悲運の事故によって亡くなったKという少年がいた。
あえてKとしているのは、名前をだすことによってまたしても恐怖の体験をするのではないかと恐れているからだ。
I君からKの話を聞いたのは、私が中学二年生の冬の頃だった。
I君の話というのは、半年まえに、Kという私とおなじ市内に住む高校一年生になる少年が、横断歩道を渡っているところを車にひかれて即死した事故の話だった。手足がちぎれたという話は誇張だとは思ったが、どうやらかなり無残な事故現場だったらしい。
話はそれで終わったわけじゃなく、この話を聞いた人のところに、Kの幽霊があらわれるというのだ。僕は背筋がぞっとした。その話を聞いた夜は、雪がずっと降り続けていた。ときおりドサッ、ドサッと屋根から雪が落ちてくる音がするたびに心臓が高鳴った。私は自分の部屋で寝ていたが、Kの話を思い出すと、怖くて眠れない。照明をつけて眠ろうとしても、父や母が照明を消しにやってくる。仕方なく私は布団を顔までかけて無理やりにでも眠ろうとした。
部屋のすぐ外はベニヤ板で父がつくった小屋が接しているのだが、その小屋を叩く音が聞こえる。
「ドン!、ドン!、ドン!」
雪が屋根から落下してくる音ではない。確かに誰かが小屋のドアを叩いている。そのうえ、「ザクッ、ザクッ、ザクッ」っと雪が積もった大地を踏みしめる音。雪が降るなかで夜の十時頃。しかも人の敷地に誰が歩くだろうか。
そのうち、部屋のすみのほうから、チリーン、チリーン、と鈴の音が聞こえてきた。そしてザワザワというラジオの雑音のような音が私の方に迫ってくる。私は勇気をだして布団をはねのけ、照明のスイッチをいれようとした。そのとき、外をみると、そこには血だらけの目のない少年が立っていたのだ。
血と泥まみれになったボロ雑巾のような姿。私は叫んでそのまま部屋からでようとした。しかし、声がでない。体も動かない。ねばりけのある汗までがふきだしてくる。私が気を失いかけたとき、雪のかたまりが屋根からドサッと落ちてきた。
一瞬目を閉じ、再び目をあけると、少年の姿はいつのまにか消えていた。
※画像はイメージです。
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