2020年9月15日、ドイツ国防省は2017年から開始していた現行のH&K G36を更新する新型アサルト・ライフルについて、一旦ヘーネル・ディフェンス社製のMK556を採用すると発表した。このドイツ軍の新型アサルト・ライフル選定については、現行のG36を擁するH&K社が提示していたH&K 433が大本命と目されていたこともあり、この結果には驚きの声が多数を占めた。
しかし10月9日にはドイツ国防省は一旦下したヘーネル・ディフェンスMK556の採用を取り下げ、参加各社つまりH&K 433かヘーネル・ディフェンスMK556かを再検討すると表明した。これには9月15日のMK556への決定を受けたH&K社が異議申し立てをした事が功を奏した模様で、ヘーネル・ディフェンス社がH&K社の特許に抵触している可能性を認めたものと言われている。
今後の流れ如何によってはH&K 433が逆転採用となるのか、再検討の結果、ヘーネル・ディフェンスMK556の疑いが払拭されてそのまま正式採用に至るのか・・・まだまだ予断を許さない。
元々は本命と見做されていたH&K433
H&K433は2017年開始のドイツ国防省の新型アサルト・ライフル選定に向け、1964年のG3以降、現行のG36まで半世紀以上渡ってドイツ連邦軍の採用小銃の座を守り続けてきた同社が提示したものだ。現行のG36同様にH&K 433は5.56×45mmNATO弾を使用し、排莢口を除き左右両方の利き腕に対応した設計がなされており、11インチから20インチまでの6種類の銃身に取り替えが可能である。
H&K 433は作動方式もG36同様のガス圧利用式のショートストロークピストン方式を採用しており、元々アメリカのM4カービンを改良した416も選定に提示しており、操作性には共通点が多い。
G36では本体機関部にも採用されていたプラスティック強化樹脂製はH&K 433では廃止され、従来のアルミニウムやスチール製の素材の使用に戻し、耐久性や堅牢さを追求している。銃床部分は標準が折りたたみ式のもので構成されており、長さを6段階、上下を3段階に調節でき、M-16・AR15系の弾倉をそのまま使用出来るなど既存火器との互換性も高い。
H&K433の仕様
口径:5.56×45 mm
作動方式:ガス圧利用ショートストロークピストン方式
装弾数:30 発
全長:577~843 mm
重量:3,250~3,650g
一旦はドイツ連邦軍に採用が告げられたヘーネル・ディフェンスMK556
ヘーネル・ディフェンスMK556は一度はドイツ国防省からH&K G36を更新する新型アサルト・ライフルとして採用を勝ち得たものの、再検討を宣告されるという希有な経歴を刻んだ小銃だ。MK556は基本の構成をM-16・AR-15系のアサルト・ライフルから受け継いでいるため、操作系のほとんどがそれらと同様なこともあり、外観も非常に酷似したデザインをしている。
そうした意味においてはMK556のアサルト・ライフルとしての機能や完成度には疑いの余地は無いものの、ヘーネル・ディフェンス社とH&K社のこれまでの採用実績の差からほぼ勝ち目は無いと見做されていた。
MK556の銃身は10.5インチ、12.5インチ、14.5インチ、16インチの4種類に取り替えが可能であり、折りたたみ式の銃床やその調整もH&K 433と同様に6段階で行う事ができる。加えて100発装弾数を持つドラムマガジンも設定されており、これを装着する事で従来の分隊支援火器のように軽機関銃的な運用も可能となっている。
ヘーネル・ディフェンス社は元はドイツチューリンゲン州の銃器製造企業であり、第二次世界大戦時には量産型アサルト・ライフルの元祖であるStg44を生産した事でも知られている。
しかし現在はアラブ首長国連邦のカラカル社が親会社となっており、純然たる地元ドイツの銃器製造会社と考えることは出来ないと言えるだろう。
ヘーネル・ディフェンスMK556の仕様
口径:5.56×45 mm
作動方式:ガス圧利用ショートストロークピストン方式
装弾数:30 発
全長:696~923mm
重量:3,350~3,600g
今後の争点は特許侵害?
2020年9月15日にドイツ国防省が新型アサルト・ライフルにヘーネル・ディフェンスMK556の採用を発表したものの、H&K社はこれを不服として9月30日に連邦カルテル庁に異議申し立てを行った。これを受けてヘーネル・ディフェンス社はH&K社の特許を侵害している可能性があると判断され、一旦下された決定が取り消され、同時に両社の提案内容の見直しが10月9日に発表された。
そもそもH&K社は今回ヘーネル・ディフェンス社が、総数12万丁を2億4,500万ユーロ(約325億円)で落札したことも不当廉売と見做しており、自社と5,000万ユーロ(約65億円)の差があると見ている。
調達額は安価な方が好都合なドイツ政府にとって、この不当廉売と言う主張が有効なのかは明らかではないが、H&K社の持つ特許の侵害について今後正式な判断が下されると思われる。
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