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見てはいけない祭り

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中国地方のとある離島に、奇妙な祭りがある。誰も見てはいけない、という祭りだ。
「祭りが始まる少し前になると、村役場から有線放送が流れて来るのよ。でやんなよ~、でやんなよ~、って。でやんなよ、っていうのは、家から出るなよという意味の方言だわね」
私にそう教えてくれたのは、青沼さん(仮名)という60代のマッサージ師の男性だ。

青沼さんは、公務員だった父親の仕事の関係で、幼い頃の一時期、その離島に住んでいたという。
青沼さんの話によれば、祭りの中身はとてもシンプルだ。島で一番古い神社の神主が従者を伴い、海沿いのほこらへと向かう。ほこらには、半年前の神事で造られた酒が石甕で奉納されており、神主はその酒の醸成具合いを見て、一年の作物の豊凶を占うのだという。

「でも、詳しいことはよくわからないのよ。だって、見ちゃいけないんだから。祭りの時、神主の姿を見たら祟りがあるって言われとるの。見たら、目がつぶれるって。見られないんだから、中身もわからんわね」

青沼さんはそう言って、さもおかしそうに笑う。
若い島民の中には、祭りに何の興味も持たない人も多かったというが、それでも、祟りを恐れてなのか、みんな、祭りの時間はちゃんと家にこもっていたという。

「我が家もそうでね。家中の窓は全部、雨戸とカーテンが閉められていて。一度、私がこっそり外を覗こうとしたら、親父に怒鳴られたことがあってね。
『祟られるぞ、この罰当たりめが!』
って、そりゃもうエラい剣幕で」

青沼さんの父親は、窓にガムテープで目張りまでし、青沼さんが外へ飛び出さないよう、ずっと腕を掴んでいたという。

「でもね、私は悪ガキだったから。見るなって言われたら、どうしたって見たくなるでしょう」

そんな青沼さんにチャンスが巡って来たのは、島に来てから三年目のことだった。
この年の祭りの日、父親はたまたま出張で不在だった。おまけに、母親は前日から風邪で寝込んでおり、祭りが始まった時はぐっすりと眠っていた。

「ワクワクしたよ。ついに祭りを見られるぞと。さぁ、幽霊でも妖怪でも何でも出て来いという気分だったわね」

青沼さんは右手に持った杖で床をコツコツと叩きながら、その時の興奮を思い出しているかのように、回想語りを続けた。

『でやんなよ~、でやんなよ~』

夜になり、島中に有線放送が流れて来た。青沼さんは窓のカーテンを少しだけ開けて、その隙間から、神主が歩く様子をついに見た。
「白装束の神主が、祝詞を唱えながら歩いている。その後を従者が二人、顔を伏せたまま着いて行く。ただそれだけ。幽霊も妖怪もいない。正直、拍子抜けだわね」
だが、その時、青沼さんはふと疑問に思ったという。

「島の夜は暗いのね。都会と違って街灯が少ないから。なのに、その時は神主たちの顔がはっきりと見えたの。あれっ、どうしてだろう? と思ってね」

青沼さんは何気なく視線を空に向けた。そして、ハッと息を飲んだ。
「満月がね、大きかったの。異常な大きさだったの。ありえないくらい、大きかったのよ」
青沼さんは、まるで吸い込まれたかのように、その巨大な満月から目が離せなかった。
煌々と光る真ん丸い月を眺め続けていると、いつの間にか目の前が真っ白になり、次に気が付いた時は布団の中で朝だったという。

「その年限りで親父がまた転勤になって、島から引っ越し出たのね。それきり、あの島には一度も行ってないよ」
私は青沼さんに、何か祟りはあったんですか? と一番気になることを尋ねてみた。すると、青沼さんはニヤリと笑って答えた。

「目がね、つぶれたんだよ」

祭りの数日後、青沼さんは近所を自転車で走行中に転倒した。不運なことに、倒れた顔の真下に尖った石があった。 それ以来、青沼さんは目が見えなくなったのだという。

「今でもね、まぶたの裏側に、あの日の満月と神主の顔が、しっかりと焼き付いているんだわ」
青沼さんはそう言いながら、掛けている真っ黒いサングラスのレンズを、指でトントンと叩いてみせた。

ペンネーム:月の砂漠
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※画像はイメージです。

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