今からおよそ35年ほど前、母が中学生の時のことでした。
母は放課後、近所の友達の家へと歩いていました。
その日は夏のとても暑い日で空には動脈のような色のどんよりとした夕日が浮かんでいたのを、今でも鮮明に覚えているそうです。
母はそんな夕焼け空の下しばらく歩いていると、ある曲がり角に差し掛かったのですが、そこには得体の知れないものがありました。
それは全身真っ黒で、人間そっくりのシルエットをしていました。母の表現を使うと、それは「とんねるずのもじもじ君」という、全身黒タイツをまとったキャラクターのようだったそうです。
しかし、もじもじ君と異なる点は、顔まで真っ黒で目鼻口などの凹凸が感じられないほど立体感に欠けていたことでした。
母はその黒いものを見た瞬間、驚きのあまり声をあげました。なぜなら、その黒いものは足音をまったく立てずに接近してきたため、母は曲がり角でその黒いものと対面することを予期できず衝突しそうになったからです。その上に、それは不気味な姿をしていたからでした。
一方で、その黒いものも母と鉢合わせになることを予期していなかったのか、母と同様に驚いたようなジェスチャーを示したそうです。
数秒間、母と黒いものははお互い見つめ合うような形で硬直しました。
そしてその後、その黒いものは踵を返して、近くの路地裏へとヒョロヒョロと走り去っていったそうです。
その後、母はすぐ家に帰ろうかとも思いましたが、勇気を振り絞って行くつもりだった友達の家へと行きました。すると既に集まっていた友達グループはある話題で持ち切りになっていました。
それは近所の若い男性が自殺を図ったという話でした。
母はその話を聞いてハッと思うことがありました。自殺をした若い男性の自宅はまさに、さっき見た黒いものが逃げていった路地裏に面した場所にあったそうです。
その黒いものと男性の自殺に因果関係があるのかは確認できません。しかし男性の自殺と母がその黒いものを目撃したタイミングや場所には一致があります。
ひょっとしたらそれらの一致は何かを表しているのかもしれません。
いずれにしても、その黒いものが母に対して「驚く」、「逃げる」といった動揺を示していたことからして、そのものは、自分自身が「黒いもの」であることにあまり慣れていないような印象を受けます。
そう考えると、その黒いものが実際に「死んで間もない存在」であったという可能性はあり得るかもしれません。
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