催眠術をかけた相手が自殺したら殺人罪?~あるアマチュア催眠術師の結末~

他者の思想や行動規範を操作する技術に洗脳やマインドコントロールがある。これらに絡んだ忌まわしい事件も実際に起きている。
では洗脳やマインドコントロールと似て非なる催眠術を悪用して、自分の手を汚さずに人を死に至らしめることは可能なのか。

もしそのような事件が起きたら、術師は罪に問えるのだろうか?

教師がかけた催眠術で生徒が次々と死亡

2011年、フロリダ州のノースポート・ハイスクールで、生徒3名が死亡する事件が起きた。
彼らに共通していたのは、校長先生に催眠術をかけられていたこと。ジョージ・ケニー校長は、「ストレスを軽くしてあげよう」「能力が向上するぞ」などと言って生徒や職員に催眠術を施すのが大好きな先生だった。この困った催眠術おじさんのことは教育委員会もマークしており、再三にわたって注意してきたのだが、どうやら懲りない人だったらしい。

もちろんケニー校長は催眠療法を行う資格をもたないただの素人。にもかかわらず自己催眠のやり方までレクチャーしていたというから迷惑な話だ。そんなケニー校長の催眠術につきあわされた人々は70名以上。事件の翌年には教職を辞しているが、生徒の死は催眠術の影響によるものとみた保護者が声を上げ、警察も捜査にのりだした。

催眠法と洗脳とマインドコントロール

ざっくり言えば、催眠法も洗脳もマインドコントロールも「人の心を操る技術」という点においては変わらない。けれども、三者には明らかに違いがある。
催眠法は、ひと言で言うと相手が暗示にかかりやすい催眠状態に落とす方法。術師の腕も肝心だけれど、なにより被験者の気持ちしだいで暗示のかかり方が左右されるといわれる。催眠術をかけてほしいという意思がないとかからないというのは本当だろうか。
強制的に思想や行動規範をリセットする洗脳や、知らず知らずのうちにマインドを操作されるマインドコントロールのほうが、より人間支配に特化していることになる。

催眠術のかかり方には個人差があるとよくいうが、では「かかりやすい人」にはどこまで強い暗示がかかるのだろう。人間の無意識のブレーキはどこまで仕事をしてくれるのか。
死亡した3人のうち2人は自殺、1人は交通事故死だった。交通事故で亡くなった男子生徒は、ケニー校長が指導した自己催眠を行ったあとに事故にあっている。催眠術による何らかの悪影響があったとして、保護者らが校長の責任を追及するのは至極当然のように思える。

北九州監禁殺人事件では、主犯の男は自分の手を汚さずに、他者の心を操作して殺害を実行させた。彼に死刑の判決が下されたということは、洗脳・マインドコントロールと殺害行為の因果関係が認められたと解釈できる。
ところが、ケニー校長の催眠術騒動は意外な形で解決を迎えたのだ。

催眠術おじさんの罪状は?

検察の調査では、ケニー被告の催眠術と3名の死因に因果関係は確認されなかった。そのため被告は罪に問われることはなく、言い渡されたのは1年間の保護観察処分のみ。以後は催眠術を行わないと宣言させて、罪状を争わないことで決着した。3名の遺族に対しては、ケニー被告からではなく教育委員会から20万ドル(約2400万円)の弔慰金が支払われたという。

現在、ノースカロライナで悠々自適の余生を送るジョージ・ケニー元被告。催眠術は封印すると誓ったものの、人間の性分がそう簡単に変われば苦労はない。近所の子どもたちにこっそりと自慢の術を披露してはいないだろうか。
赤の他人の筆者でさえ釈然としない幕引きなのだから、わが子を失った遺族たちの心中は察するにあまりある。

※画像はイメージです。

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