人違いで殺された?平成の怪事件「井の頭公園バラバラ殺人事件」に潜むミステリー

さまざまな犯人像や仮説が浮かんでは消えていった平成の怪事件。

「彼」はバラバラ殺人のセオリーをあざ笑うかのよう、関節部を無視してバラバラにされていた。
まるで定規で測ったように同一寸法に切り分け、厳重に梱包され、公園のゴミ箱に捨てられた。
その数、27ブロック。その動機、不明。

いったいこの事件はなんだったのか。犯人の正体は何者で、何が目的だったのか?
「井の頭公園バラバラ殺人事件」に潜むミステリーを解説します。

なぜ捜査は暗礁に

事件が迷宮入りすると、警察の初動捜査は非難の的になりやすい。以前、ある刑事がこう話したことがある。
「捜査の評価はマルかバツかの二つに一つ。犯人にたどり着けなければ無能呼ばわりされてもしかたない。逮捕には至らなかったが、なかなか健闘したじゃないか、なんてのはない」

被害者のKさんは35歳の一級建築士。警察は当初、セオリーにしたがって彼の妻をマークした。早い段階で夫の捜索願を出していた妻。
「バラバラ殺人は身近な人物による犯行の可能性が高い」というのは統計が示す事実であり、犯人と被害者が面識者というケースは8割を超える。もっとも、これは犯人がわかっている「解決した事件」のみのデータのはずだから、正確な全体像ではないけれど。

警察が犯人像を「近しい人物」と見立てたのは、Kさんの指紋や掌紋が周到に削り取られていたことも理由だった。つまり、遺体の身元が割れ、そこから足がつくことを犯人は恐れたわけだ。

ところがここで警察は最初の謎に突き当たる。温厚な性格で人間関係のトラブルとは無縁のKさんには殺害される理由がまったくなかった。かといって、遺体を細かく切断したうえに指紋を削り、血抜きまでするという徹底した隠蔽工作が施されていることを考えれば、場当たり的な犯行とも思えない。被害者周辺の人物がすべてシロなら打つ手なし。そういう厳しい状況だったのだろう。

さらに捜査を攪乱したのは第二の謎だった。それは一般市民から相次いで寄せられた、Kさんによく似た男性を見たという情報提供である。

刑事の捜査のイメージ

21年目の新証言

ここに興味深い証言がある。証言者の名前を仮にN氏としておく。ライターの猪俣進次郎氏の取材によって明らかになったものだ。
「あの事件はテレビで知った。わたしが事務所代わりに使ってた家の近所がテレビに映ってて……。被害者の方の映像を見た時は背筋が凍る思いがしたよ。そして確信しました。ああ、この人はわたしと間違えられて殺されたんだ、と」

本当のターゲットは自分だったとN氏が名乗りでた背景には、こんな経緯がある。
事件当時、N氏は吉祥寺界隈の露天商の顔役的存在だった。建築士と露天商。接点はないようにみえるけれど、二人には信じがたい共通点があった。顔立ちは瓜二つ、年齢と背格好もほぼ同じ、しかも同じ生活圏。

Kさんの自宅とN氏の倉庫は目と鼻の先だった。事件前から、N氏はKさんの知人に何度も声をかけられたことがあり、別人であることを告げたあとも「こんなにそっくりな人がいるなんて……」と驚かれたという。

当時、その界隈では日本人露天商と外国人露天商グループが縄張りをめぐって衝突しており、N氏は「その筋の人たち」の手を借りて外国人グループの締め出しを図った。ところが外国人露天商の中には旅行者を装った某国の工作員がいたというのだ。そうとは知らずに彼らの活動を妨害してしまったN氏は監視され、命を狙われるようになった。

事実を知った「その筋の人たち」は手を引き、以降、N氏は都内のビジネスホテルを転々として身を隠していたという。井の頭公園の事件が起きたのはそんな時だった。この証言から、Kさんが人違いで事件に巻き込まれた可能性が浮上する。

人違い殺人。荒唐無稽に聞こえるけれど、じつは捜査の初期段階から指摘されていた説だ。事件があまりに謎だらけで、被害者と犯人を結ぶ糸が見つからないのは、本来のターゲットがKさんではなかったからという推察である。N氏がなぜ証言したのか、その真意は不明であり、「名乗りでる」という行為も不自然なように思える。けれど、N氏に限定しなければ「人違い殺人」は多くの謎にアプローチできる説であることは確かだ。

多くの謎のイメージ

ドッペルゲンガーは死の前兆?

世の中には自分と生き写しの人間が三人いるといわれる。
N氏が証言して以来、井の頭公園の事件から連想してしまうのは、自分と瓜二つの分身を見たり見られたりした人間は死ぬというドッペルゲンガー現象だ。リンカーン大統領、エリザベス1世、エカテリーナ2世、芥川龍之介、詩人ゲーテなど、「もう一人の自分」と遭遇した記録や言い伝えが残る偉人も多い。

この事件には瓜二つの人間がいて、一人は命を落としてしまった。ドッペルゲンガーは実体のない存在ということはわかっていても、両者のめぐり合わせがあまりに特異であるために、死を暗示するこの迷信が頭から離れない。Kさんは生前にどこかでN氏を見てしまったのだろうか。そして市民が事件当夜に目撃した「Kさんによく似た男性」とは何者だったのか。

2010年、世田谷一家殺害事件の遺族を中心とした宙の会などの活動が実を結び、人を死亡させ、最高刑が死刑となる犯罪の時効が廃止された。このさき時を経て解決される未解決事件があるかもしれない。しかし井の頭公園バラバラ殺人事件は法の施行を待たずに前年に迷宮入りした。
事件が永遠の闇へ葬られた今は、Kさんの冥福をただ祈ることしかできない。

※画像はイメージです。

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