働き方改革やダブルワークやテレワークといった、今まででは考えられなかった概念がクローズアップされていますが、かつての日本には会社に忠誠を尽くす企業戦士が多く存在していました。
その究極系となると、相当常識を超えた任務を強いられるようです。そんな「企業戦士」養成と活躍の物語がこの漫画、「マニュアル(作 狩撫麻礼 画 谷村ひとし)」です。
早いものでもう数十年も昔のことになりましたが、バブル景気にわいていた日本は、現在では考えられなかったような事業に巨費を投じる企業も多くありました、にも関わらず社員からの不満はあまり出てきませんでした。
・・・と、言いますのも給料から福利厚生まで非常に充実していましたし、終身雇用の考えが根強く、一生面倒を見て貰える雰囲気があったからだと思われます。
しかし一生面倒を見られるということは、常に会社は社員に指示を下せる、というわけで・・・
本作に登場する電機メーカー「DIGIX」の現場担当として、平凡に仕事をこなす深見四郎もその経歴を見込まれ、山中での軍事訓練を強いられることになります。
ボクシングでインターハイに出場し、今でも会社のバスケ部で汗を流していたとは言え、いきなりの「戦闘」の訓練に深見は当然戸惑います。
もちろん他の社員たちも戸惑い反発しますし、かつてはアラブゲリラをも訓練していたという教官たちも、一般人を超短期間でプロに仕上げろという命令に苦慮がにじみ出ています。しかし、巨大かつ同族経営で物騒な秘密を持つ「DIGIX」社としては、誰がどう考えても教官たちに任せればいいと考えるところに「優秀な社員」を使わなければ気が済まない。
しかもその「秘密」の内容が、自社のビデオデッキ「VH-777」の数パーセント以上に人の持つ超能力と呼応し、色々な映像が見えたりするという大規模かつ物騒な話なので、現場で「仕事」をする面々も大変です。
深見にしても戦闘訓練中に人を殺したと思い込み、人格が変質していく中で色々な「仲間」と出会い武器を調達していくわけですが、苦労に見合った報酬が入ってくる気配はありません。何しろ彼は「企業戦士」だけに、莫大な報酬や感謝を受ける立場ではないのです。
物語自体はその後、サイキックバトル的な様相も見せつつ、意外なラストにつながっていくのですが、本作は「やたらと軍事的な研修」、「上層部の不祥事のツケが現場に回りまくる」、「採算が取れなそうな事情に全力集中する社風」、「えげつない指示が連発され、しかも見合った報酬がない」等々。
当時ノリに乗っていた日本企業の暗部が目白押しになっている上、今風の軍事会社ではなく昔ながらのイメージに基づいた「傭兵」を社員の教育に、つまりは使い捨ての道具にするといった考え方も滲んでいます。
奇想天外かつ巨大なスケールの話を楽しむとともに、なぜバブルが崩壊し、いくつもの企業が倒れたのかが分かるという点でも有意義だと言えます。いずれにせよ本業以外に巨費を投じている上、無数のビデオデッキで不具合を出した「DIGIX」の前途は暗そうです。
(C) マニュアル 狩撫麻礼・谷村ひとし 徳間書店
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