学生の頃、ラッキーカラーの靴下を履くのが日課だった。毎朝テレビでやっている短い占いで示されるあれである。身につけたからといって特段ツイていた記憶もないが、今思えば学生時代の可愛いジンクスだった。
もちろん毎日必ず該当の色を履けるかといえばそうでもなかった。そんな日は決まって遭遇する人がいたが、会いたくない人間かといえばそうでもなく、つまりツイてなかったなどというわけでもなかった。
ただ、思い返してみれば少し不思議な人物ではあった。遭遇するのは決まって占いに示された色の靴下ではない日だったので、三年間通ったうちでも数回だったが毎回場所が違ったのである。見た目が印象的だったのでよく覚えている。
「最後にはどこで会ったんだ?」
遭遇した人物の印象的な見た目を話していると、それまで黙って聞いていた友人はビールの入ったジョッキを置いて尋ねてきた。
最後に会った場所を思い出そうとして、ふと違和感を覚えた。学校の近くで見た姿、下車駅で見た姿、電車の中で見た姿。
「最後に見たのは下車駅なんじゃないか?」
その通りだった。言われてみれば徐々に学校に近づいてきていたような気がする。しかしすでに10年以上前の記憶だ。順番を前後して記憶しているかもしれない。そう考えると少し不気味ではある。
「俺の学校で、生徒が突然刺された事件があったんだよな」
友人の通っていた学校での傷害事件は、それほど近くない母校でも話題になっていた。
突如学校に侵入してきた不審者が女子生徒を刃物で襲ったのだ。白昼堂々のあまりにショッキングな出来事に詳細は伏せられていたため有りとあらゆる推測が飛び交ったが時間の流れとともに忘れ去られていった。
「じつは俺、あの時教室に居たんだよな」
突然の告白に飲みかけていたビールを溢しそうになる。なぜ今更そんなことを。
「ようやく意味がわかったんだよ。あの時犯人が言ってたこと」
取り押さえられた犯人は被害者に向かって恨みがましい声で繰り返し、お前のせいだ、と言っていたと友人は教えてくれた。
「ラッキーカラーじゃなかったせいだ・・・って」
※画像はイメージです。
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