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旧ソ連製の戦闘機 MiG-29

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MiG-29は現・ロシアが旧ソ連だった頃の1970年代、当時の東西冷戦の最中に最大の仮想敵国であるアメリカが、F-14トムキャットやF-15イーグル等の所謂第四世代戦闘機の開発を進めていた事に対抗すべく開発された。
昨今MiG-29と言えば、2022年2月24日に生起したロシア・ウクライナ戦争において、ロシア空軍の圧倒的な戦力を相手に回し、ウクライナ空軍が何とか手持ちの同機で航空作戦を行っている報道をよく見聞きする。

このロシア・ウクライナ戦争においては、ロシア空軍の戦力はウクライナ空軍のそれの凡そ10倍以上とも言われており、どう考えても真っ向からウクライナ側が対称戦を挑んで戦果を挙げる事は難しい状況が続いている。
こうした状況を打破すべく、ウクライナ側はアメリカを始めとする西側諸国にF-16ファイティング・ファルコンの供与を強く求めてきたが、戦闘機の運用体制の構築には莫大な費用と労力が必要な為、2023年末時点でもまだ実現していない。

その為、MiG-29は未だウクライナ空軍を支える主力戦闘機として活用されてはいるが、その戦果はウクライナ側の戦意高揚の為のプロパガンダの域を出ないと一般的には見做されているのが実情であろう。
ここではそんなMiG-29について、どのような戦闘機であるのかを今一度振り返って、端的に紹介して見たいと思う。

目次

MiG-29の開発経緯

MiG-29は、2023年末の現在では公共株式会社ロシア航空機製作会社MiGとなっているが、1970年代には旧ソ連邦の航空機開発を担う部署であったミグ設計局において設計・開発が行われた戦闘機である。
1970年代のアメリカでは所謂第四世代戦闘機のF-14トムキャットやF-15イーグル等の新型機を投入しており、これらの機体に対して互する制空戦闘を行える性能を持った新型戦闘機の開発が急がれる事となった。

そこでミグ設計局では1972年よりMiG-29の開発に着手、5年後の1977年には試作機を初飛行させる事に成功、更に細かな点の修正を加えて1982年より量産化を始め、翌1983年から空軍に実戦配備が行われる。
開発を通じてミグ設計局はMiG-29の大量受注を企図していたが、同時期に現在の公共株式会社スホーイ・カンパニー(当時はスホーイ設計局)が開発を行ったSu-27系統の機体をロシア軍では主力戦闘機に採用した。

MiG-29はSu-27系統と比較すると全体としての性能自体は劣るものの、大量受注を意識し単価の面で優位な立場ではあったがが、当時のソ連軍では多少単価が嵩んでも総合的にコストパフォーマンスに優れると後者を選んだと言われている。
アメリカ空軍が高価なF-15イーグルとその当時は安価で軽敏なF-16ファイティング・ファルコンの2機種をハイ&ロー戦略で採用したのと異なり、旧ソ連が量より質を重視したと言うのは逆説的なものすら感じさせられる。

MiG-29の仕様やスペック

MiG-29はSM型の場合で全長が17.32メートル、全幅が11.36メートル、全高が4.73メートル、最大離陸重量が20,000キログラム、最大速度がマッハ2.25、航続距離が増槽未使用時には1,500キロメートルとなっている。

機関部には当時のクリーモフ設計局の手によるRD-33型ターボファンエンジンを2基搭載し、推力は合計で16,600キログラム、その運用寿命は未改修時には凡そ2,500時間程であり、兵装搭載用にハードポイント6基を備えている。
これらハードポイントに懸架される各種のミサイル以外に、固定武装としては30mmの航空機関砲・GSh-30-1を1基搭載しており、これはMiG-29に限らず1980年代以後に生産された旧ソ連・現ロシアの戦闘機の標準装備となっている。

前述したようにMiG-29はこれらの兵装や燃料などの搭載量の点で、より大型のSu-27系統の機体に大きく劣り、運用上の観点からは作戦行動範囲、遂行可能な任務の狭さから自国の主力戦闘機足り得なかったと言える。
こうしたMiG-29の特性は小型機故の機動性の良さには繋がったものの、単機で多様な任務を遂行するマルチ・ロール機としては不十分で、行動範囲を限定した局地戦闘機的な運用しか想定されていなかったと思われる。

旧ソ連時代の末期の1980年代には、同国は深刻な経済状態に置かれており、Su-27系統の機体とこのMiG-29とを状況に応じて運用する体制を敷く事は困難であり、前者の後塵を拝してしまったと見做されている。
但し現在ではSu-27系統の機体に水を空けられた形のMiG-29だが、量産開始直後は価格の安さも相まって当時のワルシャワ条約機構加盟国を始め、アフリカやアジアの新興国にも少なくない数が輸出された。

MiG-29とその主な派生型

MiG-29は本国である旧ソ連邦用の基本型が正式にはMiG-29 «9.12»となっており、同機はNATO側の識別名ではフルクラムAと呼称され、同機の全ての機体の大元となったものとして認識されている。
MiG-29 «9.12»フルクラムAは、当時のワルシャワ条約機構加盟国向けにはMiG-29 var.A «9.12A»として輸出されたが、本国仕様よりも意図的に性能を抑えたモンキー・モデルと考えられている。

このMiG-29 var.A «9.12A»を保有・運用していた東ドイツは1990年に西ドイツとの統合を果たし、保持していた20機の同機をMiG-29GとしてNATO統一規格に合わせた改修を施し運用を続けた後、ポーランドに売却した。
またウクライナでも近代化改修を施した機体をMiG-29 «9.12M»として2008年より運用しており、正確な保有機数は不明だが、今のロシア・ウクライナ戦争でも投入されている貴重な機体となっている。

NATO側でMiG-29 «9.13»フルクラムCと呼んで識別されている派生型もあり、こちらは燃料タンクの大型化で航続距離を延伸すると共に、防御面で電波妨害装置が実装された機体とされている。
更にMiG-29MフルクラムEと呼称される派生型も存在し、これは空対空ミサイル等の兵装搭載量を増加させ、且つ誘導爆弾の運用も可能にしたバージョンで、これを発展させたMiG-35フルクラムFも登場している。

MiG-29による実戦キーフの幽霊

2022年2月24日から始まったロシアのウクライナ侵攻において、電撃的に3方向からウクライナに攻め込んだロシア軍の前にウクライナ側は劣勢を強いられ、当時多くの西側のメディアも首都・キーウが早期に陥落する可能性を報じた。
そんなウクライナ側の劣勢が伝えられる中、開戦より凡そ30時間と言う短い時間でウクライナ空軍のMiG-29がロシア航空宇宙軍の各種の戦闘機や戦闘攻撃機を6機も撃墜するという大戦果を挙げたとするニュースが出回った。

これはSNS上でウクライナ空軍の一人のMiG-29パイロットが、ロシア航空宇宙軍のSu-35戦闘機、Su-25攻撃機を各2機、Su-27戦闘機とMiG-29戦闘機を各1機で合計6機も撃墜する事に成功したいう主張が拡散されたものだった。
この大戦果を挙げたとされたウクライナ空軍の一人のMiG-29パイロットには、キーウの幽霊なる渾名が冠され、ウクライナの窮地を救う救国の英雄であるとの同国政府関係者らからの喧伝がなされた。

但しSNS上にキーフの幽霊の空中戦を撮影したものとして公開されていた動画は、検証の結果ゲームを用いたフェイク画像である事が判明、投稿者自身もそれを認めた事でキーフの幽霊の存在自体も今では否定されている。
しかしこのキーフの幽霊は非情な国難に直面したウクライナ国民に対し、その士気を高揚させた事は間違いなく、情報戦と言う観点からはロシアのお株を奪うだけの貢献を果たしたと見る事も出来よう。

MiG-29の評価

戦闘機としてのMiG-29の評価は、今日的な所謂第四世代機の中にあって決して戦闘力が高い機体だと言うのは適切ではないと思われるが、ロシア・ウクライナ戦争においては貴重なウクライナ空軍の戦力のひとつだろう。

殊に旧ソ連のミグ設計局はMiG-29を設計するに際して、敵の攻撃に晒される可能性のある最前線でも運用を想定し、設備が整った滑走路に限らず、一般の舗装道路等からも発着陸が可能なく工夫を施した。
この点がロシア自身が対戦する事となったウクライナ空軍でも活かされたという事実は、実に歴史と言うもののある種の皮肉さを現す逸話として、戦史の中で語り継がれていくのではないかと個人的には思えている。

featured image:Doomych, Public domain, via Wikimedia Commons

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