ドキュメンタリー・タッチで描かれる、一般的な架空戦記とは一味違うリアリティを持つ異色作、「魚尻島要撃戦 零戦異聞 暗闇の辻斬り」。
書店や古書店には、様々な歴史小説が並んでいます。中でも、太平洋戦争期を舞台にした架空戦記は人気が高く、鮮烈な発想と戦略でもって大逆転を成し遂げている作品も数多くあります。
ただ、その手の作品はどうしてもリアリティがない、という課題に直面することが少なくありません。
資料や映像が無数に揃っている戦いを舞台にしているだけに、詳しくなればなるほど、矛盾点に気付き、作品に没入できなくなってしまいがちなのです。
しかし、本書「魚尻島要撃戦」は違います。
戦史ライターがかつての腕利きパイロット、荒田崎氏に話を聞き始めたことをきっかけで展開されていく、トラック島に近い南の島、「魚尻島」で行われていた輸送機待ち伏せ、いわゆる要撃戦の話は、徹底したリアリティに基づいています。
抜群の技量と人望を誇りながらも、上官に対しても幾度も噛み付き、酒乱の気もあって南の果てに左遷させられた荒田崎氏が本土から迎え入れた、アメリカ育ちというスマートでハンサムな士官、滝島。
しかしこの滝島は天才的な飛行機乗りであり、この二人がコンビを組むような形で、待ち伏せ作戦が行われていくのです。
黒一色に塗装された零戦二十二型機、そしてその機体に据え付けられた必殺の大口径機関銃……、いかにも架空戦記的な材料を用いながらも、その戦いぶりはあまりにも現実的です。
敵の空襲を常に警戒し、ようやく一機輸送機を落として、また作業を繰り返していく、エースパイロットも地上に降りれば無力であり、空襲でケガをしたりもします。
しかしそのささやかさ、地味さこそが本書のリアリティをより一層強調させる効果を担っており、読物としての面白さを強めていると言ってもいいと思います。
作戦規模的に、理不尽な戦局の逆転ということも有り得ず、破綻なく物語が進んでいくので、読み手としては実に心地良いものがあります。
非常に異色な作品ではありますので、何かの機会に見つけることができたら、一読してみることをオススメします。
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