土地に伝わる不気味な伝承。人と人を渡り歩いて、広範囲に伝わる都市伝説。そして、インターネットと言う広い海を漂いながら、さらに広い世界に伝わっていく怪異たち。
昔から人々が愛好するように、怪異譚には不思議な魅力があります。怖くて目を逸らしたいのに、どうしても読み、想像してしまう物語たち。昔は口承に限られたそうしたものたちを、現在はネットを介して読むことができます。
今回は、そうした怪異譚の中でも不気味な存在感を放つ「ヒサルキ」という怪異を解説していきます。
怪異「ヒサルキ」とは
「ヒサルキ」という存在が語られるようになったのは、インターネットの掲示板でのこと。実在しているかどうかは定かではないものの、その目撃談や体験談の多さから、一定のリアリティを有しています。
ヒサルキの主な特徴を挙げると、動物を殺して回ること(尖ったものに突き刺された死体が目撃されることが多い)と山に住む何かだということ。また、猿の見た目を取ることが多く、人間や動物に憑依することが多いとされています。猿の見た目をした、得体のしれない存在。「もののけ姫」に登場する猩々を彷彿とさせ、身の毛がよだつような不気味さを放っています。
ヒサルキには、類話と考えられる物語群が多いことも特徴の一つです。ヒサルキと銘打っていなくとも、同じ存在がもたらしたであろう怪異をまとめて、「ヒサルキの体験談」と考えるのが良いでしょう。
「ヒサルキ」に類する代表的なエピソード
ここではヒサルキに関わるエピソードの、代表的なものをご紹介していきます。不気味で恐ろしい話ばかりのため、読む際にはご注意ください。
娘が連れていかれそうになった話
この話は、2ちゃんねるに投稿された話の一つです。ヒサルキが関わる話の中でもぞわぞわするような雰囲気を持ち、トラウマになってしまいかねないエピソードです。以下で、おおまかにご紹介していきます。
『とある街で、普通のサラリーマン家庭で起こったこと。
語り手である「俺」は、普通のサラリーマンとして生活していました。ある日、一家は「俺」の実家に泊りがけで行くことになりました。そこは自然あふれる田舎で、それ以外には何もない所でした。
「俺」一家が実家に泊まり2日がたった頃、犬の散歩に出かけた娘がいなくなるという事件が起きました。地元の皆で探しまわった所、森の入り口付近で、娘だけが見つかりました。
「俺」と妻が娘に当時の状況を尋ねると、娘はこう答えました。「犬は猿が連れて行って、私(娘」は犬と猿と一緒に遊んでいた)
その答えに反応したのは、「俺」の父です(娘から見ると祖父)。祖父が娘に見たものの見た目や泣き声などを尋ねた結果、ある人を呼ぶことになりました。どうやら、娘に何が起こったのか、ある程度理解しているようです。
祖父が読んだ人は、地元の霊能者でした。霊能者は娘の髪を切り、万が一のための身代わりを立てるように「俺」に言います。娘の身代わりとなったのは、「俺」の妻でした。
霊能者のお祓いのような作業が始まります。娘は寝続けており、初めのうちは何も変化がありませんでした。しかし、深夜を超えたあたりから異変が起こります。家の周りで不気味な鳴き声が聞こえ始めたのです。しまいには、ドンドンと壁や窓に何かが当たる音も聞こえてきます。
妻は、不気味な唸り声を発し始めました。さらに外からは、まるで赤ちゃんのような声で「開けて……」という声が聞こえます。声が止むまで、「俺」は耐え続けました。
夜が明けて一難すぎると、「俺」は霊能者にあることを言われます。彼の娘が目を付けられたものは執念深い存在だということ。そして、これから先、この土地や山の奥深くに入ってはいけないということ。また、「それ」は山に住み、生き物に取り憑く存在だとも教えてもらいました。
「それ」は土地神の一種であり、富をもたらす一面があるものの残虐で、ヒサルキという怪異に似ていました。招かれない限りは家に入ることはできませんが、もし、招き入れたとすればどうなるかはわかりません。
今の所娘は無事ですが、「俺」は、深い山に娘を行かせないように注意しています』
山は魅力的なもの・・・しかしその奥には、こんな怪異が眠っているかもしれないのです。
「キヒサル」
「キヒサル」は、ヒサルキの類話とも言える怪異譚です。名前だけではなく、ヒサルキと似たような特徴を持ちます。
『キヒサルは山に住まう「なにものか」であり、鉄のような臭い(つまり血の臭い)を放ち、猿の体を乗っ取ることが多いと言われています。キヒサルに乗っ取られた猿は共食いをするようになります。その食欲は異常なほどで、山にいる猿の数が大きく減るといわれています。
人間たちがキヒサルの発生に気が付くのは、被害がかなり大きくなってから。猟師たちは、山に放置された大量の猿の死骸を見て、異変を知るのです。
銃や罠はキヒサルの駆除に使うことはできません。キヒサルは銃で撃たれてもなかなか死なず、罠にかかったとしても宿主(ヌシ)の体を残して逃げ去ってしまいます。残された宿主の体からは、中身が無くなっていると言います。
もし、本当にキヒサルを駆除しようとするならば、キヒサルを宿主ごと燃やすしかありません。キヒサルの嫌がる金属の音で山頂に追い込み、油を染み込ませた布をかぶせて燃やすのです。
キヒサルには、大きく分けて2つの禁忌があります。それを以下に挙げました。
- キヒサルに触れてはいけない
- キヒサルの宿主の目を見てはいけない(目がつぶれるから)
キヒサルに触れた後の話はなく、キヒサルに触れてはいけない理由は不明です』
キヒサルの不気味さは、存在そのものが「よくわからない」という点にあります。発祥も不明、正体も不明、禁忌の理由も不明。それでいて、どことなく病気を連想させ、不安感が募ります。
大昔から伝わる山の伝承を紐解けば、キヒサルに関わる何かを発見できるかもしれません。
山にまつわる怪異・・・・
山にまつわる怪異、キヒサル。その概要と有名なエピソードをご紹介してきました。
山は美しい場所でありながら、暗く恐ろしい一面を持っています。そしてその奥底には、どんな存在が潜んでいるのかわかりません。ヒサルキも、そんな存在の中の一つ。
奥深い山に行くとき、そして、モズのはやにえのようなものを見たときは注意しましょう。すぐそこに、ヒサルキがいるかもしれません。
※画像はイメージです。
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