「エクソシスト」のモデル・メリーランド悪魔憑き事件と神について思うこと

バチカンのエクソシスト、ベニーニョ・パリーラ神父が、ここ数年でエクソシズム(悪魔払い)の依頼が急増したと憂えている。
近年、イタリアで報告される悪魔憑きのケースは年間50万件に及ぶそうだ。

ご、ごじゅうまんて、ちょ、待てよ。
人間は、そうも簡単に悪魔に憑依されるものなのだろうか。それとも、この異常事態をハルマゲドンの予兆とみるべきか。不謹慎にも、「スキだらけじゃんイタリア人ww」と思ってしまったことを懺悔したい。

不謹慎ついでに、連日暑いことだし、1973年のアメリカ映画『エクソシスト』を再見してみた。
カトリック教会にエクソシズムの儀式が存在する事実を世界に知らしめたのは、まぎれもなくこの映画だろう。

・・・というわけで、今回は、この世界的大ヒット映画の原作モデルになった少年の話です。

映画化された実話

エクソシストはカトリック教会の黎明期から要職として存在した。

映画『エクソシスト』の原作は、ウィリアム・P・ブラッティによる同名の小説である。この小説のモデルとなったのが、1949年にメリーランド州で起きたメリーランド悪魔憑き事件だ。ローランド・ドウのエクソシズムともいう。
「ローランド・ドウ」とは、カトリック教会が少年につけた仮名。「ロビー・マンハイム」という別の仮名も存在する。

事件の関係者である神父の日記がワシントンポスト紙に掲載され、これを読んだブラッティが小説を書いたことで広く知られるようになった。

では、実際に起きたメリーランド悪魔憑き事件とはどんなものだったのだろうか。

悪夢の序章

ローランド・ドウはメリーランド州コッテージシティに住む13歳の少年だった。
プロテスタントのドイツ系一家に生まれたローランドは一人っ子。そのため、おもな遊び相手は叔母のハリエットだった。霊の存在を信じていたハリエットは、ウィジャボード(「こっくりさん」の一種)を使うことがたびたびあったという。

ある冬の夜、両親はローランドと祖母を残して出かけていった。
二人きりになってしばらくすると、蛇口からポタリ、ポタリと水が滴り落ちるような音が聞こえはじめた。家じゅうの蛇口を確かめてみても音はやまなかった。この時、二人はキリストの肖像画が揺れているのを目撃する。
やがて水漏れの音は止まったが、今度は何かを叩くようなコツコツという音と、黒板を引っかくような耳障りな音がしはじめた。

不審な音の原因がわからないまま10日ほど過ぎた頃、ハリエットがミズーリ州セントルイスで急死する。最愛の叔母の突然の死はローランドに大きなショックを与えた。

多発するポルターガイスト現象

ハリエットの死と前後して、ポルターガイスト現象も起こりはじめた。
不可解な音が家のあちこちで聞こえるなか、家具がひとりでに動き、花瓶が宙に浮く。
この頃からローランドの人格は豹変し、身体には「閉じ込められた」「助けて」などの文字が浮かび上がるようになった。
学校では、彼の机だけがガタガタと動いたかと思うと、滑りだして他の机に激突。多くの人々がこれを目撃した。

おびえた両親がルター派のシュルツ牧師に相談すると、牧師は状況を観察するため泊まりこんでくれた。
ローランドの隣で眠っていた牧師は怪現象を確認するとともに、ローランドの身体が説明のつかない体勢で部屋中を動きまわったと報告している。

胸に浮かび上がる血文字は叔母の死地「St. Louis」

ローランドに対するエクソシズムの儀式はアメリカ合衆国監督教会のもとで行われた。

ジョージタウン大学病院での悪魔払いのさなか、ローランドは神父に怪我を負わせ、中断を余儀なくされる。
家に帰されたローランドはわめき声をあげ、その胸には「St. Louis」の血文字が浮かび上がった。一家はセントルイスへ向かう。

ハロラン神父によれば、舞台となったセントルイス大学ではベッドが激しく揺れ、聖水の小瓶が宙を飛び、「EVIL」や「HELL」といった文字が少年の身体に現れたという。
ローランドは目を閉じていたにもかかわらず神父の目をめがけて唾を吐きかけ、人間のものとは思えない奇声をあげながら、13歳の少年が知っているはずのない汚い言葉で罵り続けた。

悪魔と神父たちの闘いは2か月以上も続き、儀式は30回にわたって行われた。
しかし、最後に「悪魔よ、去れ」と命じると、悪魔はこれに応じたという。悪魔が去った時、雷鳴や銃声に似た轟音が病院中に響いたと報告書は伝えている。
儀式に使用した部屋は封印された。

一家には再び日常が戻り、その後ローランドは平穏な人生を送ったというが、悪魔憑きの時期の記憶は一切なかったらしい。

悪魔憑きか疾患か

ニューヨークタイムズによれば、17世紀に編まれたバチカンのエクソシストに関するガイドラインは1999年に更新されたそうだ。
ガイドラインでは心理的、医学的、精神医学的な検査を受けたのちに悪魔憑きか否かが決定されるとイギリスのカソリック・ヘラルドは伝えている。

1940年代のローランド・ドウのケースが本当に悪魔憑きだったのか、それとも何らかの疾患だったのかは残念ながら明らかになっていない。
今日まで、自作自演から集団ヒステリー、統合失調症、解離性同一性障害、ハリエットの霊の憑依、悪魔とは無関係の超常現象まで、さまざまな解釈がなされてきたわけだ。新しいところでは、症状が悪魔憑きに酷似する病気として抗NMDA受容体抗体脳炎の可能性も指摘されている。

けれども、これらのなかでポルターガイスト現象の説明がつくものとなると絞られてくる。

神とは何?

現在の教皇フランシスコは先進的といわれる一方で悪魔の存在を認めており、悪魔に関する発言をメディアですることもある。
ここ数年で悪魔憑きとされるケースが激増した理由は不明だが、今の教皇がエクソシズムに積極的であることや、緊迫の度合いを増す
世界情勢から宗教をよりどころとする人が増えていることは考えられる。

『エクソシスト』を観終わって、神とは、宗教とは何だろうとふと考えた。
ローランド少年が想像を絶する苦痛のさなかにいた時、神父たちが命を賭して闘っていた時、神は何を思っていたのだろう、と俗物の筆者は考える。
「宗教は民衆の阿片である」と言ったのはマルクスだけれど、これは害悪という意味ではなく、鎮痛剤というニュアンスだそうだ。

けれど一方で、人類が創造した宗教は幾たびも戦争や紛争の種になってきた。有史以来、神が救った命より、神のために失われた命のほうがはるかに多いだろう。
にもかかわらず人間はなぜ宗教を心のよすがとするのだろうか。
これに唯一無二の完璧な正解を出せるのは、それこそ神だけかもしれない。


柊です。
世界の未解決事件やシリアルキラー、歴史のミステリーを追いかけています。

※画像はイメージです。

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