2023年の現在でも先進国の中でほぼ唯一の拳銃所持が可能な国としてアメリカは存在しているが、乱射事件等の発生で州によって多少の制限はありつつも、その建国の精神にも関わる市民の武装する権利の主張は根強い。
そんなアメリカにあっても近年は拳銃市場もオートマチック型が主流となって久しく、軍隊や各種の法執機関においても装弾数が多く速射性に優れたグロック17の登場以来、その傾向はますます加速しているように見える。
但し自衛用の拳銃としては構造が簡素で堅牢であり、普段使用する機会の少ない層にも比較的扱い形式としてリボルバーのニーズも一定数残されているが、そんな定義には背を向けたかのうようなリボルバーもある。
初見でもかなりインパクトが強く武骨な外観が印象的なそんなリボルバーこそがマテバ モデロ6 ウニカ(MATEBA Modello 6 Unica)であり、ベレッタ社等と同じくイタリアの銃器製造会社・マテバ社が手掛けたものだ。
このマテバ モデロ6 ウニカ、1996年と比較的近年にリリースされた拳銃であると同時に、セミオートマチック形式を備えたリボルバーであり、独特のギミックが施されている点も大きな特徴となっている。
元々の本業は銃器製造ではなかったマテバ社
マテバ モデロ6 ウニカと言うあまりに特徴的で灰汁の強いリボルバーを世に出したイタリアのマテバ社ではあるが、実は1950年台にパスタ用の食品機器製造からスタートしており、2代目より銃器製造に進出した。
マテバ社は1970年台後半に先ず競技用の拳銃を手掛けるようになり、1980年に最初のモデルである22LR弾を使用する「MT1」を発表したのを皮切りに、1983年には38スペシャル弾8連発の「MTR8」を世に出す。
そして続く1986年に「MTR6」を発表しするが、この「MTR6」が後のマテバ モデロ6 ウニカのベースとなる拳銃であり、回転式弾倉の最下部にあたる部分から弾丸を発射する機構を採用していた。
これにより従来の回転式弾倉の最上部から銃身に続けて弾丸を発射する一般的なリボルバーとは一線を画し、後のマテバ モデロ6 ウニカにも続く事となるその特徴的なデザインが実現した事となる。
この意図は単にそれまでの常識を覆す奇をてらったものではなく、発射時の反動による銃口の上下を抑制する狙いがあったとされているが、その実用性については賛否両論があるようで直観的には使い辛かったとも言われている。
続いてマテバ社はこの「MTR6」の仕様弾薬を357マグナム弾に改めた「2006M」を発表、こちらがマテバ モデロ6 ウニカの直接的なベース・モデルとなったと言って良いだろう。
マテバ モデロ6 ウニカの仕様と概要
マテバ社は1996年から「2006M」をベースとした新型拳銃の開発を開始し、完成したものをマテバ モデロ6 ウニカを名付けて1998年より生産・販売し、同モデルから新たな機構としてオートマチック方式を組み込んだ。
マテバ モデロ6 ウニカのセミオートマチック機構は、1発目の弾丸を発射するとその反動を利用して上部フレームの一部が後退してハンマーをコック、同時にシリンダーも回転させ、2発目以降を連射可能としている。
これにより一般的なリボルバーでもダブルアクションによって可能ではあった連射が、一発目以降はより軽いトリガープルで発射可能となり、命中精度と速射性能が向上、リボルバーの信頼性に加わったと喧伝された。
マテバ モデロ6 ウニカはベースとなった「MTR6」同様に357マグナム弾/38スペシャル弾を始め、アメリカ市場をより意識して44マグダム弾、454スカール弾等の強装弾仕様もラインナップに入れて市場に投入された。
銃身も3インチから1インチ刻みで8インチ迄と8.375インチの7つが用意され、専用工具は必要となるものの所有者自身で交換が可能であり、銃身に関してはモジュラー化を当初より取り入れていたとも言えるだろう。
マテバ モデロ6 ウニカは6インチモデルで全長275mm、重量1.35kgとオートマチック機構等のギミックを組み込んだ事もあり、かなり大きく重く、更に部品点数も多い事から高コストとなり積極的な支持は勝ち得なかった。
結果マテバ モデロ6 ウニカは1998年の販売開始から6年で生産を終了し製造元のマテバ社も2005年に一度事業を畳んだが、2015年に再開され今もカタログ上には4・5・6・8インチの4種類が確認できる。
マテバ モデロ6 ウニカの特徴
マテバ モデロ6 ウニカの特徴は、
①リボルバーでありながらセミオートマチック形式を実現
②回転式弾倉最下部の弾丸を発射する
③7つの銃身を自身でも交換可能で、357マグナム弾以上の複数の強装弾に対応した点が挙げられる。
強いて挙げるならこれにプラスして回転式弾倉のスイングアウトの形式も独特であり、通常のリボルバー同様に銃の左側から可動するが、時計回りに上方に回転するようになっており、使いやすさと言う点では疑問も残る。
但しその様子も絵的にはマテバ モデロ6 ウニカの独創性を強く感じさせるものであり、実用性と言うよりもコレクターズ・アイテムとしての同銃の価値の向上には寄与していると言えるのかも知れない。
マテバの登場するアニメ
日本よりもアメリカを始めとする世界で好評を博した漫画原作のアニメ「攻殻機動隊」において、メインキャラクターの一人であるトグサが愛用する拳銃としてマテバはその知名度を上げた感もある。
トグサが使用するマテバは同じ「攻殻機動隊」であっても漫画・アニメ・映画等の個々の作品によって少しづつモデルが異なるようだが、この人気にあやかって日本ではマルシン工業がガスガン化を行っていた。
「攻殻機動隊」ではトグサ以外の主要メンバーは体の大半をサイボーグ化しており、作品世界でそれは「義体」と呼称されるが、その中で生身に近いトグサがアナクロなマテバを愛用するのはその暗喩ともなっている。
記憶に残る系の拳銃であるのがマテバ
マテバモデロ6 ウニカを代表するギミックである「オートマック・リボルバー」と言う機構だが、実は同銃が元祖ではなく、未だオートマチック拳銃が一般的ではなかった20世紀初頭には複数の開発例がある。
そうした中で最も生産されたものがイギリスのウェブリー=フォスベリー・セルフコッキング・オートマチック・リボルバーだと思われ、こちらは1901年からの15年程で5,000丁弱が製造されて流通した。
ウェブリー=フォスベリー・セルフコッキング・オートマチック・リボルバーは回転式の弾倉は中折れ式で、マテバモデロ6 ウニカと同様に反動を利用し上部フレームを後退させセミオートマチック方式を実現している。
但しオートマチック拳銃が全盛ではなかった時代でも、セミオートマチック形式のリボルバーはさほど評価されず、製造元のウェブリー社の騎兵向けと言う設計思想は、大きく重いというマテバ同様の理由で活かされなかったようだ。
マテバモデロ6 ウニカも商業的には決して成功したとは言えないのが実情ではあるが、その存在感は今後も長く語る継がれていく、つまり記憶に残る系の拳銃となる事は間違いないだろう。
featured image:LoCo CNC, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由
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