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幽霊や妖怪に女性が多いのはなぜ?【民俗学で読み解く妖怪】

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あなたは心霊写真や心霊動画に映っている幽霊の大半が女性であることに、疑問を持ったことはないだろうか?

都市伝説でも「トイレの花子さん」や「口裂け女」など、女性の怪異ばかりが語られているし、妖怪にしても「雪女」や「山姥(やまんば)」など、やはり女性が多い。

幽霊や妖怪に女性が多いのはなぜなのか? 今回はその理由を、歴史や民俗学の視点から考察してみたいと思う。

目次

日本の幽霊や妖怪は女性ばかり?

幽霊と聞いて、長い髪をした白装束の女性を思い浮かべる人は多いだろう。その理由は、実際に心霊写真や心霊動画に映っている霊に女性が多いからではないだろうか。もちろん男性の霊も見かけるが、女性の霊と比べると、その機会は圧倒的に少ない。

都市伝説で語られる人型の怪異にしても、「トイレの花子さん」や「口裂け女」、「ターボばあちゃん」、「テケテケ」、「メリーさん」、「ひきこさん」などなど……やはり女性ばかり。近年話題のネット発の怪談を見ても、「八尺様(はっしゃくさま)」や「姦姦蛇螺(かんかんだら)」、「アクロバティックサラサラ」など、こちらも女性の怪異ばかりだ。

ちなみに、男性の幽霊で著名なものとしては「落ち武者」などが挙げられる。

江戸時代の幽霊と妖怪・平安時代の怨霊と物の怪

現代の幽霊や怪異に女性が多いことがわかったところで、少し歴史をさかのぼってみよう。

「幽霊」と聞いて足のない姿を思い浮かべる人は多いが、幽霊に足がないのは実は日本だけ。これは、江戸時代に「足のない幽霊画」が多く描かれたためと考えられている。

江戸時代は『四谷怪談』や『諸国百物語』などの怪談噺(ばなし)や怪談集が庶民の間で大流行し、浮世絵や草双紙(江戸時代における絵本)でも数多くの妖怪が描かれるなど、現代につながる幽霊・妖怪文化が花開いた時期だ。

■ 円山応挙 画『幽霊画(The Ghost of Oyuki)』カリフォルニア大学バークレー美術館所蔵
Maruyama Ōkyo, Public domain, via Wikimedia Commons

そんな幽霊画で有名な江戸時代中期を代表する絵師、円山応挙(まるやまおうきょ)の幽霊画を見てみると、これまたほとんどが女性である。怪談で有名な幽霊も、「お岩さん」や『番町皿屋敷』の「お菊」など、やはり女性。

妖怪には動物を模したものや、そもそも性別不詳のものも多いが……「雪女」や「山姥(やまんば)」、「女郎蜘蛛(じょろうぐも)」、「産女(うぶめ)」、「砂かけ婆」、「小豆婆」などなど、こちらも性別がわかっているものは女性ばかり。「ろくろ首」もほとんどは女性の姿で描かれているし、大妖怪「九尾の狐」の正体とされているのも、「玉藻前(たまものまえ)」という女性だ。

■鳥山石燕『画図百鬼夜行』(1776)より「姑獲鳥(うぶめ)」
Toriyama Sekien, Public domain, via Wikimedia Commons

「~男」とつく名の妖怪が非常に少ないように、妖怪もまた女性が多いことがわかる。しかし、歴史上、幽霊や妖怪の男はいなかったのかといえば、けっしてそんなことはない。

中世以前の日本では幽霊は「怨霊」や「物の怪(もののけ)」と呼ばれたが、「日本三大怨霊」とされる菅原道真・平将門・崇徳天皇はすべて男性である。その一方で、怨霊や物の怪の本場である平安時代を代表する文学『源氏物語』では、「六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)」や、夕顔に取り憑いた「いとをかしげなる女」など……フィクションの世界ではやはり女の霊が登場する。

妖怪でも、「~男」という名の妖怪は「山男」などごくわずかだが……「豆腐小僧」や「一つ目小僧」、「子泣き爺」、「百々爺(ももんじい)」など、子どもや老人の姿では男性の妖怪もいくつか見ることができる。また「青坊主」や「海坊主」、「輪入道」、「大入道」などにおける「坊主」や「入道」は、男性の僧侶を指すので、こちらも男性の妖怪と言えるだろう。

幽霊や妖怪に女性が多い理由は社会的マイノリティー(社会的弱者)だったから

ここまでを踏まえると、幽霊や妖怪、怨霊、物の怪になる人間は、次の3種類に大別することができるだろう。

  1. 恨みや憎しみを抱えて亡くなった者
  2. 社会的な地位の低い「社会的マイノリティー」
  3. 共同体の外に住む「アウトサイダー(異人)」

①はまさに典型的な怨霊のイメージとしてわかりやすいのではないだろうか。

菅原道真も平将門も崇徳天皇も、政争や戦に敗れ、悲運の死を遂げて怨霊と化した。落ち武者も似たような存在と言うことができるだろうし、男性の幽霊はこのカテゴリーに当てはまることが多い。

そして②の社会的マイノリティーこそ、まさに女性の霊にあたる。

古墳時代以降、日本では男性が権力を引き継いでいく父系社会が続き、女性の地位は長らく低かった。そのため女性は男性より劣った存在とみなされていたが、男性は同時に、「自分が恨まれている」、「いつか復しゅうされるのではないか」という……女性に対する罪悪感や差別感情に由来する不安を無意識のうちに抱えていたのではないだろうか。

「お岩さん」も「お菊」も非業の死を遂げた女性だが、その根本的な原因には、彼女らの社会的な地位の低さが根深く関わっている。そして子どももまた、成人男性と比べると権力の弱い社会的マイノリティにあたる。

日本において勝者や権力者は常に、①のような非業の死を遂げた「敗者」や、②のような社会的マイノリティーという「弱者」を恐れてきた。それは、日本には「恨みを残して死んだ者は怨霊となって災いを成す」という「怨霊信仰(怨霊思想)」が古くから根付いていたからだ。

ちなみに中国においても、「鬼(き・日本で一般的にイメージされる鬼とは違い、幽霊や怨霊のような怪異のこと)」はほとんどが女性で、とくに未婚で死んだ女性は鬼になりやすいと言われた。これは中国の家制度において、結婚しない女性は一人前の人間とみなされず、墓にさえ入れてもらえなかったからだ。

つまり、霊の正体とは、生きている者が生み出した「死者に対する恐怖」なのである。

【民俗学で読み解く妖怪】幽霊や妖怪に女性が多い理由

だが、③のアウトサイダー(異人)に由来する幽霊や妖怪は、①や②とは少々別のカテゴリーに属する。

「アウトサイダー」とは、都市や村落といった共同体、その他の社会集団の外側(周縁)に住む者たちのこと。民俗学(庶民の文化を研究する学問)では「異人」と呼ばれる存在だ。

たとえば、里に定住せずに、山を渡り歩いて狩猟採集生活を営んだ「山人(やまびと)」や「サンカ」。他には、稲作に必要な川を汚してしまうために人里離れた場所に住まわされた「たたら製鉄民」……また俗世間から出家する宗教者もまた、一種のアウトサイダーだと言えるだろう。

彼らは都市や村落に住む人々から、自分たちとは異なる「恐怖の対象」として見られ、差別された。それどころか、よくわからない存在であるがために、人知を超えた存在とみなされ、人間ではない怪人……魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類いとして扱われることもあった。
(もちろん人知を超えた力は、神の恵みと同様、共同体に幸福をもたらす可能性もある。そのため、共同体へやってきた「異人」はときに「まれびと」と呼ばれて、歓迎を受けることもあった)

つまり、男の妖怪である「山男」や「~坊主」、「~入道」とは、山人や宗教者というアウトサイダー(被差別民)を指していたのだ。また民俗学者の谷川健一は、たたら製鉄における職業病で片目を失った製鉄民こそが「一つ目小僧」の正体だと指摘している。

以上から、日本の歴史においては、社会的な地位の低い者や、共同体から差別を受けていた者が幽霊や妖怪になりやすかったとわかるだろう。そして、女性こそがその典型例だったのである。

現代は男女平等の社会だが、こうして歴史的に形成された「怪異といえば女性」というイメージが、現代の都市伝説や人型の怪異においても影響を与えているのではないだろうか。

これこそが、筆者の考える、幽霊や妖怪といった怪異に女性が多い理由である。

<参考文献>
赤坂憲雄『排除の現象学』(1995)
梅原猛『神と怨霊』(2008)
小松和彦(監修)『日本怪異妖怪大事典』(2013)
高岡弘幸『幽霊近世都市が生み出した化物』(2016)

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