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不思議なおばあさんとの出会い

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引っ越し先の田舎で出会った不思議なおばあさんFさんの話。

目次

林間学校

7月の終わり頃、小学校の行事で県境にあるキャンプ場へ二泊三日の林間学校に行くことになった。
観光名所や娯楽施設に行くわけでもなく、ただ何もない場所へ行って、食事の支度まで自分達でやらなければならない行事を、私は心の底から面倒だと思っている。
クラスメイトの中には楽しみにしている子もいたが、半数は私と同じ気持ちだったようで、その証拠に多くの子が事前学習や計画を嫌々やっていたのだ。

そんな投げやりな生徒が多くとも当日を迎え、一日目は特に何事もなく終わった。
二日目は夕食後にキャンプファイヤーをやり、それなりに盛り上がった後に担任が言いだしたのは・・・
「これから肝試しをやるぞ」

クラスの全員がシラけた顔をし、「何言ってんだコイツ」と誰もが思っていた。
そんななかで、女子のKは顔が真っ青。
Kは暗い場所が大嫌いで、授業でテレビやスライドを見るためにカーテンを閉めて部屋を暗くするだけで涙目になるほどだ。
クラスメイトの大半が幼馴染であったため、そのことはクラスの全員が知っていた。

「行きたくありませーん」
お調子者の男子がそういうと、援護するように「めんどくさい」「ガキじゃあるまいし」「つまんない」と口々に騒ぎだす。
それでも担任は「まぁまぁいいじゃないか」と行く方向へと持って行こうとする。

担任の先生

この担任は4月から着任した教師でクラス全員から嫌われていた。近隣でも評判がすこぶる悪く、左遷でこの学校にやって来たに違い。田舎の小さな学校は「教師の墓場」と呼ばれ、何かと問題のある教員ばかりがやってくるのだそうだ。
田舎は教師ならば「先生」として崇め、クレームを入れることが少ないからというのが理由なのだとか。

実際、この担任はやたらと生徒の体に触れたり、差別的な発言をしたりしていた。
今回の肝試しもKが暗闇を苦手なことを知った上でやろうとしている。

クラス全員はKを守る意味でも「やりたくない」と言い、その姿勢を貫こうとしたが、担任は矢継ぎ早に上がる否定的な発言に怒り「文句を言うな!」と怒鳴った。
静まり返った広場でクラスの全員が担任を睨みつけた。
気に入らないことがあると怒鳴って力尽くでやり込める方法を、もう何度もやられていてウンザリしていた。

「いいから並べ!」
ダラダラと立ち上がり、班ごと整列する。子どもは大人に逆らうことなど許されないのだ。

肝試し

肝試しの説明がはじまった。
駐車場の先にある遊歩道を進み、記念碑の土台に班名を書いた紙を起き、戻って来るというものだった。
説明を聞いた後、Mが泣き出したため、付き添いの保健医が気が付いてやってきた。
保健医は担任に何か言ったが、担任は拒絶するように手を振り、保健医は呆れた様な表情をし、Mと共にどこかへ行ってしま

肝試しは想像通りにくだらないものだった。
暗がりにボロボロのくまのぬいぐるみが置いてあったり、木に血のり(おそらく赤の絵の具)が付いたシャツが掛かっていたり、ラジカセで流しているであろうすすり泣く声が聞こえたり。

道中「担任がお化け役で出てきたらどさくさに紛れてボコボコにしてやる」と男子が言っていたが、残念ながら叶わなかった。
ある意味地獄の肝試しは滞りなく終わり、施設に戻って入浴を済ませ就寝となった。

物音

部屋の照明は消したが、ベッドについていた小さい照明を点けて、声を潜めておしゃべりに興じていると「ドンドン」と壁を叩くような音がした。
隣りの部屋が騒いでいるのだろうと気にしなかったが、「ダンダン」と床を踏み鳴らすような音もしてきた。
それが何度も繰り返され「文句言いに行く?」と相談を始めると、ドアをノックする音と共に「隣りのFだけど」と声が聞こえた。
ドアの近くのベッドだった子が応対する。

「なに?」
「さっきから何してるの?うるさいんだけど!」
「はぁ?うるさいのはそっちの部屋でしょ。うちら何もしてないし!!」
どうやら隣りの部屋でも騒音が聞こえたらしい。
お互いに原因ではないとわかると、向かいの男子の部屋からでは?と睨んだ。

二つの部屋の女子が連立って、廊下を挟んで向かいの部屋のドアを叩く。
すると目を擦りながら、その部屋のリーダーである男子が出てきた。

「なんだよ」
「もしかして寝てた?」
「そうだよ。全員寝てるよ。なんだよ?」
「ごめん、ドタドタうるさかったからそっちで騒いでるかと思って」
「俺達じゃねーよ。隣りじゃねーの?」

会話を聞いている最中に、壁を叩くような音がした。
私の隣りにいた子と目が合い、彼女にも聞こえたようだった。
しかし、他の子は気付いていない。

他の女子が向こう隣りの部屋へ向かい、同じ質問をした。
その部屋の男子は「トランプやってただけで誰も騒いでいなかった」と言った。

「ウソでしょ! アンタ達じゃなかったら誰が騒いでんのさ!」
「ほんとだって! なぁ!」

部屋のメンバーに同意を取ると、全員が頷いていた。

いった誰が?

納得のいかない女子はそのまま男子を責め続け、騒ぎが大きくなると担任がやって来た。

「コラーもう消灯時間過ぎてるんだぞ!」
「だって先生、ドタバタうるさいんです!」
「だから俺達じゃねーってば!」
「わかったから! とりあえず部屋に戻りなさい!」

それから、担任はそれぞれの部屋を周って言い分を聞きながら、私達の部屋にやって来た。

「こっちの部屋でもドタバタした音が聞こえた?」
「聞こえました」
「けど、君達は騒いだりしたなかった?」
「はい。みんなベッドにいました」

担任は首を傾げた。
女子でドタバタと騒音が出るほど騒ぐ奴がいないことはわかっている。
男子に関してもの普段騒ぐ問題児は既に夢の中、他の生徒も嘘を言っているようには思えないようだった。

「先生、上の部屋じゃないですか?」
一人がそう訴えると、みんなが「そういえばそうかもしれない」と言い出した。

「いや、上の部屋は使ってない。今この施設を使ってるのはうちだけだから」
そう答えた瞬間、「ダンダンダン!!」と地響きがするほどの音が聞こえた。

隣りにいた女子が私に抱きついてきて、他の子も同じようにしがみつき合った。
そして全員が上を見ていた・・・その音は間違いなく上から聞こえたのだ。

「なに今の!」
「上からだった!」
「ヤダ! なんで! 怖い!」
みんなが口々にそう言うと、担任は「静かに! 落ち着きなさい!」
「施設の人に確認して来るから。とりあえず、もう部屋から出ないで寝なさい」
「寝られるわけないじゃん!」
「いいから! 寝てる子もいるんだから騒ぐんじゃない!」
そう告げてドアを閉めると、担任は行ってしまった。

残された私達は半分パニックになりながらも、ペアでベッドに眠ることにし、さらにベッドサイドの明かりを点けたままにすることを決めた。

治まらない

しばらくすると、再び「ドンドン!」と音が聞こえ、悲鳴が出そうになったのを口を押さえて堪える。
皆が同じように口を押さえて目を合わせた。
それからも何度か音が聞こえ続け、私は段々と頭痛がしてきた。
頭が重く、締め付けられるような痛みだ。
しかし、それを口にしたら怖がらせるだけだと思い、黙っていることにした。

音がする度に息を呑む声が聞こえたが、それも次第に寝息へと変わっていった。
私はウトウトするものの、狭いベッドに二人で寝てる寝苦しさと、思い出したかのように響く騒音に眠りを妨げられた。
頭痛は治まることなく、耳鳴りまで追加された。

眠れないせいだと自分に言い聞かせ、私は浅い眠りを繰り返していると、
『みなさん、おはようございます。6時になりました。朝の身支度をしましょう』
録音されているであろう声がスピーカーから聞こえた。

ほとんど眠れなかった私は起き上がるのもやっとだった。
頭痛も耳鳴りも治まっていない、最悪の状態で一日が始まった。

朝食時は昨晩のことで盛り上がっていた。
一人が担任の元へ行き、上の部屋に誰もいなかったことを確認すると「キャー!」という悲鳴が響いた。
しかし、明るい中でのそれはどこか楽しそうだが、こっちはそれどころではない。

朝食後の清掃時間、保健医が私に「大丈夫? 眠れなかった?」と声を掛けてきた。
よほど酷い顔をしていたのだろう。

私は「大丈夫です」と答え、掃除を続けた。
鎮痛剤をもらって飲んだところで、この頭痛が治まらないことをわかっていたからだ。
どうすればいいのかはわからず、私はただ苦痛に耐えるしかなかった。

帰り支度をし閉会式、それからバスに乗って学校へと帰った。
バスに乗る時も保健医に体調の確認をされたが「平気です」と答え、キャンプ場から離れれば痛みもなくなるかもしれないと期待した。

Fさん

学校に到着し、その期待は裏切られた。
下校時にいつも帰ってる友達から一緒に帰ろうと言われたが、楽しく会話などできる状態ではなかったので適当な理由をつけて断り、重い足取りで家へ向かう。

この状態で帰宅してもいいのかと思ったが、どうすればいいのかわからない。
このような嫌な目には何度か遭っていたが、ここまで体調不良が続いたことはなかった。

川辺を一人であるいて、分かれ道の所で誰かがいるのが見えた。
それは近所に住んでいるFさんで、待ち合わせでもしていたかのように、彼女は私に向けて手を振ったのだ。

「あらあら、あんたよく歩いて帰って来たねぇ」
そう言って私の背中に手を置いた。
「一人でよく頑張ったねぇ。辛かったろうに」
その言葉を聞いて私はボロボロと涙をこぼした。

人前で泣くことはほとんどなかったが、Fさんの前では意地を張ることなく素直になれ、泣き出した私の背中をさすりながら私が落ち着くまで待っていてくれた。

そしてひとしきり泣いた私に言った。
「そのままじゃ帰れないでしょうに。ウチに寄って来な」
「えっ……」
「なんもしやしないよ。ただ寄ってくだけでいい。そんなモンはそんくらいで十分だ」
「はぁ……」
「私の後ろをついといで。嫌になったらそのまま自分の家に帰ればいいさね。私は無理に連れて行ったりしないから」
そう言って彼女は歩き出した。

私はすぐに後を追った。
普通に考えたら、それほど親しくない大人について行くなど絶対にやってはいけないことだったが、その時はついて行かないという選択肢はなかった。

美しい庭

分かれ道を家とは逆方向へ進むと、軽自動車がなんとか一台通れるほどの細い道に入る。
こんな所に道があったことすら気が付かない程の道を進むと、竹林に差し掛かり、サラサラと笹の葉が風で揺れる音が心地良かった。

「ほれ、すぐそこだよ」
竹林を抜けると小さな生け垣があり、平屋と広い庭が見えた。
何も特別な物はない。よく見る田舎の一軒家だ。そこはとても澄んだ空気で、明らかに今までいた場所とは違う雰囲気がしている。

「庭から入んな。縁側に座って待ってなね」
敷地内に入った途端、体が軽くなり、頭痛も耳鳴りもかなり治まってきていた。

縁側に腰掛けて庭を見渡すと、植え込みに雑草は生えていないし、枝葉はきちんと整えられ、子どもながらにとても手入れが行き届いていることがわかる。
花の盛りの時期はきっと色とりどりの花で埋め尽くされるのだろうなぁと思った。

「なんか珍しいもんでもあったか?」
そう言いながらFさんがお茶とお茶菓子を持ってきてくれた。
「いや、あの……キレイな庭だなぁって思って」
「なんだそりゃ。あんた小学生なのに庭木が好きなのかい」
「そういうわけじゃないけど、ここはなんか、すごくいいなぁって思って」
「そりゃ庭がいいんじゃないよ。場所がいいのさ。ほれ食べな」

差し出されたのは豆大福とお茶だった。お茶の中に何か入っている。
「昆布茶に焼いた梅干し入れた。こういうときはコレが効くんだわ」
「いただきます」
塩気と酸味のきいたお茶はとてもおいしかった。豆大福もいただいた。
朝食は頭痛のせいで、あまり食べられなかったのでお腹が空いていたのだ。

そんなモン憑けて

「ほいで何した、そんなモン憑けて」

私は林間学校での出来事を話すると
「具合悪くなったのはあんただけ?」
「そうです。たぶんだけど」
「ならたまたま見つかって憑いて来られたんだな」
「見つかって?」
「何もしてなくても憑くことはあんだよ。あんたはそういう力があるって向こうが気付いたんだな。そんで、悪戯してやろうってなったんだろうね」

なんとも迷惑な話だ・・・貧乏クジを引き当ててしまったと思っていると、トントンと音がした。
何の音だろうかと思っていると、今度ははっきりと「ドンドン!」昨晩と同じあの音が聞こえる。
驚きながらどこからだろうと探そうとすると、目の前のFさんが手を伸ばし私の耳を塞ぎ、そして、目を合わせて首を振った。

しばらくそのままでいると「もう大丈夫だ」と言って手を離した。
「話したから出てきたんだ。けどもういないよ」
「そうなの?」
「ああいうのは気付かないフリがいいんだ。反応すると面白がってくんだよ」
「もしまた出たらその時も無視すればいいの?」
「そうそう。怖がるのが一番ダメ。どっしり構えてりゃあいつらなんもできねーから。よく食べてよく寝て健康なのがいい。どっか悪いとそこにつけ込んでくんだよ」
「へー」
「肝試しなんて悪ふざけもダメだ。お化け屋敷みたいなとこならまだいいが、やれ墓場だの事故現場だのに怖いモノ見たさで行ったらエラい目に遭うぞ」
「じゃあ私も肝試ししたから憑かれたの?」
「あー違う違う。あんたらただ夜道歩いただけだろ? そんなんで憑いたりは滅多しねーから。たぶん、泊まったとこにいたんだろーな」

完全にとばっちりに遭ったということだ。
私は顔をしかめながらお茶をすすった。
「先生が肝試しやるって言って、嫌がる子がいんのに無理さそうとしたからみんな腹立ててただろ?怒りとか怨みみたいな気持ちがあると余計に悪いモンが引き寄せられんだよ」

だったら私でなく担任に憑けばよかったのにと思ったが、口には出さなかった。
「まぁ大事にならねーでよかったな。またなんかあったらここ来な」
Fさんはカラカラと笑いながらお茶を飲んだ。

なぜ?

私は気になっていたことを訊ねた。

「どうして分かれ道のところにいたんですか?」
「なんでだろうな?昔からなんか良くねーもんが来そうだとわかんだよ」
「えーすごい!」
「すごかないよ。ハズレることだってあるしな。まぁハズレた方がいいんだけど」

同級生がFさんを巫女さんだと言っていたことを思い出したが、あまりあれこれ訊くのは失礼だと思い、それ以上は質問しなかった。

お茶とお菓子をご馳走になった後、私は帰ることにした。
Fさんが出口まで送ってくれた。
「今日風呂入るとき、ちょっとお湯に塩入れな。もう平気だろうけど、おまじないみたいなモンだと思ってやっときな」
「わかりました。ありがとうございました!」
「気を付けて帰んな」
私は足取り軽く帰路についた。
Fさんの家の庭はなんとも言えない心地良さがあった。そこにいるだけで、活力が湧いて身を洗われるような気分になれた。

それから

その後、Fさんとは何度か顔を合わせることはあったものの、今回のようにお世話になることはなかった。
そして私は中学に上がると同時に父親が転勤になり、この田舎から出て行った。

あれから一度もその田舎には行ったことはない。
当然Fさんにも会っていないし、引越しをする前に会ったときは学校帰りで、いつも通りに挨拶だけ交した。
最後にきちんとお礼を伝えてから去れなかったのが唯一の心残りだ。

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