じっちゃんは戦時中に疎開をしていたようで、その時に体験した怖い話ではなく不思議な話。
じっちゃんの疎開暮らし
疎開先は青森、じっちゃんから見ておじさんにあたる人の家。
よく聞く疎開とは違い、厳しいけれども親族なのでそれなりに自由な暮らし。なにより田舎だから食に関しては苦労をした事がなかったていってた。
青森の春から秋の雪のない季節、じっちゃんや近所の子供の楽しみと言えば、見知った山を右往左往とびまわって遊ぶ事。
かくれんぼしたり、木の実を採ったり・・・時々悪さしてゲンコツくらわされ、同時に「山には気をつけろよ」とも言われた。そんな毎日だったらしい。
じっちゃんは、時折、変なものを見たそうだ。
ふわふわしたクラゲのようなものが空に浮んでいたり、縦に白い二メートルくらいの人型の何か。どこからか聞こえてくる鈴の音。青森の森は、深い深い不思議な場所だったと語ってくれた。
じっちゃんが観たものは?
ある時、友達とかくれんぼの最中、木のほらに身を隠していると、「ザーッ」と豪雨が降って直ぐに止んだ。
ふとあたりを見渡すと、そこに婚礼行列がやってくる様子が見えた。
じっちゃんは草影に隠れながら、その情景をじぃっと見ていると、みんな獣で新郎も新婦も鼻が長く、何かの動物に違いなかった。
そう見ていたら花嫁の方の顔に見覚えがあった。
飼い犬の「シロ」だ。
なんでシロがいるのかわからない。わからないけど雨が降った後は狐の嫁入りと言われているのを知っていた。
「そろか、シロは誰かの嫁さんになったんだ。きっと雨を降らしちゃうほどの凄いヤツに。」
非常な現実
じっちゃんは幸せなことだと思ったから、かくれんぼしている事すら忘れ喜び勇んで急いで家に帰ってみると、現実は非情なもので、シロは老衰で亡くなっていた。
じっちゃんは、なにも言えなかったという。
「シロが花嫁になったよ!」
「狐の嫁入りで花嫁がシロだったんだ!」
「森の神様と結婚したんだよ!」
じっちゃんは、ぐっと言葉にすることを我慢した。
周りが悲しんでいるのに、変なことを言えば、空気を読めとゲンコツされただろう。
でも・・・・
動物の笑う顔っていうのは、よくわからないけど、白無垢を着たシロは嫌そうではなく、むしろ、嬉しそうだったように見えた。
当時の犬は放し飼いだったので、時折姿をくらます事がある。シロは森で神様に出会い、相思相愛だったんだとじっちゃんは締めくくった。
私は「へえ」と返事すると「じいちゃんの特別な話だぞ!」と言われた。
狐の嫁入りのカテゴリーに入るのだろうか?もう歳のじっちゃんだしなあ・・・と思いながら聞いていた。
まあ心だけにとどめておこう。
私もいつか、狐の嫁入りを見たいものである。
※画像はイメージです。
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