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社会の敵No.1!往年のFBIの宿敵 ジョン・デリンジャー

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禁酒法と大恐慌の嵐が吹きすさぶ1930年代のアメリカ中西部。
まるで警察をあざ笑うかのように、大胆不敵な手口で銀行強盗と脱獄をくり返すギャングがいた。
DOI(のちのFBI)のフーヴァー長官によって「社会の敵ナンバーワン(Public Enemy No.1)」に指定されたジョン・デリンジャーである。死後、彼の顔はFBIの射撃訓練の標的になった。FBIの創設には、越境犯罪・越境逃亡をくり返したこの男が深く関係しているのをご存知だろうか。

世界で初めて銀行強盗に成功したのはジェシー・ジェイムズだった。西部開拓時代に絶滅したはずなのに、20世紀に生き残ってしまった無法者たち。その系譜の代表格として悪名をはせるデリンジャーであるが、実像はイメージと大きく異なる。大恐慌時代のアメリカで、彼は大統領の次に有名な大衆のヒーローだったのだ。
汚れた金しか盗まない。仲間はけっして見捨てない。
汚い金が眠る銀行に狙いを定め、庶民からは奪わないデリンジャーギャングに人々は喝采を送ったのである。

やがて時は移り、銀行強盗もまた時代遅れになっていく。捜査の陣頭指揮をとるメルヴィン・パーヴィスの執念が徐々に彼を追いつめる。ジェシー・ジェイムズが行けなかった距離をデリンジャーは走破した。

独自の美学とカリスマ性で大衆に支持された伝説のギャング、ジョン・デリンジャーの生きざまを振り返る。

目次

天職は銀行強盗

犯罪者界隈の事情に通じていなくても、ボニー&クライドという名前なら知っているという人はいるだろう。
映画『俺たちに明日はない』で見事な「死のバレエ」を踊ってくれた、あの恋人たちである。銃弾の雨を浴びながら全身をガクガクと弾ませて絶命するエンディングは、名シーンなどという表現で説明できるものではない。
彼らはデリンジャーギャングと奇しくも同時期に、同じアメリカ中西部を荒らしまわった。凶悪な犯罪者であるにもかかわらず、メディアや大衆が英雄視していたのもデリンジャーと同じ。ボニーとクライドも金持ちに狙いを定め、弱者からは巻き上げない義賊的な姿勢を貫いたのだ。
「なんと腐った連中だ。アメリカの狂犬どもめ!」とご立腹だったのは、ジョン・エドガー・フーヴァー長官である。説得力はない。
ボニーの葬儀にカードと花を贈った2か月後、ジョン・デリンジャーも国家権力の銃弾に倒れた。

少年時代からジェシー・ジェイムズが憧れのアイドルだった彼にとって、アウトローは天職のようなもの。
銀行の窓口に出向いて、行員に拳銃を突きつけ、こう告げる。
「預金を全額おろしたい。俺の預金だ。わかるな?」
居合わせた客からは一銭も奪わない。わざわざ正体をばらしたりもする。
「怖がることはないぜ、紳士淑女のみなさん。デリンジャーギャングに襲われてるんだから安心さ」
現金を強奪するだけでなく、市民のローンの元帳を破り捨てることもあった。

時代は空前の大不況。国民には社会に対する不信感や絶望感が渦巻いていた。そんな世の中に颯爽と現れ、憂さを晴らすように銀行を襲撃するダークヒーロー。市民の土地を借金のかたに取りあげた銀行を痛めつけ、警察の捜査の網をかいくぐる痛快さ。当時は州をまたいだ犯罪を捜査できる組織がなく、追跡が困難だったのだ。
あのフーヴァーがこのチャンスを逃すはずがない。彼は州境を越えた広域犯罪の捜査機関、すなわち連邦捜査局を構築し、その長官の座を手に入れようと目論んでいたのである。そのための最高のプロモーションがデリンジャーとの戦いだった。

無能な警察、華麗なデリンジャー

フーヴァーが目をつけたのはメルヴィン・パーヴィス捜査官だった。パーヴィスはシカゴ支局長に任命され、デリンジャー特捜班の陣頭指揮をまかされる。フーヴァーに見込まれたことで、彼は逃れられない運命に足を踏み入れることになる。

1934年4月22日、捜査チームはタレ込みによりウィスコンシン州のリトル・ボヘミア・ロッジに潜伏するデリンジャーギャングを包囲した。しばらくしてロッジから姿を現した3名の男に発砲するが、彼らは一味ではなく一般人だった。運の悪いことに、そのうち1名が死亡する。一般人を誤って射殺したことが報道されると、当局に国民の非難が殺到した。「無能な警察、華麗なデリンジャー」という図式が浮き彫りになり、新聞を含むデリンジャーびいきの風潮がさらに加速する。

フーヴァーからの重圧、取り返しのつかない大失態、世間の嘲笑に追いつめられるパーヴィス。まるでデリンジャーに手のひらの上で遊ばれているかのような忸怩たる思い。
まもなくフーヴァーはデリンジャーを「社会の敵ナンバーワン」に認定し、指名手配。情報提供者に5,000ドル、捕縛した者に20,000ドルの賞金をだすと発表した。人を一人しか殺していないデリンジャーが「社会の敵筆頭」の烙印を押されたのは、フーヴァーが自らの失態をごまかすためだった。

FBI, Public domain, via Wikimedia Commons

赤いドレスの女は不吉のしるし

「世に悪の栄えたためしなし」といわれるように、いつかは年貢の納めどきがやってくる。
1934年7月22日、運命の日。
その夜、デリンジャーはガールフレンドのポリー・ハミルトンと売春宿の女主人アンナ・セイジを連れて、シカゴのバイオグラフ劇場にクラーク・ゲーブル主演のギャング映画『男の世界』観にでかけた。映画は偶然にもデリンジャーの運命を予言しているかのようなストーリーだった。

アンナ・セイジはルーマニア出身で、かねてより売春宿の摘発、母国への強制送還を恐れていた。パーヴィスはこれにつけ込み、摘発されたくなかったら協力しろと脅迫したのだ。彼にとってはこれが最後のチャンス。この女をうまく使えなかったら次はない。
アンナはデリンジャーの情報を売り、パーヴィスは赤いドレスを着るよう指示した。デリンジャーが劇場からでてくるのを待ち伏せする際、見失わないようにするための目印である。劇場に踏み込めば、ほかの観客を巻きこむ危険性が高い。

22時30分、デリンジャーは外へでてきたところを捜査官に取り囲まれた。彼は自分が売られたことを察したにちがいない。銃を抜く素振りをみせた瞬間、一斉に銃弾が舞った。搬送先の病院で死亡が確認されたのは22時50分。享年31。
当局は射殺理由を「デリンジャーが銃を抜いたから」と公式発表。しかし銃を抜く動作は一切していないとの目撃証言がある。
デリンジャー射殺のニュースはまたたく間に全米を駆けめぐり、多くの人がヒーローの敗北を惜しんだ。現場となったバイオグラフ劇場では、ハンカチやスカートの裾を血だまりに浸す野次馬が後を絶たなかったという。

この夜、いつもは地味な服装を好むアンナが赤いドレスを着ていたため友人たちにからかわれていたとの話がある。「赤いドレスの女(the lady in red)」が「自分を破滅へ導く運命の女」を意味するスラングになったのは、この出来事からである。
ふだんは着ない赤いドレス。そのドレスを身にまとい、仲間からからかわれたとき、彼女はなにを思ったのだろう。

それぞれの運命

一方、こちらは「ヒーローを殺した男」となったメルヴィン・パーヴィス。
デリンジャーの死後、彼に向けられたのは市民から誹謗中傷だった。
「劇場からでてきたデリンジャーは丸腰だったじゃないか! 卑怯者!」
「なぜ撃った? 彼は撃つなと言ったのに!」
「あれは警察がうった芝居だよ。本物のデリンジャーはどこかで生きてる。撃たれたのは替え玉さ」

マスコミは彼をどこまでも追いかけた。各紙は「FBIのクラーク・ゲーブル」と彼を呼び、大々的にもちあげる。ところが、時の人となったことがフーヴァーの妬みをかってしまう。自分より目立つ部下など、百害あって一利なし。
パーヴィスはしだいにフーヴァーの手によって日陰に追いこまれていき、ついに辞表を提出する。そして公衆の前から姿を消した。

1960年2月。
メルヴィン・パーヴィスはサウスカロライナ州フローレンスの自宅で、FBIから支給された拳銃を握ったまま頭を撃ち抜いて死んでいるところを発見された。56歳だった。
持病を苦にした自殺というのがFBIの公式発表ではあるが、これは検死報告書の内容と一致しない。彼の死はFBIから完全に無視され、遺族への弔電も追悼コメントもなかった。本当の死因は、おそらく永遠にわからないだろう。
もっともデリンジャーに翻弄され、自らの運命を大きく変えてしまったのはパーヴィスだったのかもしれない。

ジョン・デリンジャーが米犯罪史に名を刻み、伝説のヒーローとして語り継がれるようになったのは、時代の脚光を浴びているさなかに散っていったからだろう。昔気質のアウトローはどのみち時代遅れになり、いずれは忘れ去られる宿命にあった。デリンジャーを追っていた捜査当局が、心ならずも後世に名を残す無法者に彼をつくりあげてしまったのだ。

彼は今、遺体泥棒への対策として、2.5トンのコンクリートのなかに納められている。無法者に憧れて、無法者として生き抜いた人生だった。故郷インディアナポリスの土の下で満足していると思いたい。

featured image:FBI, Public domain, via Wikimedia Commons

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