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小さな罪を知った日

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平成に入って間もない頃、僕は近所の友達と遊ぶのが、なによりも好きなわんぱくな少年だった。
住んでいた地域は自然に恵まれ、夏になれば蝉時雨が体を震わす程に騒がしくなるぐらい。
この季節となれば、幼馴染の友達と近くの山に虫取りに出掛け、汗だくになって虫を探す毎日を過ごしていた。

その日、僕らはいつもより少し山奥、農道から外れた先の広い草原に辿り着いた。
そこで珍しそうな虫を探していると、友人の一人が唐突に皆を呼んだ・・・それが、皆が共犯者となった瞬間だったのだろう。

目次

時は流れて

時は流れて中学3年の夏、進路の事を意識せざるを得なくなる頃。
僕は溶けかかったアイスを咥えながら、家のリビングで勉強をしていた。だがしかし、教材をテーブルに広げ始めてから早3時間、僕の集中力の糸は切れかかる寸前まで来ていた。

キリよくあと2ページで、午前の部を終わらせようかと思っていた頃、LINEの通知音が控え目に鳴った。
幼なじみの友人Mからで、同じ学校に通う遊ぶことが大好きな奴。案の定、今回のLINEも、久々に仲の良い友達皆で花火と肝試しをしようと言う彼らしい誘いだった。
丁度気分転換がしたかった僕、肯定の返信をして残りのページを手早く片付けた。

その日の夜

その日の夜、顔なじみの友人が集まり、わいわいとロケット花火を打ち上げたり、持ち寄ったお菓子を食べたりして皆で楽しんだ。
そして、いよいよ始まった肝試し・・・と言っても皆で寄り集まって、暗い森の中にある古寺近くを散策するだけのもの。それでも久々に集まったメンバーで共有するイベントは楽しい。

僕たちは古寺を回り、とある場所に近付くと、ふと脳裏に昔見た光景がフラシュバックした。

皆を呼ぶ友人の手に握られていたのは、きれいで大きなアゲハチョウだが・・・彼は誤って殺してしまった。
それを観た僕らは、死んだ虫には興味がないとばかりに、亡骸を弔いもせずに汚いと投げ捨てた。
僕も含めて皆がその命を、軽んじてしまったのだ。

気がつくと

気が付くと僕は足を止め、唐突に溢れ出た涙を手で拭っていた。
すぐに心配そうに集まってくれた皆に僕は何でもないと言い、目線を上げるとその先の草原に優雅に飛び回る一羽のチヨウがいて、光源が当たっていないのに視認できる程に光っている。

ぼんやりとなにかを見つめる僕を不思議に思ったのか、皆の視線が草原に向けられると、皆にもチョウが見えているようだ。
そして、そこにいた全員が思い出した、あの時のチョウを・・・・僕たちのせいで死なせてしまったあの命を。

レクイエム

瞬間、一斉に激しい耳鳴りと耳が詰まるような感覚に襲われ、僕は確かに聞いた。悲しそうに「どうして」と・・・脳内に響く感じの声を。
そして誰からともなく、ごめんなさいと言いはじめ、僕も「死なせてしまってごめんなさい」とつぶやくと、何事も無かったように不快な感覚は消えた。

後で皆と話したのだけれど、皆もあの悲しげな声を聞いたそうだ。
その翌日、集まって一人一人が用意した花とジュースをその場所に捧げて小さな命を弔ったのだった。

※画像はイメージです。

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