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今だからこそ見ておきたい!「MASTERキートン」

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ちょっと緩めのスーツ姿に優しい笑顔を浮かべるその人「平賀・キートン・太一」は、考古学で身を立てる事を夢見る大学講師…が、時折姿をふらっと消しては世界の其処此処で起きる「ちょっとした一大事」を裏の裏まで探るとある保険会社の調査員。腕利きの探偵を思わせる鋭い観察眼から浮かび上がる中にはとんでもない事実と一緒に命のやり取りまで隠されている事も・・・。

どっこいそこは人が見た目によらぬもの、そんな時にはこの男、かつて英国の誇る特殊空挺部隊「SAS」において数々の武勲を立て、畏敬を持って「マスター」とあだ名されたもう一つの顔を表わします。

どれだけの多勢を敵に回そうが、絶体絶命の窮地に置かれようが必ず生きて目的を果たす、そんな男の「戦う姿」を、その戦い方を支える知識と技術の解説を盛り込みながらお楽しみ頂ける作品となっています。

本稿では原作漫画を元に作られたアニメ版を軸としてご紹介。1話完結型のシナリオで全39話の物語は、自然に囲まれた文物を相手取る考古学の視点を思わせる、丁寧なタッチで描き出される映像と牧歌的な音楽によって、ともすれば重々しくなってしまう世界観を軽妙でテンポ良く描き出しています。
舞台は2020年現在よりも少し以前、今に至る地続きの歴史を物語る物語から、何か見るべきものを感じ取る事があるかもしれない・・・そんな作品です。

目次

武装集団から砂漠(?!)、生き残る為に「戦う」勤め人!

3つの顔を持つ男・・・と言えば、何とも怪しげで謎めいた風体を思い浮かべてしまいそうですが、本作の主人公「平賀・キートン・太一」氏は基本的に真っ当な勤め人であり、良く言えば温厚篤実、悪く言えば少々風采の上がらない好人物。
考古学で身を立てたいという夢の為に大学で講師を務める傍ら、副業・・・のはずがその経歴を裏打ちする能力故に依頼主である某世界的大手保険会社の信任厚き故に、度々臨時休講となる講師業より引く手あまたな「保険調査員」を生業としている状況です。

しかしこの「保険調査員(オプ)」というのがかなりのクセモノ・・・保険と言えば「不正請求」リスクが世界の何処でも無くならず、増してキートン氏が扱うのは規模が違う世界のモノ。そう、彼にお声が掛かるというのは何処か怪しい影がある案件という事なのです。

例えば不審な「転落死」…事件性を証明する程の事ではないと形式的なものとして調査に向かってみれば、丸腰の人間相手には物騒過ぎる連中が受取人諸共に容赦無しの攻撃体勢で襲いかかって来る始末。しかしながらのキートン氏、慌てず騒がず状況確認、その観察眼と知識から素早く相手の実力と装備を見抜き、身に染みついた用心から「ちょっと拝借」していた接着テープや日用品で、その場にあった戦い方を見事に作り上げるのです。

後はその「マスター」とまで呼ばれた身体能力の独壇場、銃を持った相手であろうが的確に攻撃を加え、流れるように制圧していく様は正に圧倒的と言えるもの。
このような緊張感溢れる戦闘シーンはアニメ版ならではの見所と言って間違いの無い所であり、高い描画力と演出の妙味が高水準で噛み合うものとして一見の価値ありとなっています。この本作の持つ風情として、この緊張感溢れる戦闘と共に、種明かしとばかりの解決…戦闘で用いた知識や事件のあらましを軽快に、時に堂々たる姿でもって一篇の物語を仕上げるのです。

中には砂漠の只中に放り出されて絶体絶命の窮地に陥ったキートン氏が、その知識と能力、身につけた持ち物を総動員して切り抜けた姿を敵ながら賞賛するという作中屈指の名シーンも存在します。

「死なない為の、生き残る為の戦い」という、ある意味において最も困難な戦闘を丁寧な描写によって美しさすら感じる姿に描き出した本作は、ミリタリーというものの最も基本的な部分となる「戦う」という在り方を考える作品とまで言えるかもしれません。

考古学をライフワークとするオトコの「インテリジェンス」に注目!

本作の主人公「平賀・キートン・太一」氏の持つ3つの顔…考古学を志す学究の徒、畏敬を以て語られる伝説の特殊部隊員、その目で以て事実を確かめる調査員という、一見すると一人の人間を構成するにはかけ離れた異色の取り合わせに映る3つの要素が不思議に入り組んだ物語と見えます。
この3つの要素を整然とまとめ上げるのが、この作品の背景となる世界情勢と舞台である「20世紀末のユーラシア大陸」であり、その中を生きる人々自身の「歴史」です。

この2020年を遡る事およそ30年程…世界が東西二つのイデオロギー陣営に分かれて相争った時代が長い閉塞感を経てなし崩しに終わりを迎えようとしていた冷戦末期と言われる時期を舞台とする物語において、キートン氏が数々の武勲を打ち立てたのはその「熱い」部分となる幾つかの戦場であり、彼がその諜報上の知識や自らが経験した事情から察する事の出来る調査対象となる人々が織り為す「歴史」が、彼の直面する事件を構成するものとなっています。

既に起こってしまった事件が「何故」起こったのかと問わなければならない調査とは、風化して土に埋もれ、元の姿も定かでは無い遺跡を掘り起こして、かつてそれがどのような存在であったかを考える考古学のようであり、黙して語らぬものと向き合い、事件を形作る人の関わり、そしてその人々を形作る歴史と向き合う視点が、調査と考古学という二つの要素を静かに結びつけるものとなっていきます。

時には姿の見えない相手を捉える諜報戦の如き事件を扱う事もあるキートン氏ですが、それもまたインテリジェンス…残された手掛かりからその人物を形作るものが何であるのか、どう観察すればそこから答えへ辿り漬けるのかという「戦い方を組み立てる」一歩引いた場所からのミリタリーを描き出しているのもまた、本作の醍醐味と言える部分です。

制作から30年近い時を経て、今や「歴史的事実」となりつつある冷戦期の物語ですが、これらの問題が未だに現実の問題として浮き沈みを繰り返し、現在の世界を形作っているという事実も一方で存在します。
エンターテインメント作品という一歩引いた観点からこの「歴史的な物語」を眺めて、今に至るまでの物語へ思いを馳せてみるという楽しみ方が出来る時期になっていると言えるかもしれません。

今だからこそ、再評価の価値がある作品

最近では本作に限らず過去の名作に触れてその鮮烈な印象を記憶に焼き付けて成長したかつての少年が、主人公と同じかそれ以上の年齢となる事で、作品によって得た知識を実証するという例が見られるようになりました。
そうした大変興味深い結果をインターネットというツールで幅広く共有出来る時代となっている事もあって、知的探究心の前提知識を手に入れるという意味でも本作のような作品に触れる価値が高まっていると言えるかもしれません。

こちらの参考記事は3年前のエントリーですが、端緒や導入こそ馬鹿馬鹿しさによって「つかみ」を演出しているものの、その内容は実証実験として大変見応えのある結果となっており、本作が描き出している知識の一端を知る上でも一見の価値でありです。

なお、本稿ではアニメ版を軸として想定した紹介をさせて頂きましたが、原作漫画はアニメ版の元となった「MASTERキートン(現在は完全版が刊行)」の他、動物の生態をテーマとした「キートン動物記」、後年の追加エピソードとなる「MASTERキートン Re:MASTER」が発行されています。
知的好奇心をじっくり満たせる作品、ぜひお楽しみ下さい。

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ライターより一言
男には幾つもの顔がある…一見ちょっと気弱で頼りない、しかしその実態はどんな状況でもウィットに富んだお茶目さと知的好奇心を忘れない、そんな男にワタシもなりたい?ヒーローの夢破れたオトコノコが次に辿り着く…かもしれない「オトナのオトコ」像が此処にある、かも。

(C) MASTERキートン 浦沢直樹/小学館・VAP・NTV

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