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不思議なお婆さんの正体

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引っ越し先の田舎で出会ったおばあさんは不思議な人だった。
それを確証する話を、あの時に友達から聞いた。

目次

二年間だけ田舎のぐらし

父の転勤で二年間だけ田舎に住んでいたときの話。

二学期が始まった、方向が一緒の数人の友達との帰り道、川に沿って道を歩いている。一人が「あっ!ホラ婆がいる!」と言うと、川の向こう側に歩いているおばあさんがいた。
私は夏休み中に一度だけその人に会って、話をしたことがあった。

「あの人、ホラさんていうの?」
「ちげーよ! 嘘つきのこと『ホラ吹き』って言うだろ。だから、あのババアはホラ婆って呼んでんだよ」
「嘘つきなの?」
「そうだよ! すぐ『取り憑かれてる』だの『悪霊が見える』だの言ってんだぜ。ボケてんだよあのババア」

ホラ婆

私が話をしたときは、その様な印象はまったくなかった。
ボケているどころか、普通のお婆ちゃんよりはしっかりしていると感じたくらいだった。

「あっでもヨウちゃんは好きなんだよな、ホラ婆!」
「好きじゃねーよ!でもあの人はホラなんて吹いてねーってば!」
「ほらほらぁ!」

男子二人がじゃれ合うのを放って、ホラ婆と呼ばれる人を見た。
これだけ大きな声なら向こうに聞こえていそうだったが、彼女は立ち止まることもなくさっさと歩いて行ってしまった。

分かれ道で友達たちと別れ、私はヨウちゃんと二人だけになった。

「ねぇ、ヨウちゃんはなんでさっきの人嘘つきじゃないって言ったの?」
「俺とシンはあの人に助けてもらったから」

シンというのはヨウちゃんと一番仲のいい男の子、家は逆方向なので登下校は別々だが、二人は学校ではいつもつるんでいた。

「助けてもらったってどういうこと?」

ヨウちゃんの話

ヨウちゃんは話し始めた。

シンと一緒にヤブ山で虫獲ってたんだけど、いつの間にかはぐれて、俺は一人になってた。
もうすぐ暗くなるから帰ろうとして山の入口に戻ろうとしたら、シンが座り込んで何かやってたんだよ。

「何やってんの? 殿様バッタでもいた?」
って話しかけたけど、全然気付いてなくて、後ろからのぞき込んだら手で穴掘ってた。
「見つけなきゃ。どこにあるの?どこなの?」ってずっとブツブツ言って、ガリガリ穴掘っててさ。

何回も「シン!」って呼んだのに、無視された。
肩を揺すっても、腕引っ張っても全然動かなかった。

俺、シンがおかしくなったと思って怖くなってさ。
どうすればいいかわかんなくなっているとき、道路を通る人が見えた。
だから「助けてください!」って叫んだら、その人が来てくれた。
それがホラ婆って呼ばれてる、フクダさんだったんだよ。

フクダさん

フクダさんはシンを見て、俺に「何した?」って訊いてきた。
俺は「知らない! はぐれて虫獲りして戻って来たらこうなってた」って言ったら、シンの虫籠開けてさ。
中にはバッタくらいしかいなかったけど、全部逃してた。

それから線香焚いて、シンの背中をバンバン叩き出した。
左肩からグルッと一周叩いて、最後に真ん中をバンって叩いたら、シンがピタっと止まって穴掘るのやめた。

「えっ! なに、誰?」
「シン! 大丈夫?」
「もう大丈夫だよ。ほれ、立てっか?」

シンの腕をフクダさんが持って立ち上がらせたら、シンはきょとんとしてた。

「坊主、お地蔵さん倒さなかったか?」
「倒してねーよ!」
「シンどこ行ってたんだよ!いきなりいなくなっただろ!」
「わからん。バッタ獲ってて、そこから覚えてない。って俺の手なに!?痛いし!」
「ずっと穴掘ってたんだよお前!」

フクダさんは周りの草をかき分けて、何か探してた。
シンが虫籠のフタが空いてるのに気付いて、俺に文句を言い始めたところで、フクダさんがしゃがみ込んだ。
俺が近付くと「あんま寄らない方がいい」と言って止められた。
フクダさんの前には割れた小さい石の柱みたいなのがあった。

「あれなに?」
「んーウチではサカイさんって呼んでる。いろんなモンの境目に建てとくもんだ。これが壊れてたからあの坊主が憑かれたんだな」
「シンあれ壊した?」
「壊してねーよ! バッタ獲るときに見たけど、そんときにはもう割れてた」
「そりゃ呼ばれたんだな。運が悪かったんだよ」

フクダさんはそう言うと、石の欠片を寄せ集めて何か言いながら地面に丸を描いた。

「後で直しに来るから触ったらダメだからな。あと、山で虫獲りすんなら午前中にしとけ」
「なんで?」
「夕方近くなるとさっきみたいなことになるからだよ。山は危ないってお母さん達に言われてないのか?」
「暗くなる前に下りろって言われてるけど」
「そうだろ。だったらちゃんと約束守れ。ほれ、帰るぞ」

俺達はフクダさんの後に続いて山を出て、それから家に帰った。

ホラ婆の正体

話し終わると、ヨウちゃんはうつむいて黙り込んでしまった。
私は「そのあとシンくんは何もなかったの?」と尋ねると。

「うん。別に何も言ってなかった。変になってた間のことも覚えてなかったみたいだし。けど、手が土まみれで爪も割れてたから俺の話は信じてたよ」
「そうなんだ。フクダさんって何してる人なの?」
「うちのばあちゃんが『あの人は巫女さんだ』って言ってた」
「巫女って神社にいる人?」
「うん。でもここには神社はないんだよ。あるのはお寺だけ」
「じゃあ巫女はおかしくない?」
「俺もよくわかんない」

ちょうどヨウちゃんの家の前に着いたので、そのまま別れた。

「ホラ婆」もとい「フクダさん」はいったい何者なのか、そのときはまだわからなかった。
しかし、ヨウちゃんの話と夏休みに出会ったときのことを考えると、彼女は何かしらの力のある人なんだろうと思った。
また話す機会があればいいなと思いながら、私も帰宅したのでした。

※画像はイメージです。

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