春の山菜採りと並んで、ファンの多い秋のキノコ狩り。
市販されているキノコとは異なり、濃厚で滋味あふれる独特の味わいを求めて毎秋楽しみにしている人も多いのではないだろうか。
しかし、この個性的で一種かわいらしさすら感じられる大地からの贈り物は、果たして私たちに向けての素晴らしいギフトなのかそれとも希望なきパンドラの箱なのか。
テングダケ~THE毒キノコ
傘の表面に白色のイボが散らばる特徴的な見た目のテングダケ。
同属であるベニテングダケは口ひげを生やした配管工が出演する某ゲーム内で登場するアイテムのキノコに見た目が似ているため、ご存知の方も多いはずだ。
その見た目と名前から日本国内で最も知名度が高い毒キノコと言って差し支えないだろう。
なお、ベニテングダケ、イボテングダケなど、「テングダケ」の名前が入っているキノコもほぼ毒キノコ、あるいは食用に適さない、食用であるかどうかもわかっていないキノコであるため、食べられない。
誤ってテングダケを口にすると30分程で腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れる。
加えて中枢神経にも作用してめまい,痙攣を引き起こして精神錯乱や幻覚症状を引き起こすこともあるという。
近年では中毒症状を起こしても回復することがほとんどだが、過去には死亡例もある危険なキノコだ。
とはいえ、有名な毒キノコである。
そのため中毒者はそこまで多くないのではないかと思われがちだが、国内ではほぼ毎年のようにテングダケの誤食が発生している。
口にしてしまった理由は各々あるのだろうが、テングダケの見た目の特徴である傘のイボは自生する環境下において取れたり剥がれたりすることがよくあるそう。
イボが取れてしまったテングダケは確かになんとなく食べれそうなキノコに見えなくもない。
少しでも疑念がある際には手を出さないのが無難だろう。
オオワライタケ~食べれば笑い事では済まされない
オオワライタケは半球形~扁平型の傘を持ち、成長するとその傘が直径15cmほどにもなる比較的大きなキノコ。
日本中どこにでも発生するキノコであるため、各地方でそれぞれの呼び名を持ち、例えば秋田県では「わらいもだし」、岩手県や青森県では「おどりたけ」などと呼ばれている。
現在のところ死に至るような強い毒性は認めれていないものの、その名の通り口にすると幻覚や幻聴、異常な興奮状態といった症状を引き起こす。
(補足だがオオワライタケの「大」は大笑いするため命名されたわけでなく、キノコのサイズの大きさを表している。)
オオワライタケという名前を聞くと、幻覚症状と興奮状態ゆえに気分が高揚して笑ってしまう様子を想像するかもしれない。
このキノコを食べた後に笑ってしまうはっきりとした理由はわかっていないものの、実際には楽しくて笑っているわけではなく、顔面神経に異常をきたして表情が引き攣ってしまい、当の本人は苦しんでいるにもかかわらず、周囲には笑っているように見えるだけという可能性が高いそうだ。
強い毒性はないからといって興味本位で手を出すべきキノコではないだろう。
シャグマアミガサタケ~森の中で出会える脳みそ
褐色・赤褐色の頭部に表面のしわ、その外見はあたかも大脳が生えていると表現してもいい少々不気味なキノコ、シャグマアミガサタケ。
個人的には第一印象からして「食べたい」と思えるキノコではないのだが、見た目に違わずと言うかやはり毒をもつキノコである。
シャグマアミガサタケを生食すると、食後7~10時間程で吐き気や嘔吐、腹痛と下痢などの症状が現れ、重症の場合には肝臓や腎臓に障害を引き起こし、最悪の場合には3日程度で死に至ることもあるという。しかし、この猛毒のシャグマアミガサタケ、茹でてて毒抜きすると食べられるようになり、ヨーロッパ、特にフィンランドでは高級食材として扱われている。
シャグマアミガサタケの毒は、たっぷりの水でシャグマアミガサタケを茹で、その湯を捨てて新しい水で再度茹でるという行程を何度か繰り返すことで抜けるそうだ。ただし、このシャグマアミガサタケを茹でた時に発生する湯気には有毒ガスが含まれている。
そのため毒抜きを試す際にはこの有毒ガスを逃がせるように、風通しの良い場所で行うなどの注意が必要だ。
まさに食べるのも命がけである。
スギヒラタケ~もう食べてはいけません
スギヒラタケは2~6 cm程の大きさので扇形の白い傘が重なり合って群れるように生えるキノコだ。
傘の部分がヒラヒラした形状であることから白いマイタケのようにも見える。
このスギヒラタケ、かつては食べられるキノコと考えられており、特に東北・北陸地方ではよく食べられていた。しかし2004年秋になってスギヒラタケを食べた腎機能に障害を持つ人たちが急性脳症を発症した事例が多数報告された。
2004年になって急に中毒事例が見つかったのは、2003年11月の感染症法改正により急性脳炎の患者が出た際には保健所を通じて都道府県知事に届出ることが義務づけられるようになったためだと考えられる。
調べていくと、2004年の1年間でに東北・北陸を中心に9県で約60人の急性脳症の発症が確認され、うち19人が死亡する事態となっていることが判明した。
食べられるキノコとして重宝されてきたスギヒラタケは一転、毒キノコの疑いをかけられることになったのだ。
現時点でも、スギヒラタケの毒性は研究途上にあり、本当に毒キノコなのかはっきりとわかっていない。
しかし厚生労働省や農林水産省をはじめとする各関係機関からは「決して食べないように」との注意喚されている。
昔の知識で口にしないように注意していただきたい。
ツキヨタケ~日本毒キノコ中毒御三家 1
自然毒による食中毒の中で最も多いのがフグ毒による中毒だ。
次いで多いのが毒キノコによる中毒であると言われている。
東京都保健医療局によれば、キノコ食中毒の原因となったキノコを種類別にみると、ツキヨタケ、テングダケ、そしてクサウラベニタケで実に被害の70%を占めるそうだ。
そんな日本毒キノコ中毒御三家の1つ、ツキヨタケ。
なかなか風流な名前を持つキノコだ。
ツキヨタケはヒダの部分に発光成分を有しており、暗闇の中で薄い蛍光グリーンの光を発するという特徴が名前の由来となっているなんとも美しいキノコだ。
その一方で明るい場所で見るツキヨタケはシイタケやヒラタケといったスーパーでもおなじみのメジャーなキノコとよく似ており、誤食する者が後を絶たない。
東京都保健医療局の統計によると、キノコ食中毒発生件数の43%がツキヨタケによるものだとされており、まさにキノコ中毒の王者なのだ。
ツキヨタケを間違って食べると30分~3時間程で嘔吐・下痢・腹痛などの症状が現れる。悪化すると痙攣や下痢に伴うひどい脱水症状を引き起こし、最悪の場合死亡することもあるという。
たとえ見かけが食用キノコに似ていたとしても、暗闇でヒダが光るなら見分けは簡単だろうと侮るなかれ。
ヒダに傷がついたり、成長具合によっては光らない、光って見えない場合も多数ある。
シイタケやヒラタケといった似たようなキノコを採りに行く際には努々気を付けていただきたい。
クサウラベニタケ(イッポンシメジ)~日本キノコ中毒御三家 2
クサウラベニタケはイッポンシメジ科イッポンシメジ属に分類され、色は灰色~黄土色、3~8㎝の傘を持つ毒キノコだ。
誤って食べると下痢、嘔吐、腹痛といった症状に見舞われ、過去には死亡例もある。
このクサウラベニタケはヒダの裏の部分が薄いピンク色をしているなど一応の特徴はあるものの、食用のウラベニホテイシメジやホンシメジ,ハタケシメジと非常によく似ており素人にはまったく見分けがつかない。
あまりの判別の難しさからメイジンナカセ(名人泣かせ)の異名を持つほど。
加えてこのクサウラベニタケ、東北や北陸を中心とする一部のエリアでは「イッポンシメジ」と呼ばれているのだが、イッポンシメジというキノコはクサウラベニタケとは異なるキノコとして別で存在している。
そして本来のイッポンシメジも有毒だ。さらに食用のウラベニホテイシメジをイッポンシメジと呼ぶ地域もあり、勘違いを助長している感もある。
あくまで個人の感想だが、食用のウラベニホテイシメジより毒のあるイッポンシメジの方が食用キノコらしい名前な気がする。そして「シメジ」と聞くとスーパー等でよく見かけるブナシメジや味が良いことで知られるホンシメジを想像してしまい、毒性のイメージとはほど遠い。
しかし、ブナシメジはシメジ科シロタモギタケ属、ホンシメジはシメジ科シメジ属であり、クサウラベニタケ・イッポンシメジとは全く異なる種とされている。
なんならイッポンシメジ属のキノコはほとんどが毒を持っている危険な種で、ブナシメジなどとは似て非なるものなのだ。
見た目も名前もとにかく紛らわしい毒キノコだ。
カキシメジ~日本キノコ中毒御三家 3
ツキヨタケ、テングダケ、クサウラベニタケと同様に中毒者数の多いカキシメジ。
日本キノコ中毒御三家がどのキノコなのかという議論はあるものの、かつてはテングダケよりも誤食中毒者数が多く、その一角を占めていたカキシメジを今回は御三家の3つ目として紹介したい。
カキシメジは3~8㎝の赤褐色~くり褐色の傘を持つキノコ。ヒダに赤褐色~黒褐色のシミが点々とつくのが特徴でもある。
特徴はあるものの、食べられるニセアブラシメジ、ヌメリササタケ、チャナメツムタケ、シイタケと非常によく似ており、ツキヨタケやクサウラベニタケと同様に食用キノコとの判別が難しいキノコといえるだろう。
誤って口にすると30分から3時間程で、腹痛、嘔吐、下痢や頭痛を引き起こす。
現在のところ死亡例は報告されていないが、死者が出ていないのは、毒性の強弱によるものなのか、はたまた偶然なのかははっきりとわかっておらず、要注意の毒キノコである。
なお、カキシメジは間違えやすい他の食用キノコとは異なり、口にすると悪臭と苦みがあると言われている。
もちろんよく観察して食べないのが一番ではあるのだが、自身は食用キノコを食べているつもりでも万が一、悪臭や苦みといった異変を感じた場合、カキシメジの可能性が高いのですぐに吐き出すのが得策だ。
カエンタケ~森の中で立ち昇る炎
もしも森や山の中でオレンジ色~朱色~赤色の細長い炎のような、サンゴのようなそして人の指のようなキノコを見つけたら、それは恐らくカエンタケである。
いかにも毒キノコという見た目に抗わず致死量は3g程度、わずか小さじ半分程で死に至る可能性を持つ猛毒キノコだ。
誤食するとすぐに下痢、嘔吐、腹痛、手足しびれ、喉の渇きといった症状が現れる。症状が重い場合は運動障害など脳神経障害を引き起こし、死亡する可能性もあるという。
このカエンタケ、口にした際の症状も恐ろしいのだが、なんと触れるだけでも皮膚炎を引き起こす。
触れてしまった場合には、すぐに石鹸で触れた箇所を洗い、念のため医療機関に相談した方がいいだろう。
さて、このカエンタケ、過去には誤食による死亡例がある。
2000年に見た目が似ている食用キノコのベニナギナタタケと間違えて食べて亡くなった事例、そして1999年、旅館のロビーに飾られていたカエンタケを宿泊客5人が飲食し、うち1人が死亡するという事例だ。
旅館の従業員はこのキノコの毒性について知らず、見た目の珍しさからあくまで観賞用としてロビーに飾っていたらしいのだが、5人の宿泊客らは薬用キノコのつもりでカエンタケを酒に浸し、この自作薬用酒とカエンタケを飲み食いしたらしい。
カエンタケは正直、あまり食欲をそそるような見た目とは思えないだが、薬用といえば多少見た目が珍妙な方が効く気がするのかもしれない。
亡くなられた方には気の毒だが、身を滅ぼさぬためにも無用な冒険心を出さない方がよいという教訓と言えるだろう。
ドクツルタケ~殺しの天使
その美しいとさえ表現できる白さゆえ、自然の中で圧倒的な存在感を誇るドクツルタケ。
似たような見た目のシロタマゴテングタケやタマゴテングタケと並んで強い毒性を持つキノコである。
ヨーロッパでは「デストロイング エンジェル(destroying angel)」。殺しの天使と呼ばれ恐れられている毒キノコだ。
その毒性の強さは、成人であってもドクツルタケ1本食べただけで死に至る可能性があるとされており、まさに最強の毒キノコと呼んでも差し支えないだろう。
死亡例も多数挙がっている。
1993年10月10日、70代男性と60代の妻が裏山で採ったキノコをナスと一緒に煮て食べた。
その後、日をまたいだ頃になって激しい嘔吐と下痢を発症する。
症状がいったん治まったため、夫婦は医療機関を受診することなく自宅で休んでいたのだが、12日になって夫は妻が息を引き取っていることに気が付く。
夫も急いで医者に掛かり緊急入院する事態となった。
症状の原因がドクツルタケの誤食によるものされて治療を受け、一度は症状が改善したように見えたものの、その後悪化の一途を辿り、夫も多臓器不全で亡くなった。
このようにドクツルタケを誤って食べると、腹痛や嘔吐、水っぽい下痢といった症状を発し、1日程度でいったんは回復する。しかし、この症状はまだ序の口で回復後、4~7日後になって胃腸からの大量出血や黄疸、肝臓・腎臓肥大といった重篤な症状を引き起こし、最悪の場合多臓器不全等で死亡するのだ。
このように猛毒を持つドクツルタケだが、嘘か真か恐ろしい話が存在する。
ある人が山でキノコ狩りをした帰り道、その山中で見知らぬ男から「おいしいキノコだから」と10本ほどの白いキノコをもらう。
もらったキノコは毒キノコを連想させるような見た目でもなかったため、男の親切に感謝して翌日、自宅で母親と共に調理して食べたところ、激しい嘔吐や下痢といった症状が現れ、入院することになった。
幸いにして一命は取り留めたものの、その白いキノコこそがドクツルタケだったのだ。
キノコを譲った男は本当においしいキノコだと思い厚意で渡したのか、それともこのキノコの正体を理解した上で譲ったのか?
男の正体は今もわかっていない。
毒キノコの見分け方に関する迷信
世界に数多の毒キノコが存在するとわかってはいるものの、美味なるキノコがあるのもまた事実。
1つ1つの見分けはできないが、なんとか自ら判別してその旨いキノコを食べてみたいという人間のあさましい食欲のせいなのか、毒キノコの見分けた方に関する偽情報は枚挙にいとまがない。
次に挙げる判別方法は全て迷信である。
地味な色をしているキノコは食用
ブナシメジやシイタケなど私たちが普段目にするキノコが地味な色であるため、そう思われるのかもしれないが真っ赤な嘘である。
柄が縦に裂けるキノコは食用
食用・有毒に関わず多くのキノコの柄は縦に裂くことができる。
動物や虫が食べているキノコは食用
毒キノコであっても食べる虫は存在するし、エゾリスがテングダケをおいしそうに頬張っていた事例も見られている。
毒があるキノコでもナスと一緒に調理すれば食中毒にならない
どういった根拠から出てきた説なのか不明だが、ナスと一緒に食べても当然無毒にはならない。
乾燥させる、塩漬けにする、茹でる、酒に浸すことで食べられる
なかにはこういった行程を経て食べられるようになるキノコもないこともないが、全ての毒キノコに当てはまるわけではない。
むしろほとんどの毒キノコはこういった調理を施しても無毒化しない。
挙げた5つ以外にも毒キノコの見分け方に関する迷信は多数存在する。
判別方法はキノコの数だけあることを忘れることなく、食用と言い切れないキノコは「採らない」「食べない」「あげない」を徹底して守っていただきたい。
キノコは気をつけて
日頃の喧騒を離れて自然を堪能しつつ、まるで宝探しでもするかのようにキノコを見つける高揚感を楽しめる上、何よりのその味わいを楽しむことができるキノコ狩り。
楽しみにする気持ちはわからなくもないが、手にしたキノコが握る食後の運命は自己責任だということを胆に銘じておかなくてはならない。
なお、食用キノコと毒キノコの判別は植生地や天候によってキノコの個体差もあり非常に難しい上に食べられるかどうか未だ判明していないキノコも世界、そして日本中に多数ある。
毒キノコか否かの判別は、この記事の情報のみを鵜吞みにせず、複数の専門書や図鑑、専門家への確認を怠らないようにしていただきたい。
思った事を何でも!ネガティブOK!