皆さんは臓器移植の経験がありますか?明日をも知れない身のレシピエントにとって、健康な臓器を提供してくれるドナーはまさに命の恩人といえます。今回は臓器移植が起こした不可思議なエピソードをご紹介していきます。
レシピエント クレア・シルヴィアに起きた奇跡
臓器移植の結果、死亡したドナーの記憶や嗜好がレシピエントに乗り移るケースは全世界で報告されています。
とりわけ有名なのがアメリカ在住の女性クレア・シルヴィア。
クレア・シルヴィアは重篤な原発性肺高血圧症、通称PPHを患い、手術をしなければ余命僅かと診断されました。
残された道はもはや臓器移植しかありません。
1988年、米国コネティカット州のイエール大学付属ニューヘイヴン病院にて、クレアに心肺同時移植手術が施されました。
手術は無事成功。病室で目覚めたクレアは、自分のドナーがバイク事故で死亡した、メイン州在住の18歳の少年と教えられました。プライバシー保護の観点から、それ以上の情報は知らされません。
手術から数日後、クレアは自分の嗜好や性格が変化しているのに戸惑いました。
以前は苦手だったピーマンやケンタッキーフライドチキンのナゲット、ビールが大好物になり、性格は物静かから活発に、歩き方は男性的な大股に様変わり。
さらには同性に惹かれ始めたのです。
決定打は夢に繰り返し現れる見知らぬ少年。少年のファーストネームは「ティム」といい、彼こそドナーであるとクレアは直感します。
その後自力でメイン州の新聞を調べ、ティムの死亡記事を発見。ティムの実家を訪れ、ドナーの家族と交流を持ちました。
両親曰く、生前のティムはアルバイトを三個掛け持ちしながら高校に通うほどエネルギッシュな少年で、油っこいファーストフードやビールが大好きだったそうです。
1997年、クレアは自身の不思議な体験をまとめたノンフィクション『記憶する心臓-ある心臓移植患者の手記-』を発売します。
クレアの身に起きた出来事を詳細に知りたい方は、ぜひこちらもチェックしてください。
運動嫌いのエリートビジネスマンの数奇な運命
ロバート・ウォールもまた、臓器移植で人生を変えられた一人です。
以前のロバート氏は自家用ジェットで世界中を飛び回り、様々なクライアントと交渉するエリートビジネスマンでした。
人生最大の目標は金儲け。もちろん運動は大嫌い、慈善活動に興味はありません。
勝ち組として多忙を極めるロバート氏ですが、ある時心臓に異常が発見されます。
アリゾナ州立大学で心臓移植を受けたのち、ロバート氏は突如として自転車競技や水泳の楽しさに目覚めました。
のみならず慈善活動にも積極的に取り組み、慈善団体に莫大な金額の寄付を行います。
ある日のこと。知らない曲を聞いたロバート氏は、俄かに強い感情をかきたてられ、涙が止まらなくなってしまいました。
後日、ドナーの正体を知ったロバート氏は全てに納得しました。ロバート氏のドナーは交通事故で亡くなった貧しい少年で、ロバート氏が涙した歌は、彼の一番のお気に入りだったのです。
高校中退した中年男が妻に美しいラブレターを
一際ロマンチックな例として取り上げるのは2001年に心臓移植をしたジム・クラーク。
寡黙で不器用な性格のジムは、妻への愛情表現を苦手としていました。最終学歴は高校中退、文章を書くのが得意とはお世辞にもいえません。
しかし手術後、ジムは突然ポエムを書き始めます。
ジムが執筆した詩は彼の学歴からは想像できないほど美しく洗練されており、生まれて初めて夫にラブレターをもらった妻は、大変感動したそうです。
のちにドナーの遺族から届いた手紙で、心臓の提供者の趣味が詩を書くことだったと判明しました。
「心臓の記憶」とは?医学界では以前から有名だった
実はドナーの嗜好がレシピエントに引き継がれる現象は、臓器移植の黎明期から、医療従事者の間で有名でした。
これは「Cardiac memory」、直訳すると「心臓の記憶」と呼ばれており、臓器移植後の記憶転移をさします。
手塚治虫の人気漫画『ブラック・ジャック』にも記憶転移を扱ったエピソード『春一番』が収録されていることから、ショッキングな題材として注目されていたのがわかりますね。
心臓の記憶が実際に存在するか否かは、医者の間でも意見が分かれています。
肯定派の代表的意見として取り上げるのは、臓器の神経線維に脳とは別の記憶のサーバーが構築されているとする見方。
心臓は宿主が事故で脳死に陥っても関係なく動き続けます。これは自動能、ならびに刺激伝導系と呼ばれる特殊な細胞の働きによるもので、血液の循環を司る心臓が独立した器官として見なされる理由です。
細胞記憶(セルメモリー)の研究は現在も継続中で、新しい発見が待たれます。
よりオカルトめいた意見を取り上げるなら、人間の外側のエーテル体が臓器を介し、他者の体内に移動したとする説が有力。
エーテル体はいわゆるオーラを意味し、普通の人間には知覚できない、特殊なエネルギーの集合体です。
一方否定派の学者は、大手術を経た人間の価値観が激変するのは正常なことだと断言します。
手術それ自体が心身に大きな負担をかける為、過度のストレスが影響し、嗜好が変化する可能性は否定できません。手術時に投与される免疫抑制剤も体質の変化を促します。
臓器移植に限らず、臨死体験を経た人間が別人の如く豹変した事例を思い出してください。
また、死者の臓器をもらったレシピエントはサバイバーズギルトを背負いがちです。
これは自分だけ生き残った、もしくは自分だけ生き延びてしまったなどの理由で人が抱く罪悪感をさし、事件・事故・虐待の生存者に多く見られます。日本では特攻隊の生き残りに顕著でした。
「他者を犠牲にし自分だけ生き残ってしまった」とレシピエントが思っているなら、自罰的感情が自己催眠を誘発し、体内に故人を蘇らせたとしても不思議はありません。早い話が偽造記憶です。
これには麻酔で朦朧としている時に、執刀医や看護師間で交わされた、ドナーに纏わる会話が影響しているかもしれません。
まだまだある!記憶転移を扱った作品
記憶転移をテーマにした小説・漫画・映画は広く世に出回っています。
エンジェル・ハート
北条司の『エンジェル・ハート』は一世を風靡した名作『シティ・ハンター』の続編。
とはいえ遼のパートナー・香が看護師だったり、一部設定が変更されていることから、パラレルワールドに近いでしょうか。
本作のヒロインは香の心臓を移植された元暗殺者の少女。勇敢で優しい香の心臓を宿したヒロインが養父・遼に見守られ、第二の人生を歩む姿が印象的です。
カリュウド
望月あきら・日向葵の『カリュウド』は死刑囚の心臓を移植された少年が、悪党どもを皆殺しにするハードボイルド漫画。暴力衝動が赴くまま、苛烈な復讐劇を繰り広げる主人公の生き様から目が離せません。
エリアの騎士
伊賀大晃・月山可也による『エリアの騎士』は、天才サッカー選手だった兄の心臓を移植されたのち、素晴らしいサッカーセンスに目覚めた弟の話。原作者の伊賀大晃は別名義で『MMR マガジンミステリー調査班』なども手がけています。
臓器に宿る記憶が人を生かす
以上、臓器移植をきっかけに嗜好や性格が変化したレシピエントの実例を紹介しました。
記憶転移の原理はまだ解明されていませんが、死者の記憶が良い方向に作用するなら、生まれ変わった気持ちで新たな事にチャンレジしてみるのもいいかもしれませんね。
※画像はイメージです。
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