「映画」ローレライを見た感想

太平洋戦争末期、戦場では不思議な潜水艦の噂が流れていました。
米海軍の艦艇を翻弄し、そして密かに沈め、その戦闘が終結すると歌声が聞こえる、というのです。

その海域にいた米兵らは畏怖を込めてその存在を“ローレライLoreley=魔女”と呼んでいました。
これは“死”と“沈黙”が支配する海の底で、祖国のために懸命に戦った日本海軍の潜水艦を巡る物語です。

あらすじ

広島に原爆が落とされた1945年8月。
帝国海軍軍令部きっての切れ者・浅倉大佐(堤真一)は、元・潜水艦乗りの絹見少佐(役所広司)にドイツからやってきた特別な潜水艦『伊507』を託しました。
目的は、さらなる米軍の原爆投下を防ぐこと。
特攻作戦に反対して三年も閑職に回されていた絹見が率いることになったのは、真珠湾以来の腐れ縁と彼を慕う先任将校の木崎大尉(柳葉敏郎)や回天特別攻撃隊から特殊任務を命じられてやってきた折笠兵曹、清永兵曹など、定員にも満たない寄せ集めの部隊でした。

その中にいた軍属の技師である高須(石黒賢)は、彼に思いがけない索敵システム“ローレライ”の存在を明かしました。
ソナーの音だけが頼りの潜水艦の戦闘に於いて、ナチス・ドイツがかねてより研究を重ねてきた特殊音響兵装のそれは、伊507を中心にした海底の状態から、敵の艦艇の位置までを正確に視覚的データで表せるという画期的なものでした。
そのシステムのために運用されるN式という特殊潜航艇の操舵のために配属されてきた折笠達は、出港後に遭遇した米軍との戦闘で、N式の艇内に潜んでいた一人の少女の存在を知りました。

彼女はパウラ。
ドイツからこの伊507とともに送り込まれた人間兵器でした。
彼女は自らの身体をローレライシステムにつなぎ、周囲の状況に感応してレーダーとしての役割を果たすパーツだったのです。
ナチス・ドイツは、素質のある子どもに改造を施し、訓練して戦争につぎ込むということを行っていたのです。
狭い空間に閉じ込められていたパウラと、彼女を気遣う折笠は、次第に心を通わせていきました。

そんな時、二発目の原爆が長崎に投下され、パウラは“水”を媒介にしてその大量殺戮の衝撃を体に受けて、倒れてしまったのです。
東京では浅倉が暗躍し、無条件降伏を受け入れることを決めた軍の上層部と政府を批判し、彼に呼応した高須ら、伊507に潜んでいた浅倉の同志が行動を起こしました。
それは、クーデター___彼らは、この伊507とパウラ、ローレライシステムを手土産に米軍に投降し、戦争を終結させることを目的にしていました。
その一派は、かつて南方戦線で命がけの闘いをともに生き延び、今の日本に絶望した者ばかりだったのです。
しかし、現在の政府と軍の上層部を消し去って日本をリセットするために、浅倉が企んでいたのは東京への、三発目の原爆投下だったと知り、絹見艦長らは巻き返しをはかり、高須らを制圧し、その原爆を搭載した爆撃機を止めるためにテニアン島へと向かうことになったのです。

絹見は、この作戦が正規の命令ではないこと、ここで降りて日本の未来のために働くことも立派な軍人の務めであることを説き、本当に残りたいクルーだけを選びました。
パウラは自らの能力で、瀕死の高須の心を読み取り、爆撃機が飛び立つ時間を悟りました。
残された時間は短く、テニアン島の周辺には堅固な米太平洋艦隊がぐるりと取り囲んで守りを固めていたのです。
絶望的ですらあるその戦いに、絹見艦長らは真っ向から突っ込んでいきました。
彼らは、祖国日本を守り抜くことのみを是とし、身を挺してそのB-29の発進を阻止せんと闘いを挑んでいったのです。

みどころ

題材、テーマは太平洋戦争ですが、登場する潜水艦『伊507』をはじめとするそのインフラは架空のものであり、ファンタジーなテイストを含むSF的描写が多いです。
折笠らの回天搭乗員の制服(ゴーグル付きの帽子)や絹見艦長の着用している革のコートなどを含めて史実を重んじる人には受け入れがたいデザインかもしれません。
しかし、福井晴敏氏がこの作品に込めた思いは、戦後生まれの世代が___史実ではないものを巧みに織り交ぜながらも、当時の人々の想いを汲んで“忘れてはいけないもの”を呼び起こす…というものでした。
若手の役者はもとより、重厚な芝居で魅せた役所広司、國村隼、柳葉敏郎といった大人世代の士官のキャラクターの構築は、フィクションとは思えない素晴らしい出来栄えでした。
その中でも最大の、異色の存在は、ドイツ人(祖母が日本人というクォーター)の少女・パウラの存在です。

男ばかりの潜水艦の紅一点。
香椎由宇さんのクールビューティぶり、凛とした佇まいが素晴らしく。
撮影当時17歳ころでしょうか。
国籍不明な容姿と、シンプルなショートヘア、黒目がちな瞳がエキゾチックでとても素敵です。

ドイツから“特殊装備”の部品として日本に送り込まれた彼女と、戦争で家族を失い天涯孤独になってしまった折笠との、淡い恋。
小説版ではもう少し彼女の幼少期や、亡くなった兄の描写がありましたが、映画では匂わせる感じで深くは語られませんでした。
その分だけ、ミステリアスな雰囲気が増して、香椎版パウラのイメージが膨らんでいたと思います。
そして、彼らを取り巻いていた周囲の大人たちは、それぞれのイデオロギーはあったものの、思いは、危機的状況にある祖国日本の未来を切り開くのだということで一致していました。
東京に三発目の原爆を落とすか、それを阻止するか。

勿論、架空のお話ですが。
裏切りや、思いがけないリアリティを含めて、物語は密度を増してエンディングまで突き進んでいきました。
その中で、もう一つ、特筆すべきファクターがあります。
サウンドトラックを担当された佐藤直紀さんの素晴らしい音楽です。

日本人なら誰もが知っているはずの、「海猿」や「三丁目の夕日」のシリーズ、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」、近年では劇場版「コードブルー」や「マスカレード・ホテル」など。
物語の場面や心理描写をぐっと盛り上げる要素を担う音楽のクオリティが高く、本作でも戦闘シーンや緊迫した流れを後押しするパッショネートな音楽と、静かな決意を表すような沁みる音、パウラが歌う透き通ったアカペラとの対比など、効果的な音楽の使い方がされており、大変印象的でした。
ヘッドホンを使って視聴してみてください。
きっと、物語は頭の中で数倍に膨れ上がるはずです。

まとめ

意外性のあるキャラクターを演じていた人がいます。
大和田通信隊に殴り込みをかけた決起部隊の一人が、機動戦士ガンダムの生みの親である富野由悠季氏。
彼は、本作の翌年公開の「日本沈没」でも、京都の寺の高僧という役で登場しています。
意外なほど、画面に溶け込んで馴染んでいますので、チェックしてみてください。
そして「勿体ない」と思うキャラクターが一人。
田口掌砲長を演じていたピエール瀧氏です。

強面で、南方戦線を生き延びた歴戦の勇士でしたが、銀座のパーラーで働いていたこともあって、折笠に頼まれて、食事を拒むパウラにアイスクリン(アイスクリーム)を作って食べさせてやったという、優しい面も持っています。
「日本沈没」でも心優しい自衛官を演じていました。
彼を思うと、この時期にもそんなことがあったのかな、と残念な気持ちでいっぱいになってしまうのですが。
この田口掌砲長はとても魅力的なキャラクターで、今観直しても、より一層の凄みを感じます。

小説版とは異なるエンディングですが。
私はこの余韻を残したような終わり方がとても好きです。
さて、もう一つ。
潜水艦と役所広司、終戦工作___というと、今では観られる機会はほとんどない映画を思い出します。
「アナザー・ウェイ」という、トラベルミステリーの名手・西村京太郎さんの初期作品「D機関情報」をもとにした1988年の作品です。
主人公の帝国海軍中佐・関谷直人を役所さんが演じており、終戦工作の特命を帯びた彼がスイスに渡る手段として使用したのが『伊51潜水艦』だったのです。

その撮影当時、『伊51』として海上自衛隊の『なだしお』を使用していましたが、これは撮影後に遊漁船との衝突を起こしたとして知られている潜水艦です。
2001年に除籍されたため、登場は短いシーンでしたが、貴重な映像になりました。
この作品は原作が1967年に出版されたとは思えない、スタイリッシュでスケールの大きな映画でした。
DVD化されていないことが本当に残念ですが、いつかどこかで配信されないかな、と願っています。
もし、視聴できる機会がありましたら、「ローレライ」同様に心に留め置いて頂けると幸いです。

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