あなたは近年流行っているモキュメンタリーをご存じですか?この分野は特にホラーと相性が良く、現在進行形で数々の名作を生みだしています。
今回はモキュメンタリーの解説と国内外のモキュメンタリー作品の中から厳選したおすすめを紹介します。
モキュメンタリーって何?
モキュメンタリー(mockumentary)は映像作品の一ジャンルで、フィクション作品をドキュメンタリー仕立てで撮影する手法です。
語源は擬似を意味する「モック」と「ドキュメンタリー」を掛け合わせた造語。
日本ではフェイクドキュメンタリーの名称の方が馴染が良いかもしれません。
モキュメンタリー作品の特徴はリアリティを追求した虚構であること。
ドラマや映画、小説の場合は読者へのフェア精神を鑑みてモキュメンタリー作品である事を銘打って公開されるケースが多いです。
しかしそれで恐怖が損なわれることはなく、かえって真偽の境目があやふやになる不気味さを楽しめます。
表現方法としては既存のドキュメンタリーと酷似しており、撮影者の一人称視点や関係者へのインタビューが多用されます。
発祥は1938年のオーソン・ウェルズ原作ラジオドラマ『宇宙戦争』とされており、架空のニュースを真に受けてパニックに陥るリスナーが続出しました。
映画界では1950年代に源流が遡れます。
モキュメンタリーの金字塔映画『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』
モキュメンタリーのジャンルを一躍世に知らしめたのは1999年のアメリカ映画『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』。
これは架空の魔女伝説を下敷きにしたドキュメンタリーで、謎多き森に迷い込んだ大学生一行が遭遇する恐怖を描いています。
原則撮影者の一人称視点で進行し、生々しい表情や臨場感を生み出すのに成功しました。
今もってモキュメンタリーの代表作として名前が挙がる、革命的な映画です。
本作は6万ドルの低予算・少人数で制作されたものの、最終的には興行収入1億4000万ドルをこえる大ヒットを記録。のちに続編やスピンオフのゲームも作られています。
ショッキングな脅かし演出よりも夜の闇の不気味さやフィジカルな焦燥を前面に押し出しており、撮影者たちと一緒に歪んだ空間をさまよっている気分になれるのがポイント。
『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』成功の背景にはインターネットやテレビと連動した特別番組の存在もあり、断片的な情報を繋ぎ合わせた考察を好む、オカルトマニアに受け入れられたのも大きいです。
ちなみに『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』はファインドフッテージの系譜にも属しています。
これは「失踪者の遺した映像(ビデオ、写真など)がその後第三者によって発見される」物語の形式で、代表作はスコット・デリクソン監督、イーサン・ホーク主演の『フッテージ』です。
伝説のフジテレビドラマ『放送禁止』
『放送禁止』はフジテレビ系列で2003年から不定期放送されているモキュメンタリーシリーズ。2008年には劇場版も公開されている隠れた人気作です。
本作のコンセプトは「ある理由で放送禁止となったVTRを再編集し放送する」こと。日本におけるモキュメンタリー番組の先駆けとなった作品であり、あまりのリアルさから「本当にあった事ではないか?」「不謹慎だ」と視聴者から苦情が殺到しました。
企画と構成、演出には『奇跡体験!アンビリーバボー』に携わった長江俊和が関わっており、上記番組に投稿された実在の心霊写真が、小道具として流用されたりもしています。
基本一話完結で毎回扱われるテーマは異なり、呪い・心霊系からストーカーや隣人トラブルのヒトコワ系まで幅広いです。
中でも出色の出来なのが『ある呪われた大家族』『しじんの村』。
前者は大家族ドキュメンタリーの撮影中に起きた痛ましい事件を、後者は新興宗教の信者が暮らす閉鎖的な村の実態を描き、衝撃的な結末が戦慄をもたらしました。
『放送禁止』シリーズはただのモキュメンタリーにとどまらず、映像内に伏線を巡らしたミステリーとしてもクオリティが高いと評価されています。
『放送禁止』シリーズはポニーキャニオンからDVDソフト化されている他Amazonプライムでも視聴できます。ノベライズも出版されており、こちらも面白いです。
姉妹作『出版禁止』は内容のやばさ故に出版禁止になった原稿を取り扱ったモキュメンタリーノベルで、著者・主人公は長江俊和自身です。
本作にて長江は『カミュの刺客』と題された謎の原稿を手にします。そこに語られていたのは著名なドキュメンタリー作家と心中したものの生き残った女性、新藤七緒の独占インタビュー。
しかし七緒の証言はどんどん予想外な方向に転がり出し、長江を事件の渦中に巻き込んでいきます……。
『放送禁止』よりミステリー要素を強く押し出しているのが特徴で、あちらとはまた違った恐怖が堪能できます。ファンならぜひ押さえてください。
モキュメンタリーホラーの傑作!読者が皆騙される『忌録: document X』
書籍のモキュメンタリー代表作といえば阿澄思惟の『忌録: document X』。
タイトルは記録とひっかけています。
本作は実際に起きた事件記録の体裁をとり、神社で発生した神隠しの顛末、旧家で発見された書簡から始まる宗教団体の恐怖、フロッピーディスクに保存されたライターの原稿の真実、更新停止した女性のブログから垣間見える事故物件の心霊現象を語っています。
本作の実験的取り組みとして挙げられるのは、YouTubeなどの映像メディアを併用している点。
「事故物件在住の女性が撮った証拠映像」と銘打ち、その動画をわざわざYouTubeにアップする徹底ぶりには脱帽しました。
何も知らない人間にはただの部屋を映した動画にしか見えませんが、この映像が撮られた経緯、または見落としてしまいそうな僅かな変化など、予備知識を入れておけばぞくりとします。
リアリティを補強する為差し込まれた写真や資料も多大な説得力を持ち、「本当にあったことでは……?」と疑ってしまいます。
『ゾゾゾ』の皆口氏が監修を務める『フェイクドキュメンタリー「Q」』
最後に挙げるのは現在YouTubeで注目を集めている『フェイクドキュメンタリー「Q」』。
こちらは登録者数74万人を誇る人気YouTubeチャンネル、『ゾゾゾ』のスタッフ・皆口氏が監修を務めるモキュメンタリーチャンネル。監督は寺内康太郎氏で全12話が予定されています。
基本的に一話完結で進み、それぞれ扱われるテーマも異なります。
山で迷ってソロキャンプをした女性の恐怖体験、認知症の姑が消えた空き家に存在する無数の鏡、一人暮らしの男性のアパートに毎回置かれる献花の謎など、どれも「一体あれはなんだったんだ?」と視聴者の想像をかきたてる不気味な余韻がたまりません。
『ゾゾゾ裏面』の「捨てられた心霊写真」のエピソードが好きなら必見。
全話の共通点として明解な回答は提示されず、視聴者に考察の余地を託して終わるので、SNSや有志のブログで情報収集し補完する楽しみがありますね。
個人的なおすすめは『オレンジロビンソンの奇妙なブログ』。
ハンドルネーム・オレンジロビンソンを名乗る映像プロダクションのアルバイトが、奇妙な写真の加工依頼を受けた事から、徐々に病んでいく様子が綴られています。
YouTubeで無料で見れるので、興味がある方はぜひご覧になってください。
まとめ
以上、モキュメンタリーホラーの傑作をご紹介しました。
フィクションだとわかっていても怖いものは怖いのが人情。
あるいはフィクションと銘打たれてるだけで、実話の可能性も否定しきれないと嫌な想像が働きます。
最先端の恐怖を体感したい方は、虚実の境が曖昧なモキュメンタリーホラーの世界に踏み込んでください。
※画像はイメージです。
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