まず最初にケースレス弾薬とは、薬莢を用いない銃弾薬の事を指す言葉です。
さて、何故に薬莢を用いらない銃弾薬が必要となったのか?
それは第二次世界大戦後の冷戦下での銃器開発の歴史から常に存在していた問題でした。
銃の性質上、薬莢は必要不可欠な構造でありながらも、銃を撃つ兵士にとっては、薬莢とは非常に迷惑なものだったのです。
例えば・・・銃を撃てば、弾丸が排出された薬莢が地面へと排出され、それが機関銃になれば、無数の薬莢が地面に落ちてしまいます。
うっかりとその薬莢を踏んでしまえば・・・当然に転んでしまいます。
間抜けな話ですが、実際に薬莢で足を滑らし転倒した兵士の話は多々あり、また銃撃時に排出された薬莢が眼球に当たってしまい、失明してしまった話もあります。
はたまた火傷をしてしまったなどの問題も多々あり、薬莢の出ない銃が出来ればと、そんな要求が出て、薬莢を必要としない銃の開発へと進んでいきました。
ケースレス銃の開発プロジェクト
プロジェクトは西ドイツからH&K社へと依頼され、1974年にプロトタイプが完成し、薬莢を使用しない弾薬の開発が進んでいきました。
その研究に携わったのが、かの有名なダイナマイト・ノーベル社。
様々な弾薬の試行錯誤が続き、10年の試行錯誤を重ね、ついに4.73×33mmのケースレス弾を開発し、1983年に人類史初のケースレス自動小銃であるG11が完成しました。
薬莢を用いない、次世代の戦場で華々しく活躍する、人類史初のケースレス銃となる筈のG11ですが・・・活躍する事はありませんでした。
4.73×33mmのケースレス弾
まず、4.73×33mmのケースレス弾は、非常にもろい弾薬だったのです。
薬莢を使わずに、四角柱状の火薬を固め形成した弾薬ゆえに、ちょっとした衝撃でも崩れてしまう虚弱な弾丸で、手でのマガジンの装填は不可能と、それまでの銃とはまるで勝手が違う非常にデリケートな装填が必要となってしまっていたのです。
従来のバナナ型のマガジン弾倉とは違い、衝撃にも強い長方形の箱型弾倉ことシングルカラム式が採用され、専用の装弾ツールを使用しないと装填もままならないと、非常に使い勝手が悪くなってしまいました。
でも問題はそれだけではありません
G11の装弾数は45発から50発と、それまでのアサルトライフルに比べては装弾数が多いかもしれませんが、それがこの銃の使い悪さをさらに悪化させてしまったのです。
考えてみてください。
長すぎる箱型弾倉を予備弾倉として装着している自分の姿を。
非常に邪魔でしかありません。
実際に体験したい人は、中型の鉄パイプを腰に下げてみてください。
その恰好で飛んだり跳ねたり、地面に伏せて這いずったりしたら……非常に動きづらいです。
また弾倉自体にも衝撃を与えてはいけない為に、動きにも気を使わなければいけないと、兵隊が使うモノとしては、本末転倒になってしまったのです。
また最大の問題もあったのです
それは……このG11は非常に熱に弱い銃火器だったのです。
火薬を扱い銃にも関わらず熱に弱いと、銃にとっては致命的な欠陥。
でもそれはケースレス銃として開発された時点で、避けられない運命だったのです。
本来薬莢により、銃本体の射撃熱による負荷が軽減され、また薬莢によって環境による様々な衝撃や湿気などから弾薬は保護されていたのですが、その薬莢を排してしまったが為に、銃本体にかかる負担が倍増してしまい、射撃時による放熱の負荷が従来の銃器よりも段違いだった為に、G11は大変に危険極まりない代物と化してしまったのです。
つまり銃本体に十分な放熱がされないが故に、本来G11が持つ湿気や熱対策では追いつかず、使用すれば異常に熱がこもってしまう為、銃内部の装填したケースレス弾薬が暴発してしまうと、時限爆弾を抱えて射撃する様なものだったのです。
そしてなにより
この銃は撃つまでに時間がかかりすぎてしまう、火縄銃こと種子島なみに装填に時間がかかる銃器だったのです。
マガジンを装填した際に、薬室に弾を送る作業を手動で行わなければいけないが為に、銃器本体のダイヤルを回し、薬室に装填する作業を手動で行わなければいけないと、非常に使い勝手の悪さなど、現場の兵士からは不良品の太鼓判を押されてしまいました。
またG11はそれまでの銃火器の従来の構造とは違い、それまでの銃器の製造や、使用方法の問題などで、非常に量産性と生産性の悪い銃火器でもありました。
その為に生産と配備にコストも高く、ケースレス弾にしては一発5万円と、予算食いの銃として扱われてしまいます。
結果として
戦場で使用されないまま、試験運用だけの銃器として歴史に名前を遺す事となります。
マニアではそれなりに珍品扱いも受けてしまい、珍銃として世に出回ってしまったG11。
現在においてもケースレス銃の開発は進んでおらず、アサルトライフルで唯一にケースレス銃として開発され、そのまま冷戦終結の歴史の中に埋もれ、薬莢を使用しない銃を開発する夢の具現化をした、最初で最後の銃火器。
再び世にその姿を現す事は二度とないでしょうね・・・
icon image: 作者 Jan Wellen (投稿者自身による作品) [CC BY-SA 3.0], ウィキメディア・コモンズ経由で
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