都市伝説の代表格と言えば、「口裂け女」です。
「口裂け女」は、70年代に流行した都市伝説です。正確には、1979年の冬頃から翌年の夏にかけて日本中に広まり、全国の小中学生を怯えさせました。騒動は深刻化し、パトカーが出動したり、集団下校が行われるなど、本格的な用心がされました。
こうなると、都市伝説というより、社会問題です。
さて、突如、ヒステリックな勢いで広まった「口裂け女」の都市伝説ですが、沈静化するのもあっという間でした。
1980年の8月には、もう「口裂け女」の話で盛り上がることはなくなり、あんなに日本中が恐怖したのに、いつしか忘れ去られていったのです。
記憶にある人も多いかと思われる「口裂け女」ですが、一体、あの現象は何だったのでしょう。
口裂け女とは?
改めて「口裂け女」について説明します。
「口裂け女」が出現するのは主に夜とされます。夜に外を歩いていると、大きなマスクをした女性が近づいてきて、「わたし綺麗」と、問いかけてくるのです。
「綺麗だよ」と答えたならば、女性はマスクを外してみせます。そこには、耳まで裂けた口があるのです。「これでも綺麗」と、更に問いかけてきます。そう、この女性こそ、「口裂け女」なのでした。
ここで、否定的な言葉を放ったら最後、「口裂け女」から刃物で口を切り裂かれると言われています。
「口裂け女」の性格は、非常に残忍であり、凶悪です。
まるで容赦なく、相手が子供であっても、凶行に及びます。
更に、ものすごい俊足と言われており、どんなに逃げても必ず追い付かれてしまいます。
一説には、100mを6秒で走るとされています。最も、どうやってそのタイムを計ったのかは、謎です。
「口裂け女」の噂は、急速に日本中に広まったわけですが、広まってゆく過程で、様々な設定が追加されていったと見られます。
先述の超人的な俊足や、その他、「口裂け女」には姉妹があるとか、様々な噂が重ねられてゆきました。ちなみに「口裂け女」は三人姉妹であり、全員、口が裂けているとされます。
追加されてゆく尾ひれの中には「口裂け女」のよく出没する場所なども言われ始めます。
「三軒茶屋」「三宮」など、地名に「三」がつく場所に出没するという説。
体育館のステージの地下室に住み着いているという説。
他、神社だったり、学校の保健室だったり、墓石だったりと、様々な居場所がささやかれました。
伝えられた対処方法
噂が広がりすぎて、何者なのか更に分からなくなってしまった「口裂け女」ですが、出会った場合の対処法も様々なものが伝わっています。
それは、地方によって異なる場合もあり、調べると興味深いです。
最もよく知られている対処法は「ポマード」と三回唱えることでしょう。これは、「口裂け女」が過去に整形手術を受けた際、その執刀医がポマード臭かったのを思い出してひるむから、とされています。
あとは「べっこう飴」も有名でしょう。「べっこう飴」は「口裂け女」の大好物とされています。遭遇した時、これを投げつければ、夢中になって食べ始めるので逃げることができる、とされています。
ちなみに、関東地方の場合、「べっこう飴」は「口裂け女」の苦手な食べ物だから、投げると追い払うことができるとされています。
また、千葉県我孫子市では、べっこう飴5個ならば「口裂け女」を歓ばすことができるが、金平糖5個を出せば追い払うことができるとされています。
食べ物関連の撃退法は他にもあり、アイテムが豆腐だったり、ボンタンアメだったり、様々です。
食べ物以外ならば、福岡県の噂が面白いでしょう。福岡県では、「口裂け女」の対処法として、100円玉を投げれば良いとされています。それは、「口裂け女」はスペースインベーターが好きなので、100円を必死になって拾おうとするからだそうです。
「ポマード」のように、呪文を唱えて撃退させる方法もいくつかあります。「ニンニク、ニンニク」だったり、「ハゲ、ハゲ」だったり、バリエーションは様々です。
「口裂け女」は犬が嫌いという設定もあったようで、「犬が来た、犬が来た」と言うことで撃退できるとか、掌に「犬」と書いて見せれば良いとする説もあります。
また、「口裂け女」に追われた場合の逃げ場所も考えられました。
「口裂け女」は建物の2階以上には上がってこられないという説があり、2階より高い場所に逃げると良いと言われています。なぜか、レコード店や化粧品店など、特定の店に逃げ込めば安全とする説もありますが、その由来は分かりません。
そもそも、「わたし綺麗」と聞かれた場合、どう答えれば難を逃れることができるのか。
これは誰もが知りたいことだったと思います。
「わたし綺麗」と聞かれた場合は、「まあまあですよ」「ふつうだよ」と答えれば良いと言われています。
万一、口が滑って「綺麗だよ」と答えてしまって「これでも~」とマスクを取って見せられても、ひるまずに「綺麗だよ」と言い続ければ助かるとも言われています。
口裂け女とはなんだったのか?
これほど全国を騒がせた都市伝説も珍しいと思われる「口裂け女」ですが、その正体についても、様々な説があります。
一つは、整形手術が失敗して、あんな無残な姿になってしまったという説です。これは、哀れなストーリーと思われます。
他は、そもそも「口裂け女」なんて存在せず、あの都市伝説は、子供が塾通いしたくなくて作り出した架空の話とする説もあるのです。
ちなみに、「口裂け女」は、岐阜県で誕生したという説があります。かなり有力な説とされているようです。
1968年8月18日、岐阜県でバス事故が発生しています。このバス事故現場は川だったのですが、川の中から白骨化した頭蓋骨が現れました。その頭蓋骨の口が耳まで裂けていたということです。つまり、「口裂け女」は、その頭蓋骨の主の亡霊だったのではないか、という説があるのです。
民話にも登場する口裂け女
実は「口裂け女」は、70年代に流行する以前にも、噂がささやかれたことがあります。
江戸時代の怪談集である『怪談老の杖』にて、「口裂け女」が実際に表れたという話が収録されています。
ほか、江戸時代の読本「絵本小夜時雨」でも、吉原に「口裂け女」が出た、という話が見られます。
また、1754年に現。岐阜県群上市で起きた群上一揆で多数の農民が処刑されましたが、この農民たちの怨念が「口裂け女」のルーツではないかとする説もあるのです。
古くから語り継がれる「口裂け女」なのです。
ここまで昔から語られているとなると、単なる噂とは思えません。
急激な鎮静化
様々な尾ひれがつけられながら、凄まじい勢いで広まった「口裂け女」の噂ですが、沈静化したのも急激でした。
うわっと広まり、ぱたんと途切れたように姿を消した「口裂け女」ですが、噂が途切れた時期が子供たちの夏休みの時期と重なるので、夏休みに入ったことで、子供らの噂話が途切れたと考える見方もあります。
それにしても、あまりにもあっけない沈静化でした。
暴力的なまでに急速に広まり、突然途切れてしまう。異様な現象だと思います。
「口裂け女」の真相は、結局わからないままになっていますが、あれほど急に広まり、突如消滅してしまったのですから、いつかまた、同じように「口裂け女」が出没する噂が広まるか、わからないのです。
子供の頃の噂
書き手も子供の頃、「口裂け女」の噂を聞いたことがあります。
しかしこの時は、沈静化した後だったようで、特に集団下校をさせられたり、パトカーが出るようなことはありませんでした。
この時点で、「口裂け女」についてはたくさんの噂が付いており、「ポマード」や「べっこう飴」などの撃退法もまことしやかに語られていたものです。
確かに怖かった「口裂け女」ですが、噂の内容を見てみますと、当時の世情を垣間見られるので興味深いと思います。
スペースインベーダーゲームなど、当時流行していたものが都市伝説に取り入れられています。面白いことです。
目撃談が70年代の雑誌に掲載されたこともあり、一世を風靡した現象だと思います。
それにしても、昔から「口裂け女」の話があることが気になります。
70年代に広まった「口裂け女」ですが、本当は実在し、時を超えて今もまだ存在しているのでは、などと考えてしまいます。
もしそうならば、また、いつなんどき、「口裂け女」が社会に飛び出してくるか、分からないのです。
※画像はイメージです。
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