厳格な母への復讐だったのか。本当のところはゲイン自身にもわからなかったかもしれない。エド・ゲインは精神異常により無罪の判決が下され、収容された精神病院で余生を送った。癌による呼吸不全により死去したのは1984年7月26日のことだ。

アメリカの悪夢を象徴する存在として、後年のシリアルキラーにも多大な影響を与えたエド・ゲイン。彼の最大の悲劇は、生涯を通じて母親の呪縛から逃れられなかったことだろう。

参考文献:『死体処理法』ブライアン・レーン著/立石光子訳
※画像はイメージです。

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